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美術検定1級合格にたどり着くまでみんな何を読んでたの?

毎年11月上旬に開催されている、美術検定。

TOEICの受験者は年間200万人を優に超えると言われていますが、美術検定は毎年1000人程度です。少なっ!

その中でも1級の受験者は毎年100人程度。

<2020年受験者データ>
【3級】 受験者数:573人 合格者数:475人 合格率:82.9%
【2級】 受験者数:444人 合格者数:280人 合格率:63.0%
【1級】 受験者数:109人 合格者数:21人 合格率:19.3%

受験者がそもそも少ないので、1級の合格者がどんな対策をしたのか書いてあるブログを見つけるのは至難の技です。私は去年1級を取得したのですが、勉強するときに情報が本当になくて困りました...。そこで、今回のアンケートの実施を思い立ちました。受験予定の人もそうでない人も、お読みいただけると嬉しいです...。(最後にアンケートにご協力いただいた4名の紹介をしています。)

ちなみに、試験内容は選択問題が25点(美術関連の時事など)、記述式の問題(作品の解説、鑑賞の企画など)が75点の合計100点です。合格のボーダーラインは毎年変動するみたいです。過去問については、こちらをご覧ください。

では、さっそく美術検定1級の合格者にお願いしたアンケートの結果を公表します。

美術に関するニュースを読んでいるウェブサイトは?

ウェブ版美術手帖   
 →アートに関するニュース全般が読めます。
Tokyo Art Beat        
 →東京で開催されている展覧会が常時600(※)以上掲載されています。
ART iT 
   →日英バイリンガルの現代アート情報ポータルサイト。椹木野衣さんの連載が読めます。
artscape
   →全国の美術館情報、展覧会のニュースとレビューが掲載されています。Artwords(アートワード)には、1500以上の専門用語の解説があり、辞書がわりに使えます。
Internet Museum 
 →日本最大級のミュージアム情報サイト。展覧会、イベント、取材レポートが掲載されています。新型コロナで休館している美術館情報がこちらにまとまっています。

※Tokyo Art BeatのHPより

選択問題に最近の美術関連の話題が出されるので、上にまとめているようなウェブサイトをたまに眺めたり、ツイッターでフォローしてニュースを知っておくといいかなぁと思います。

美術検定1級の対策のためのオススメの本は?

1.『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』美術出版社     
これは公式テキストなのでみなさん何度も読んでるみたいです。

※Amazonで検索すると『改訂版 1・2級 美術検定 傾向と対策』も公式本として出てきますが、『続 西洋・日本美術史の基本』とほとんど内容が同じです。後者だけ買うとよいと思います。

2.『アートの裏側を知るキーワード』美術出版社
「そもそも美術館とは?」という問いに様々な方面から答えてくれている1冊。美術館の機能や役割、展覧会の実務が分かります。最後の章に文化芸術に関する法律も掲載されているので押さえておくと役立つかも。2019年の試験では法律関連の問題が出ました。


3.『現代アート事典』美術出版社
あったら便利!

4. 『めくるめく現代アート イラストで楽しむ世界の作家とキーワード』フィルムアート社  上記の『現代アート事典』が文字ばかりでちっとも頭に入ってこないよ〜という人におすすめです。

5.『増補新装 カラー版 西洋美術史』美術出版社
おそらく美術検定を受ける全員が手にする本。映画や小説が好きな人も時代背景を振り返る時に1冊あるとよさそうです。


6. 『鑑賞のためのキリスト教美術辞典』視覚デザイン研究所
絵画を読み解くときの手がかりが詰まっています。そういえば、キリスト教美術の専門用語を何百字かで説明させる問題が前に出されていました。


7.古賀太『美術館の不都合な真実』新潮新書
日本で開催されている大型の美術展ってどんな課題があるんだっけ...?という疑問に答えてくれる一冊です。古賀太さんのブログも面白いのでオススメです。

8.今道琢也『落とされない 小論文』ダイヤモンド社
もし小論文の書き方を復習したい人がいたらオススメの1冊です。元NHKアナウンサーで現在インターネットで小論文対策講座を開いている方が書いた小論文対策本。大学受験だとか、公務員試験の分野でも人気があるみたいです。


少女2

美術検定1級対策の勉強法は?

アンケートにお答えいただいた内容をそのまま掲載します。みなさんのコメントを読めて嬉しいです...!(五十音順)

約3年かけて「美術検定2&1級」を取得出来た。『西洋・日本美術史の基本(含む続編)』と『アートの裏側を知るキーワード』の教本3冊の反復通読は当然とし、アート系TV番組視聴と都内美術館訪問を励行した結果だと思う。
−say"K"yawsw"K"さん
(say"K"yawsw"K"さんのnoteに詳しく書かれています。)
4級から2級は知識を問われるので、多くの絵を見ることが必須ですが、1級は感覚を問われるので、美術展を見る際にも、その意味や背景を考えるようにしていました。4級に合格したのが2011年、2級が2012年。1級が2020年。毎年受験したわけではないですが、2級から1級まで8年かかりました。手応えを感じたのは5年を経過して以降ですので、自分には成熟する時間が必要だったのかも知れません。それと、2012年から茶道を始めております。日本美術を知るためには、茶が解らないとダメと感じたからです。茶碗、水指、釡、花入など、使い方も分からず、何を知っていると言えるのだろうか、と痛感したからです。特に寺社関係の美術品には茶道具が多いので、おすすめします。鑑賞の仕方が変わります。
−nobu_satさん
まず『アートの裏側を知るキーワード』に掲載されている過去問を見て、出題されやすい範囲を確認すること。私の受けた頃は『アートの裏側を知るキーワード』に記載のある美術館の運営についての内容を中心に、論述では美術史の幅広い地域・時代の内容が問われました。『続 西洋・日本美術史の基本 美術検定1・2級公式テキスト』で通史を覚えつつ、『アートの裏側を知るキーワード』を読み込みました。論述に特化した対策は、模範解答を読み込む程度にとどめ、とにかく通史を覚えることに集中しました。どの派閥が何世紀頃かは普段美術に親しんでいても正確に覚えられないので、いい機会だと思って覚え直しました。
−ませりさん
論述にあたり、美術館がそもそもどんな役割をもつ施設か、何が求められてる施設なのか、前提は再度確認しておこうと思いました。時間があれば2級までで学んだ美術史のおさらい(でもこれはそこまでやらなかったです。結果的に現代アートに関する問題が出題されましたね)。あとは最近の企画展、新しくオープンした美術館の特徴や傾向、アート関連で話題になったニュースや起こった問題をなんとなく把握していました。これは勉強というよりはSNSなどで日常的にチェックしていた感じです。
−yukiさん

みなさん通史を何度も復習して、美術館の機能や役割について説明できるように本を読まれているみたいです。

美術検定1級は出題傾向が毎年微妙に変化しているので、対策を立てにくい試験だなぁと思います。特に、2020年はコロナの影響で例年と異なりオンライン試験になり、記述式は資料の持ちこみ可で大学のレポートのような形式でした。次回もまた出題傾向が変わるかもしれません...。

もし、独学に自信がなくて「学芸員さんに文章の書き方を教わりたい」という人は、東京の美術academy&schoolさんが美術検定対策講座を開催されているのでチェックしてみてください。オンラインでも受けることができるので、添削を受けたい人にオススメです。

受験者へひとこと

みなさんのコメントを読んでなるほど〜と思いました!(五十音順)

美術鑑賞時に自身の内面に湧き上がる感動や感情、美術に関わるあらゆる事象に対する意見・考察を頭の中でも、メモでもいいので、言語化する習慣を励行すると有益かと思います。
−say"K"yawsw"K"さん
1級合格のためには、知識を広げながら深堀するということになりますが、闇雲に手を出すのではなく、自分の好きなところからぐるぐる周回して掘っていくという方法が一番身につくと思います。
−nobu_satさん
論述は書き切ることができれば勝ちです。通史を確実に頭にいれることで乗り切ってください。
−ませりさん
1級は出題範囲があるわけではないので、幅広くアンテナを立てておくことが大事なのではないでしょうか。論述は大学のレポートレベルで自分の意見が書ければ特に問題ないのかなと思います。模範回答はすばらしかったですが、あそこまでは全く書けてません!
−yukiさん

(おまけ) 2021年の気になる展覧会

コンスタブル展 ターナーに比べてみてあまり知らないので
−nobu_satさん
「平成美術:うたかたと瓦礫 1989-2019」京都市京セラ美術館(行けたらいいな……)
−ませりさん
東京国立博物館の「最澄と天台宗のすべて」。最澄の大遠忌を記念し各地の天台寺院が総力をあげて開催、秘仏もたくさん出陳されそうなので。2021年はほかにも仏教関連の展示が多く楽しみです。
−yukiさん

(私は写真が好きなので今年の4月に京都国立近代美術館であるピピロッティ・リスト展が楽しみです)

アンケートに答えてくださった4名の紹介

say"K"yawsw"K"さん (@ysysboo, https://note.com/ys176969) 
美術史の中ではポスト印象派の特にフォーヴィズムが好き。好きな作家は俵屋宗達。(先進性:西洋美術がモダン・アート黎明期に漸く到達した二次創作のアイデアを江戸時代初期に具現化していたから)

nob_satさん (@nobu_sat)
後期ルネサンスからバロックにかけての時期が好き。荘厳で浮世離れした絵画から、いきなりホルバインやカラヴァッジョが出てくるところが不思議だからです。好きな作家は山下りん。明治期の日本の女性イコン画家。制約の多いイコン画で、現代日本の少女漫画を感じさせる優しい絵を描いた人です。北斎や手塚治虫に流れる日本らしさを感じさせ、日本美術というDNAに刻まれた共通する何かがあるのではないか、と考えさせられます。

ませりさん (@zweisleeping, https://note.com/zweisleeping_)
20世紀美術のとくにマルセル・デュシャンが好き。(美術に興味を持つきっかけが、国立国際美術館開館記念のデュシャン回顧展だったから)

yukiさん (@yuki_ch_i)
世紀末芸術(1890年代〜20世紀初頭)が好き。好きな作家はクリムト。さまざまな文化から影響を受けたことがわかる画風、官能性が理由。あとオーストリア、ウィーンという地域が好きです。

最後に、今回のアイキャッチと挿絵はダウナーポップというジャンルでイラストを描かれている新進気鋭の作家ミカミタクさんにお願いしました。

少女1

ミカミ タク / TAKU MIKAMI  
1997年生まれ。山梨県出身。@mikami_taku
日本大学芸術学部美術学科版画コースを卒業後、東京を拠点にフリーランスのイラストレーターとして活動。映画、洋楽をこよなく愛している。

最後までお読みいただきありがとうございました。
ご協力いただいたみなさまへ、この場を借りて心より感謝申し上げます。

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