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「夢幻世界で別人になり、現実を忘れたい」人たちの話

「私はワクワクする人生を送っています」

こんにちは。小田恵美子(@mi_dorino)です。

久しぶりにTwitterのDM(ダイレクトメッセージ)で、見知らぬ人からネットワークビジネスの勧誘が来ました。

丁寧な挨拶で反応を見つつ警戒を解かせる→
読み手に豊かでワクワクする未来を提示。想像を掻き立てる→
芸能人もやってるし主婦もやってる。素人のあなたでもできる!

大体このような感じで、読み手の感情を揺さぶる事を意識した流れるようなセールスレターだったので、なかなか勉強になりました(キャプチャしておかなかったのが悔やまれます)。

ちなみに「私はワクワクする人生を送っています。本業で8ケタの収入があります。さらに副業でも収益を得て豊かな生活をしています」と書いてあったのですが、残念ながらTwitterの投稿内容から「豊かでワクワクする人生を送ってる感」が全く出ていなかったです。

それで不意に、15年以上前に「ぱどタウン」というサイトで「20代で、バンドデビューを目指すフリーター男性」に遭遇したのを思い出しました。

「ぱどタウン」とは、ネット上にバーチャルな自分の部屋を作り、そこに設置した掲示板で既知・未知を問わずいろんな人と交流するサイトで、SNSのハシリみたいなものでした(2017年にサービス終了)。

どういう経緯で「20代のバンドマン男性」と交流することになったかは忘れましたが、覚えているのは、彼のメッセージが見るに堪えない文章だったことです。

余りに荒い文章なので「言葉遣いがひどすぎて、メッセージのやり取りをしたくありません」と返したら「ひでぇ? そっすかねー」みたいな軽い返事が来ました。

「20代のバンドマン男性」と「60代の女性」

それで終わりかと思ったら、終わらなかったです。

後日、「20代のバンドマン男性」から長い長いメールが届きました。
そこには「本当は、自分は60代の女性です」と書いてありました。

当時のメールに書いてあったことを要約すると、

「20代男性のキャラクターを作り、バンドデビューを目指すフリーターのフリをしているうちに、3畳の風呂なしアパートに住むミュージシャン志望の若い男性の気分を味わえた。

全く別の人生を体験している気持ちになれた。現実を忘れられた。だから『ぱどタウン』の中ではいつも、プロのミュージシャンを夢見る20代の男性フリーターとして振る舞うようになった」

というような内容でした。

先のバンドマンと同一人物が書いたとは思えない非常に丁寧な文面で、「これを同じ人間が書いたとは思えない」と驚いたのを覚えています。文面から伝わってくる印象が、まるで別人でした。

しかしそのメールに返事はせず、無視しました。「別人のフリをする人の気持ち」は、当時の自分にはまったく理解できませんでした。

・・・いや、正直に言うと、今でも「別人になりたがる人の気持ち」は理解できないです。ただ、想像はできるようになりました。その後、別人のふりをする人たちをリアル・バーチャル問わずあちこちで見かけるようになるからです。

「夢幻世界で別人になり、現実を忘れたい」

コスプレイヤー(アニメや漫画のキャラクターの恰好をする人)は「自分とは別の人間になった気になれるのが楽しい」そうですが、彼らを「リアルなコスプレイヤー」とすると、ネット空間で匿名の仮面をかぶって別人格になる人たちは「バーチャルなコスプレイヤー」です。

更に「リアルなコスプレイヤー」人口の多さを見るに、リアルより敷居の低い「バーチャルなコスプレイヤー」人口が少ないとは思えません。「現実の自分とは別の人間になりたい」というニーズと「匿名・顔出し無し・バーチャル空間」の親和性は非常に高いでしょう。

暗黙の了解でありながら、意外と忘れがちなことですが、ネット上で匿名人物の自己紹介や投稿内容に本当のことが書いてある保証は全くありません。私たちはこれを常に頭の片隅に置いておく必要があります。

「夢幻世界で別人になり、現実を忘れたい」人たちは、私が見てきた限りではとても多いです。

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