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クウェートから来た車椅子の女の子──東京街歩き綴り

仕事の案件が確定すると、国際電話の番号でどこの国から来たお客さんなのかだいたい予測できるのだが、年齢や性別は分からないので、会うまでどんな人か分からない。必ずメールで事前に挨拶するのだが、名前を見ただけでは性別が分からないので、Mr.をつけるかMs.をつけるか最初は戸惑っていた。何度も間違って「これは失礼すぎる!」と思ったので、もう、日本語の「さん」を使って「-san」として書くことにした。日本語ってそういう文脈では便利な言語だ。

ある日、案件が決まると中東のクウェートの国際電話の番号だった。石油王?かなとちょっとステレオタイプな反応をして、ワクワクしていたのだが、名前からして、ちょっと強そうだったので勝手に50〜60代男性だと思っていた。すると、当日現れたのは20代のプリンセスみたいな漫画家志望の女の子だった。車椅子であることは事前に知らされていたので、2日前くらいに日本タクシーの介護の資格を持っているドライバーを1日押さえた。本当は彼女が地下鉄を体験したいと言っていたのだけど、私が車椅子ツアーを担当するのが初めてだったので、介護タクシーを雇ってしまったのだ。今思えば申し訳ない。今は、タクシーなしでもJRやメトロだけでツアーをできる自信がある。しかし、当時は失敗したくなかったのでタクシー移動のみにした。

彼女は「日本の庭園ツアー」に申し込んでくれていたので、季節の草花が鑑賞できる庭園めぐりの旅程を組んだのだが、明治神宮、根津美術館の庭園、上野公園のぼたん苑、旧古河庭園を巡って、振り返ると一番喜んでいたのは明治神宮の森林スポットを歩いたときと上野公園のぼたん苑を出た後の木々の間を通り抜けた瞬間だった。(途中、彼女の車椅子のネジがいくつか吹っ飛んで、ホームセンターに駆け込んで店長さんに「これと合うネジを…」と一緒に探してもらったのもいい思い出だ)

クウェートは森がないので、広々とした場所で自分の身長の何倍もある木を見ると感動するのだそうだ。私は作り込まれた日本庭園、特に季節の花が見られる場所に連れて行ったのだが、それは失敗だったらしい。「あなたは花が好き見たいだけど、私は木が好きみたいね。でも嬉しかったわ」と最後に言われて、わーっ!彼女はただ広い公園をのびのびと歩きたかったのか……!と気づいた。が、手遅れだった。

彼女は漫画家志望で、中野の漫画教室に行ったり、日本の好きな漫画キャラクターのグッズを集めたり…とここ数日の東京滞在を満喫していた。どんな出版社に送ったらいいと思う?と聞かれたので、リストを渡して別れた。

彼女と都内を巡ってみて思ったのは、車椅子で旅行をするのはめっちゃ大変ってことだ。聞く人によって言うことが違うし、そこに行くと大変だよ!とおじさんに言われたり、1日一緒にいて「あなたの気持ちがちょっとだけ分かったよ…」と思った。それにしても、補助者なしの車椅子で一人旅って、本当に勇気がいることだ。

~今日の失敗~
庭園ツアーを選んでくれたからといって、必ずしも季節の花を見たいわけじゃない…。事前に、あなたは花派?それとも樹木派?と確認したい。

~一緒に行ったお店~
ビーガンビストロ じゃんがら
ビーガンのラーメンとアイスを一緒に食べた。ビーガンのお店は探すのが大変なので、最近、ビーガン専用アプリをダウンロードして使っている。



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