卵巣PRP療法は効果があるのか?
どうも!ぶらす室長です。
「卵巣PRP療法は正常胚の確率をあげると書かれているクリニックのホームページを見ましたが、エビデンスはあるのでしょうか?」
というご質問を頂きました。
解説していきましょう。
まず、PRP療法についてです。
Platelet-rich plasmaの略で、日本語では多血小板血漿療法と言います。
血液を遠心分離で濃縮して血小板を大量に回収し、患部に注入するという再生医療の方法のひとつです。
血小板は傷を治す時に働くのは皆さんご存知だと思いますが、血小板には大量の成長因子が含まれており、これらが他の細胞の再生も促すというコンセプトのようですね。
不妊治療以外にも、変形性膝関節症などの関節症や美容整形などにも利用されている技術です。
不妊治療界隈では、反復着床不全症例に対しての子宮内膜へのPRP療法の方がメジャーだと思います。
こちらもそのうち解説しますね。
今回は、卵巣へのPRPの注入が卵巣機能の回復に効果があるのか?について論文をみていきましょう。
卵巣機能低下症例へのPRP療法の効果
最初に言っておきたいのが、現状、卵巣PRP療法に関して、エビデンスレベルの高い雑誌の解析論文が少ないという事です。
新しい技術のためコクランレビューなどはまだなさそうです。
今後、エビデンスが高いメタ解析論文が出てくるといいですね。
まずは、卵巣PRP療法のメタ解析論文をご紹介します。
症例はpoor ovarian response(POR)いわゆる低卵巣感受性症例のみを対象にしています。
10報の論文を分析してデータ抽出し、836症例を解析しています。
結果を見ていきましょう。
PRP療法を行なって効果があった項目は下記の通りです。
・ FSH値の有意な低下
・ AMH値の有意な増加
・ LH値の有意な増加
・ 胞状卵胞(AFC)数の有意な増加
・ 採卵数の有意な増加
・ 成熟卵数の有意な増加
・ 正常受精卵数の有意な増加
・ 良好胚数の有意な増加
・ 周期キャンセル率の有意な低下
・ 自然妊娠率の有意な増加
・ ARTによる妊娠率の有意な増加
・ ARTによる出産率の有意な増加
おお。。良い事しかない。。
心配になるくらい「効果がある」という結果になっていますね。
この報告だけじゃ不安なので、別の報告も見ていきます。
卵巣PRP療法は正常胚率を増加させる?
次の報告は、私の信頼するhuman reproductionからの報告です。
メタ解析ではなくて、ダブルブラインドランダム化比較試験です。
新手の念能力か??って思った方。
解説しましょう!
まず、ランダム化比較試験(RCT)ですが、こちらは新薬や新法を試す時に、対象となる症例をランダムに振り分けて行う研究です。
難症例とか希望者とか、この時期の症例とかではなく、ランダムです。
ランダムに振り分けられるので、症例背景が揃いやすく、その他の要因の影響が小さくなります。
続いて、ダブルブラインド。
日本語にすると二重盲試験です。
これは、どの症例が新薬や新法を使用していて、どの症例が偽薬、プラセボ(コントロール)なのかは、「患者本人も医師、スタッフも知らない状況で実施した試験」となります。
卵巣PRP療法でそんな事できるの!?
って思いましたけど、やったんでしょうね。
すごい。。。
コントロールに割り当てられた症例は卵巣に何を注入されたのか。。。
前置きはさておき、結果に入りましょう!
こちらも、対象症例はPOR症例に限定されています。
・累積平均成熟卵数
PRP療法: 10.45 ± 0.41
コントロール: 8.91 ± 0.39
累積平均成熟卵数は、PRP療法で有意に増加していました。
・採卵回数における平均成熟卵数の増加率
PRP療法における1回の平均成熟卵数は
採卵1回目: 2.61 ± 0.33
採卵2回目: 3.85 ± 0.42
採卵3回目: 4.73 ± 0.44
採卵回数が増えると成熟卵子数が増加しており、これはコントロールよりもPRP療法実施群の方が顕著でした。
採卵3回目の成熟卵子数はPRP療法で有意に多くなりました。
PRP療法: 5.27 ± 0.73
コントロール: 4.15 ± 0.45
・ バイオプシー平均施行胚数
PRP療法: 1.90 ± 0.32
コントロール: 2.43 ± 0.60
バイオプシー平均施行胚数は、両者で差はありませんでした。
・平均正常胚盤胞数
PRP療法: 0.81 ± 0.24
コントロール: 0.81 ± 0.25
平均正常胚胚盤胞数は、両者で差はありませんでした。
・正常胚が得られた症例の割合
PRP療法: 43.33% (13/30)
コントロール: 53.33% (16/30)
正常胚が得られた症例の割合は、両者で差はありませんでした。
つまり、卵巣PRP療法は正常胚率に効果がなかったという事になります。
・ 症例あたりの臨床妊娠率
PRP療法: 27% (8/30)
コントロール: 60%(18/30)
症例あたりの臨床妊娠率は、PRP療法で有意に低い結果となりました。
(ダメじゃん!!)
まとめと考察
卵巣PRP療法という技術は、まだまだ新しい技術です。
今回ご紹介した2つの論文は、どちらも2024年に発表された論文でした。
国内で実施している施設は多くはないでしょう。
論文をレビューした結果。
私も意外でしたが、卵巣PRP療法は効果がありそう!というのが正直な感想です。
どちらの報告でも、成熟卵子数の増加が確認されています。
卵巣機能が低下した症例に対して、卵巣機能を改善する治療となる可能性は秘めていると思いました。
FSHの基礎値を低下させたり、AMHを上昇させるのに効果があるのは、卵巣刺激に行き詰まった症例には希望になるかもしれないですね。
ただし!
妊娠率が低下するという報告があるのは頂けないですね。
結局、卵子がたくさん取れても妊娠しないなら意味がないですから。。。
妊娠率に関して2つの論文で真逆の事を言っているので、結論はまだ出せないところです。
最初の論文では、「自然妊娠による妊娠率も上昇」しているので、超効果がありそうです。
国内で行うには確実に自費になりますが、もう手を尽くした症例では、選択肢として考えてみても良いかもしれないです。
PRP療法はまだまだ報告が増えていきそうです。
体外受精治療のブレイクスルーの治療になるか、今から楽しみですね。
以上です。
ご参考になれば嬉しいです。
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