不良胚を凍結する事は「善」か「悪」か?
【ご質問原文】
いつもありがとうございます。
前医にて3ccの胚は破棄されて凍結さえされませんでした。
今は都内でも最後の砦と呼ぶ人もいる病院に来ましたがこちらでは4ccなのに凍結。
その違いを今の医院の医師に聞いたところ
「凍結しなければ患者はまた採卵が必要になって、クリニックが儲かるからでしょう。」
と言われました。
本当にそうなのでしょうか。
私は今回4ccを移植し貴重な保険回数を1つ失ってしまいました。(まだ結果はわかりませんが)妊娠率ばかり話されますが私たちが叶えたいのは妊娠ではなくて出産です。
仮に陽性になってもまた流産するかもしれない、そうしたらまたロスタイムで歳を重ねる。
将来の子育てのためになるべく保険で済ませたいです。
本当に患者のことを考えているのはどちらだと思いますか?
また本来はグレードの良い胚盤胞を移植する予定でしたが融解失敗。
卵のせい、と言われるのみで不信感が募ります。
保険適用で若い患者に対しては、若手の実験台にされるなどのケースもあるのでしょうか?
【回答】
ご質問ありがとうございます。
これは、腰を据えて議論しなければいけない内容と思い、久々にnoteにしちゃいました。
・不良胚でも凍結する。
・良好胚しか凍結しない。
本当に患者の事を考えているのはどちらか??
このテーマについて、私がそれぞれの立場になりきって、意見を主張していくディベート形式で行きたいと思います。
その後、私の意見を述べましょう。
結論から言うと
この2択に正解はありません。
でも、中間的な「落としどころ」はあるように思います。
まずは、それぞれの意見を聞いてみましょう。
あえて過激に極端に主張しています。
公平性とわかりやすさのため、条件を統一します。
・胚盤胞凍結のみ
・良好胚は、AA、AB、BA、BB
・不良胚は、AC、BC、CA、CB、CC
・それぞれ凍結個数や症例背景は考慮しない
では、行ってみましょう!
◯ 不良胚を凍結する側の主張
・形態評価は万能ではない。
・不良胚でも妊娠、出産例はたくさんある。
・胚盤胞に発育しているというだけで、ある程度の可能性は担保されている。
・良好胚のみを凍結するのは、妊娠する可能性のある胚を捨てることに等しい。
・不良胚を凍結しておけば、良好胚と抱き合わせで2個移植もできる。
・妊娠できるかもしれない胚を捨てて、採卵を繰り返す事は、患者の負担が増加するだけだ。
・移植をしなければ、絶対に妊娠しない。
・不良胚を凍結しないクリニックは、何度も採卵させて儲けるためだ。
・採卵よりも移植の方が患者の肉体的、精神的苦痛は少ない。
・良好胚のみしか移植しなければ、クリニックの成績は高い状態を維持できるクリニック側の都合だ。
◯ 良好胚しか凍結しない側の主張
・できるだけ移植あたりの妊娠率が高い胚のみを移植するのは医学的にも妥当である。
・移植あたりの妊娠率が高い胚のみをセレクションして移植した方が、無駄な移植を減らして患者負担が軽減できる。
・良好胚のみの移植ならば、妊娠不成功や流産する可能性が低下し、患者の精神的苦痛を軽減できる。
・保険の場合、移植の回数制限があるため、不良胚に移植回数を使用するのは勿体が無い。
・良好胚が得られなくてまた採卵したとしても、保険の回数は減らない。
・不良胚を凍結するのは、早く保険を使い切って自費に移行してもらいたいクリニックの思惑がある。
・不良胚を凍結するのは、凍結数をクリニック側が稼いで儲けたいからだ。
・不良胚を凍結するのは、1つも凍結できなかったと患者に説明したくないからだ。
・不良胚を凍結して残しておいて、転院しにくくするためだ。
◯ ぶらす室長の主張
過激な議論になりましたねー!!笑
1人2役をやると、学会とかの質問対策も個人で完結できるようになりますよ!
それはさておき、どっちの主張もそこそこ論破しにくいと思いませんか??
私の意見としては
「症例による」
としたいと思います!笑
はい、ずるいですね。
冗談です。
それでは、私の考えを述べていきましょう。
まず、保険診療では後者の
「良好胚のみを凍結する」
こちらに賛成です。
これは、やはり「3割負担で採卵できる権利」を簡単には手放すべきではないと思うからです。
体外受精はやはり、ギャンブル要素が強いです。
手札が良くないときに勝負するのはリスキーだと思います。
もちろん、勝負しなければ勝つ事はできませんし、大逆転できる可能性もあります。
でも、6回または3回のチャレンジができるので、いきなりあまり強くないカードで勝負する必要もないだろうと私は思います。
一方で、採卵を繰り返すと、肉体的、精神的苦痛は増していくと思います。
数回の採卵を経ても良好胚が得られない時は、不良胚の凍結を検討しても良いと思います。
結局のところ、やっている事はあんまり変わらないのです。
採卵でガチャを回すか、移植でガチャを回すか?
この違いです。
採卵でガチャを回す場合、出産する胚を取りこぼす可能性はありますが、割引券の回数(保険の回数)は減りません。
移植でガチャを回す場合、形態評価ではわからない出産する胚を拾えるかもしれませんが、割引券(保険の回数)の回数を消費してしまいます。
自費で回数制限がない場合は、移植でガチャを回した方が最終的に出産に至る可能性は高くなると思います。
特に、高齢だったり卵巣予備能が低くくてあまり採卵数が得られない症例は、子宮に胚のセレクションをお願いして移植して行った方が良いかもしれないと私は考えています。
クリニックの利益ややり易さも確かにあると思います。
でも、クリニックの利益を考えた時、不良胚を凍結する、しないでどっちが利益率高いかはわからないです。
患者さんは転院する事ができますからね。
転院しにくくなるという点では、不良胚も凍結した方がクリニックの利益になるかもしれないですね。
ただ、保険の治療を使い切って妊娠できずに自費になったら、私なら転院します。笑
やはり、正解は
「症例に合わせて基準を変える」
なんでしょうね。冗談ではなかった。笑
それが医療ですから。
以上です。
ご参考になれば嬉しいです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?