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卵子凍結の成績と推奨個数

どうも!
ぶらす室長です!

今回は、最近とても話題になっている
「社会的適応の卵子凍結」についてお話したいと思います。

インフルエンサーや著名人が卵子凍結を公表する時代となりましたね。
数年前では考えられない事でした。

東京都が助成金を始めた事も含めて、これから「結婚前に卵子凍結をしておく」という選択肢が益々増えていく事が予想されます。

今回は、日本よりも早くから卵子凍結を実施しているアメリカのplanned oocyte cryopreservation(計画的卵子凍結)のガイドラインを解説したいと思います。

また、いくつかの論文から「私の年齢なら何個凍結したら良いか?」についても解説したいと思います!
では行ってみましょう!

Evidence-based outcomes after oocyte cryopreservation for donor oocyte in vitro fertilization and planned oocyte cryopreservation: a guideline

凍結卵子と新鮮卵子の比較と成績

未婚の卵子凍結を行う理由は言うまでもなく、「若い時の卵子を凍結しておいて、将来の妊娠に備える」ためですね。

しかし、卵子凍結という技術は卵子や受精卵にダメージがなく、本当に出産に至るのでしょうか?

そこをはっきりさせねばなりません。

・自家卵子を用いた卵子凍結の成績

自家凍結卵子(ドナーではなく自分の卵子)を用いた3つの観察研究から評価しています。

Doyleらは、2009年から2015年までに自家凍結融解卵子でIVF-胚移植をした128周期について報告しました。

この報告の対象は、不妊治療中の患者さんが何らかの理由で計画卵子凍結を行った症例を比較しています。そのため、凍結融解卵子と新鮮卵子の年齢差は同等でした。

受精に用いた平均卵子数は凍結融解卵子で有意に少なくなりました。
(凍結卵子: 8.0 vs.新鮮卵子:10.1, P=.0002)

ICSIによる受精率は両群で同等でした。
(69.5% vs.71.7%, P>.05)

胚盤胞移植ができた周期は凍結融解卵子で有意に少なくなりました。
(50.9% vs. 66.1%, P<.001)

着床率、臨床妊娠率は凍結融解卵子で有意に高く、妊娠あたりの流産率も凍結融解卵子で有意に高い結果となりました。
(数値掲載なし)

胚移植あたりの生児獲得率または継続妊娠率は両群で差はありませんでした。
(38.6% vs. 36%,  P>.05)

比較ではない観察研究が2報あり、それらによると凍結融解の継続妊娠率は30.7%(平均年齢36.7歳、24 ET)、生児獲得率は17.4%(33.9歳、46 ET)であった事が報告されています。

Crawfordらは、自家凍結卵子を使用した422サイクルにおいて、キャンセル率、着床率、妊娠率、流産率、および生児獲得率は、新鮮卵子と凍結卵子に差がないことを示しています。
(live birth rate: 30.6%vs. 37.4%)

・ドナー卵子を用いた卵子凍結の成績

ドナー卵子を用いた凍結卵子と新鮮卵子の妊娠率の比較をしたランダム化比較試験1報と、4報のコホート研究、1報のメタ解析論文から評価しています。

Cobo らのランダム化比較試験からみていきます。

約600人のレシピエント(卵子をもらう患者)に無作為に新鮮卵子(289個)と凍結卵子(295個)を振り分けて継続妊娠率を比較しました。
1人のレシピエントには、それぞれ同一のドナーからの卵子が割り当てられています。

その結果、継続妊娠率に有意な差はありませんでした。
(新鮮卵子: 43% vs. 凍結卵子: 41%、P>.05)

続いて、4報のコホート研究をみてみます。
こちらは、論文上で下記の表にまとめられています。

結果として、全ての報告で妊娠率に有意な差はありませんでした。


     妊娠率の比較 新鮮卵子 vs. 凍結卵子

DominiguesらとGarciaらの報告では、凍結卵子の平均年齢が有意に低く、凍結卵子の数も多かったため、それが妊娠率に影響しているかもしれないと考察されています。

凍結卵子と新鮮卵子の「1個あたり」の妊娠率や継続妊娠率を比較したメタ解析論文を見てみます。

ドナー凍結融解卵子に限定して計算した「1個あたり」の継続妊娠率は8%でした。

※補足: 移植あたりじゃないですよ。
受精、発育、移植をする前の溶かした卵子の状態での1個の期待値と考えるとわかりやすいかもです。

ドナー新鮮卵子と凍結融解卵子の「1個あたりの」臨床妊娠率を比較した報告でも両者に有意な差はありませんでした。

(新鮮: 7.9% vs. 凍結: 6.4% OR 0.87, 95% CI 0.76–1.01)

さらに、凍結融解胚移植が主流になった事もあり、2回のガラス化凍結(卵子と受精卵)を行う事への影響について調査した報告があります。

凍結融解胚移植を行った症例の由来卵子を凍結卵子由来(n = 414)と新鮮卵子由来(n = 1315)で出産率を比較しました。

その結果、day 3胚移植では33.2% vs. 30.4%、胚盤胞移植では31.5% vs. 32.4%であり、有意な差はありませんでした

つまり、2回のガラス化凍結は出産率に影響しなかったという事になります。

ドナー卵子を用いた卵子凍結の生児獲得率

Trokoudesらの小規模な前向き研究の結果では、
レシピエントを新鮮卵子症例 (n = 41) と凍結卵子症例 (n = 36) に振り分けて生児獲得率を比較しました。

その結果、 両群に有意な差はありませんでした(新鮮卵子: 41.5% vs. 凍結卵子: 47.2% , P=.61)

反対に、凍結卵子の成績が低下したという報告もあります。

2013-2015年のSARTのデータをまとめた論文(kushnirら)で、後方視的論文ですがこちらの方が大規模な症例数です。

周期あたりの生児獲得率は凍結融解卵子で有意に低下しました。
(51.1% vs. 39.7%, P<.0001)

胚移植あたりの生児獲得率も凍結融解卵子で有意に低下しました。
(56.4% vs. 45.3%, P<.0001)

症例数はかなり大規模ですが、
この報告のlimitationとしては振り分けられた卵子数の詳細や凍結方法が不明である事です。

そのため、何らかの症例バイアスが発生していても調整する事ができないというところが結果に影響している可能性があります。

生児獲得率の比較 新鮮卵子 vs. 凍結卵子

ガイドラインの推奨と考察

計画卵子凍結に関する提言

・計画卵子凍結による生児獲得予測に関しての証拠(エビデンス)は不十分である。

・限定的なデータだが、計画卵子凍結を行った場合、継続妊娠率や生児獲得率は高齢と比較して、若齢の方が高い。

・卵巣予備能の検査は、潜在的な卵子の数の評価に利用できる。

・胚移植あたりの妊娠率は、ドナー凍結卵子と新鮮卵子で有意な差はなく、同等だった。

・凍結卵子であっても、新生児の予後は同等だった。

・計画卵子凍結の長期間保存した卵子の成績と累積生児獲得率のデータが求められる。

※かなり要所のみをピックアップしたので、省略したところも多いです。もっと詳しく知りたい方は本文をご参照ください。

室長の考察

皆さんが気になっているのは、卵子凍結のリスクについてだと思います。

自家卵子の凍結では、受精に用いた平均卵子数は凍結融解卵子で有意に少なくなりました。
(凍結卵子: 8.0 vs. 新鮮卵子:10.1, P=.0002)

これは、「融解後に死んでいる卵子がある」という事ですね。
ただ、数値を見る限り融解後に全滅してしまうようなことは稀だと思います。

また、どの報告を見ても「受精率に影響を与える」という報告はありませんでした。

ほとんどの報告では、妊娠率、継続妊娠率、生児獲得率は凍結卵子であっても低下しませんでした。

一方で、SARTの大規模な報告では、卵子凍結の負の影響についても報告されています

これは、凍結方法や術者の技術も関与していると思われます。

言い換えれば、やはり方法や施設間の差は結果に影響するという事ですね。

しかし、皆さんが危惧しているほどの悪影響は卵子凍結にはなさそうと言えると思います。

第1部は以上です!
ご参考になれば嬉しいです。

さぁ、ここからは「出産するためには、何個卵子を凍結すれば良いか?」について解説していきたいと思います。

第2部はe-Labメンバー限定となります。

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