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打算もたまにはいいもんだ

 ベースを手にして随分になる。正直、なにもベースが弾きたかったわけではない。ハードロック、ヘビメタが好きなら憧れるのはやっぱりギターでしょ。ゆくゆくはレスポールカスタムで華麗に速弾きをするのだ…という女子高生は、大学で軽音楽部に入部を決めた直後にあっさりとその妄想を打ち捨てる。3年もの間妄想していたわりに案外どうでもよかったらしい。大学デビューでギターなんてやってみても、既に経験者がゴロゴロいるのだからバンドなんて組んでもらえないのは明白。ならばとあっさりベーシストになった。当時ベーシストは少なかったのだ。

 結果的に大学での4年間は大して練習するわけでもなく、バンド活動もそこそこに、演奏以外で謎の存在感だけを放って軽音楽部は卒業。振り返るとよく今でもベースを弾いてるなと思う。20代はそれはもうめちゃめちゃ下手くそで、とにかく楽器を担いで歩いたり、スタジオ練習に行ったり、ライブハウスでライブをする自分に酔っていたとしか言いようがない。母親には「あんた、いつまでやるの?」と何度言われたかわからない。あの状態なら別にやめても何も失うものはなかったはずだと自分でも思う。それでも、なんでだろう、ろくすっぽ弾きもしないのにベースを手放すことはなかった。不思議なもんだ。

 もう一つ不思議なことがある。演奏する場がなくなって、いよいよベースという趣味が私の中でフェイドアウトしかけたタイミングで、ベースを弾かないかとお呼びがかかる出来事が繰り返しあった。そんなことを繰り返しているうちに、30代で2度目のベースデビューとも言える転換ポイントに出会ってしまい、今に至る。

 なんとも打算的に弾き始めたベース。それなのに今、幸運にも素晴らしい楽器、指導者、多くの音楽仲間を得ている。もしかしたら私は最初からベースを弾くことになっていたのかもしれないなー、なんて思ったりもするのである。あのとき即座にとった打算的決断を褒めてあげたい。

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