音楽とお酒と"身にまとうもの"を愛してやまない編集者・ライターの端…

音楽とお酒と"身にまとうもの"を愛してやまない編集者・ライターの端くれです。自分を表現するのがヘタで練習中です。書評たまに映画、「まとう」ことについてよく考えています。イラスト:オマタアヤノさん@alpc55

最近の記事

おばあちゃんの家探し#5 貧困の入り口

1.予想通り安定した収入も年金もない高齢夫婦のためにわたしたちが立てた引っ越し計画は、あっけなく水泡に帰した。 おばあちゃんの家を友人と2人で訪ねた翌日。自宅で仕事をしていると、机の上に置いたスマホの振動がメッセージを知らせた。 画面を開いて思わず顔をしかめた。送り主もその内容も、おおかた予想通りのものだったからだ。 「ごめんなさい。旦那が、やっぱり遠いのは嫌なので家の近くで引っ越し先を探したいと。ごめんねえ」 わたしと友人が帰ったのち、おばあちゃんは都営住宅の空き物

    • おばあちゃんの家探し#4 死ぬまでにかかるお金

      1.焦り役所で物件を断られてからというもの、時間を見つけては高齢者でも入居できる家を探した。おばあちゃんが長年住み続けている一等地エリアはあきらめ、少し離れた隣接区まで範囲を広げることにした。 民間の賃貸サイトにはシニア向けもあるが、隣接区でも十分な間取りを探すと10万円近くになる。かといって、破格の物件を載せているサイトはそれはそれで警戒した。狭かったり、築年数が古いのはもちろん、どんな人間が運営管理しているかわからないからだ。高齢者の2人暮らしとなれば、治安の面でもしっ

      • おばあちゃんの家探し#3 突きつけられた現実

        1.住宅相談マンションからの立ち退きの期日までもうすぐ2カ月を切ろうとしていた。早起きして午前中の仕事を手早く片付け、大急ぎで役所へ向かう。 今日は、自治体が不動産業者を庁舎に招いて、住民に物件を斡旋する住宅相談会の日だった。先日対応してくれた窓口の男性職員に勧められ、おばあちゃんが参加を決めたのだ。実に30年ぶりの引っ越しでおかしな物件を決めてしまったらたまったものではないと、わたしも付き添うことになった。 おばあちゃんは前回会ったときよりもリラックスしている感じで、表

        • おばあちゃんの家探し#2 役所に相談

          1.行政サービス街路樹の枯れ葉が風に乗って宙を舞う、11月上旬の青空。おばあちゃんとわたしは役所の住宅相談窓口にいた。 おばあちゃんと夫が知らないままに定期借家契約を結んでいたことが分かり、立ち退き料を得ることは断念した。しかし年金がない夫婦が預貯金のみで物件の初期費用と引っ越し代を捻出するのは厳しい。自宅訪問のあと、友人ともやりとりしながらいかに自己負担を抑えられるかを考えた結果、行政の住宅支援サービスに思い至ったのだった。 在宅勤務をこっそり抜け出し、役所の前でおばあ

        おばあちゃんの家探し#5 貧困の入り口

        • おばあちゃんの家探し#4 死ぬまでにかかるお金

        • おばあちゃんの家探し#3 突きつけられた現実

        • おばあちゃんの家探し#2 役所に相談

          おばあちゃんの家探し#1 立ち退き

          人は見たいものだけに目を向け、聞きたいことだけに耳を傾け、話したいときにだけ口を開く。 きっと多くの人がそうだろう。相手を思い通りに動かすことなんてできないし、やるべきじゃない。それで相手が痛い目に遭っても、自業自得なのかもしれない。 でも、その相手が、自分でも気づかないうちに人生を転げ落ちているとしたら、あなたはどうするだろうか。 これから書く物語は、わたしが1人の高齢者の引っ越しを手伝うにあたって起きたあれこれを、家を探すだけのつもりが人生の再設計に大きくかかわるこ

          おばあちゃんの家探し#1 立ち退き

          2020年に残った3つの大きな出会い

          あけましておめでとうございます。 2021年がようやく明けましたね。なのにこれから書くことは抱負とかではなく、2020年のことです(笑)。本当は年末に書くつもりだったのがいろいろと予定が狂ってしまった。でも、仕事が始まる前日の今晩に2020年について書くことは、明日に向けてきっといい作用がある気がする。 2020年は対面での取材はもちろんのこと、プライベートでも人になかなか会えなかったぶん、1回1回の出会いがそれぞれに思い出深く、大事にしたいとつよく感じさせるものだった。

          2020年に残った3つの大きな出会い

          「なんとかなる」って、そんなにない

          おひさしぶりです。 前回書いてから2カ月以上も空いてしまった。 そして、noteを始めてからすでに1年がたちました。 今年、なんだかたいへんだったな。 いろいろあったな。 ありすぎたな。 そんな気分です。 このページは、いつも無理しすぎる自分のために、一度エンジンがかかると体がぼろぼろになるまで動き回るよくないクセをなおすために、何かを書き記すことで体と心を鎮めようと思って立ち上げたものなのに、慌ただしい日々が何カ月も続いてまたその日課を置き去りにしてしまった。

          「なんとかなる」って、そんなにない

          【映画】行き止まりの世界に生まれて

          爽やかな青空の下、3人の青年が車のいないだだっ広い車道をスケートボードで疾走している。 アカデミー賞とエミー賞のWノミネート、オバマ前大統領も絶賛したという映画「行き止まりの世界に生まれて」は、壮大で躍動感のあるオープニングで幕を開けた。 舞台はカナダに近い米イリノイ州の小さな町、ロックフォード。「アメリカで最も惨めな町」と呼ばれるその地域は、かつては自動車や鉄鋼などで栄え、時代と共に必要とされなくなった工業地帯だった。失業者と犯罪者に溢れた町で育った少年3人の半生を追う

          【映画】行き止まりの世界に生まれて

          怒りのぶるうす

          ここしばらく書く気がおきないな~と思っていたら、noteを始めてから最長のブランク、2カ月くらいたっていた。 この2カ月の間にいろいろあった。まず、最近まで仕事について毎日すごく怒っていた。もともと気性が激しい性格、しかもすぐ顔に出るタイプだから、その昔は「ねえ、怒った猫みたいに毛が(オーラが?)逆立ってるよ……」と、本来見えるはずのない何かを出現させたりしていた。 今回はここまではなかったけれど、何かについて怒ることはエネルギーをものすごく使うし、だからこそ若いうちにし

          怒りのぶるうす

          すごく好きだからこそ、距離をおく

          しばらく書いていない。書きたいという欲求が起きない。 このnoteは完全私的なものだから、書く気が起きなければずっと書かなくてもいいんだけれど、いま一瞬、ほんと2秒くらい「書きたい」と思ったので筆を(キーボードを)とった。 その昔、新聞記者をしていたとき、「好きなものは取材するな」とデスクからよく言われた。その意味は2つある。ひとつは、趣味にするほど好きなものを仕事で追いかけると、内情を知ったときにはもう純粋な気持ちで応援できないからというメンタル面。 もうひとつは、心

          すごく好きだからこそ、距離をおく

          大人として観る「もののけ姫」で気づいた事実

          絶賛特別上演中のジブリの名作「もののけ姫」を観てきた。 1997年公開、もう23年も前の映画である。当時のわたしは6歳。親がVHS(懐い!)を買ってくれたのでこれまでに何度も観ているし、次のシーンもセリフも思い浮かぶはずなのに、28歳で観るスクリーン上のもののけ姫は、予想を大きく上回って引き込まれた。 冒頭で祟り神が出てくる衝撃とおぞましさ、ヤックルや山犬が風を切って走るときの音や波打つかんじ、あらゆる生き物の息づかい、要所で心を打つ太鼓のリズム、どれも色あせてなくて素晴

          大人として観る「もののけ姫」で気づいた事実

          拝啓、生きづらさを抱える父へ

          6月21日の父の日。 九州に住むあなたに、お洒落なシャツを贈りました。喜んでくれたみたいで、わざわざ着てみせた写真まで送ってくれましたね。ありがとう、という言葉のあと、あなたは確かめるようにこう問いました。 「これ、お前1人で買ったんか?姉はどうしたんや?」 "娘2人が一緒に選んで買ったのか"ーーその1点が、すごく気になるんやね。大丈夫、ちゃんと2人で悩んで選んだものだよ。  神経質で繊細、そしてADHDとうつ病を抱える父。そんなあなたに家族は長年振り回されてきました

          拝啓、生きづらさを抱える父へ

          「擬態」しないと生きていけないの

          ふにゃふにゃしたい。 この言葉が頭に浮かんだときはたいてい、体と心の活動限界を迎えている。 ふにゃふにゃしたい。 3日間くらいお布団にもぐっていたい。 好きなものを好きなだけ食べたい。 美しいものとかわいいものだけ見ていたい。 誰とも話したくないしどんな話も聞きたくない。 何も読みたくない。 何も書きたくない。(と思いながら今これを書いている) わがままいいっぱなしでバグったわたしのCPU。 はるな檸檬さんの「ダルちゃん」っていう漫画が好きなんですけど、ダルちゃんのよ

          「擬態」しないと生きていけないの

          この街を統べる怪物の正体/『女帝 小池百合子』

          「毎日、吹雪、吹雪、氷の世界…」 全429ページを読み終わるころ、オーディオからは井上陽水の「氷の世界」が流れていた。石井妙子氏が執筆した話題の本『女帝 小池百合子』(文藝春秋)。業界内では「夜が眠れなくなる」「ミステリー」と、人物伝を読んだとは思えない感想が飛び交っていた。 小池氏自身が書いた著書を読んだことがないので簡単に批判はできないけれど、この本に書かれている内容がもし本当であれば、たった1人の女性に東京都民は、いや日本人は何十年もの間振り回されていたことになる。

          この街を統べる怪物の正体/『女帝 小池百合子』

          せめて、人間らしく。

          「オープンが2カ月延びてしまって、ずーっと楽しみにしていたんです。こうしてお客さんと服のおしゃべりができることを」 表参道と原宿の間にある細道の先にオープンしたばかりの洋服屋さんに行くと、すごく元気のよい店員さんが出迎えてくれた。 実店舗で洋服を見たのは3月ぶりだった。先日ECでちょっといいカットソーを買ったら着丈が妙にしっくりこなくて、やっぱり試着しないと着丈も色味も、自分に合っているのか分からない。小さな違和感はいつだって時間が経てば大きな差異に育つものだから、できれ

          せめて、人間らしく。

          「男性は20代と結婚したい」と結婚相談所で言われたアラサー女の答え

          大人になったなあ、と実感する場面がある。真っ先に浮かぶのは、女性タレントやアイドルを見る時の心境が変わった。昔はあざとい表情や仕草が鼻につくこともあったのに、今じゃかわいいなあ、この美しさを保つためにすごく努力しているんだろうなあと純粋な気持ちで眺めている。 そしてもうひとつ。「若さ」について思案を巡らせるようになったときだ。 もともとフォロワーさんが10人増えたら、自己紹介をしようと思っていた。こっそりひっそりとやっているこのnoteを見つけてくださったみなさん、本

          「男性は20代と結婚したい」と結婚相談所で言われたアラサー女の答え