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それでも蒼い風景がみたいですか 石川竜一 −沖縄にゆかりのある写真家

(わたしの文章では写真家の経歴や賞歴を気まぐれで書いたり書かなかったりする。経歴や賞歴はあまり重要だと思っていないからだ。重要ではないけど、もちろん受賞は喜ばしいことで、それは応援していた人が世間から認められたり、取材の機会が増えていろんな人が認知するきっかけを得るからで、賞を取ったからえらいわけではない。賞フェチではないのはここに書いておく。)

石川竜一さんの写真をみると「沖縄に行くのが怖かった自分」を思い出す。

大学2年生のときに社会教育(美術館や公民館など学校外で行われる教育、社会科教育とは異なる)のゼミを取っていて、沖縄にフィールドワークに行くことになった。そのとき「青い海とか水族館とか消費しに行くのが怖い」と感じ、初めて沖縄に行く場所として「山」を選んだ。

訪問した名護市の勝山地区は人口150人ほどの集落でシークヮーサーの生産や山羊の放牧して暮らす地域だ。山羊汁という郷土料理があるのだが、山羊の血を食した生臭さが山の風景とともに染み付いている。

最初の旅行で「山」を選んだのは、自分の中で「沖縄を消費しに来たわけじゃない」と納得させるのに十分な行為だった。自己満足かもしれないけれど。

勝山シークヮーサーはスッパ甘い一押しの商品なので来年の夏にでもぜひ一度試してほしい。(私の祖母にお土産で渡したら、来客者に原液のまま飲み物を出して「なんで教えてくれなかったの」と怒られた。)

何が言いたかったかというと、沖縄の「山」はいいですよということ。

沖縄に住む人が撮る写真かそうでないか

写真家の石川竜一は沖縄出身の写真家だ。
インタビューで以下のように沖縄について語っている。

「10代や20代初めの頃は、沖縄の特別に見られる感じというのがイヤで。沖縄そのものも恥ずかしいと思う部分もあったし。でも、『絶景のポリフォニー』にも書いたけれど、結局は自分が沖縄で生まれ育ってそうなっているんだから、それも含めて、いいとしようと。もうしょうがない、諦めるしかない、と思ったんです。」−Herenowより

わたしは彼の写真が好きだ。

生活者でも目をあまり向けないような、曇った空や不安定な日常、口角が下がるような出来事、目が見開くような非日常...。これが石川の撮りたいものではないかと解釈している。

観光で訪れた人が撮るような蒼い風景−色とりどりの熱帯魚が泳ぐ海や入道雲が湧き出ているような空−はおそらく石川が写したいものではないだろう。

「旅行者の意欲を掻き立てるような商業写真」とは正反対の世界を彼は両手に広げてみせてくれる。

沖縄に住む人の沖縄に対するジレンマのようなもの

沖縄が好きなところは「弱いところ」と答える石川は、次のように沖縄に対する気持ちを綴っている。

「沖縄の人に対しては「甘ったるいんだよ、クソ野郎」と思っています。東京の人も県外の人だってみんな大変。そんな中でやっているのに、自分たちだけ傷ついているみたいな、そんなクソみたいなこと言っている。そんなこと言うなら、お前らもちゃんと同じ土俵に立て、と思いますね。」
Herenowより

少し脱線するが、大学2年生で沖縄にフィールドワークに行ったとき、米軍基地については「住民のみんながみんな反対している」という先入観を持って行った。

しかし、そうでもないらしいということを沖縄に行って知った。

「米軍に土地を売って(あるいは貸して)生活できている人、基地で働いて職を得ている人、米軍基地があることで国から貰っている補償的なもので県が誘致した企業で働いている人」などがいることを知りさらに複雑な気持ちになったことを思い出した。

それ以来、いっそう沖縄に楽園的なイメージを持つのは失礼にあたると思っている。

そういう意味では石川の写真には楽園とはかけ離れたイメージがあるのでとても惹かれる。

すべてのモヤモヤを包み込む家族のつながり

沖縄の人に対して甘ったるいと話していた石川も、やはり家族を大事にする文化は好きなのだそうだ。

あと僕が沖縄の好きなところは、家族を大切にするところです。家族の繋がりが強いと思うし、沖縄のそういうところはとっても好きです。自分の先祖を大切にすることは、生き物としてそうあるべきだなと思えます。自然なことであり、当たり前のことだと思うし、自分も身の回りのことから大切にしていきたいと思うんです。
Herenowより

余談だが、沖縄は亡くなった家族のお墓で宴会をするほど先祖崇拝が盛んな地域だと聞いたことがある。また、地域に住む人に対しても「にぃにぃ」「ねぇねぇ」と呼び親しくするのもいいなぁと思う。沖縄の人たちの近所で集まってわちゃわちゃと踊ったり食べたりする「ゆんたく」はわたしもとても好きだ。

次に沖縄に行くときには石川竜一さんの写真集を片手に旅をしたいと思う。

いつにもなくまとまりのない文章だった。編集をしてくれる友人がほしい。

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