見出し画像

【5】異動と家庭 「あちこちで起きる葛藤」

 入社動機でもある「人間関係の問題解決」の本丸を経験したいと思った私ははじめて異動を希望する。希望したのは、企業のカルチャーをつくる人事制度策定やチームづくりを支援する部門で、自分の入社動機にも叶うものだった。しかし、異動の辞令が出たのは顧客企業の業績向上に向けたスキル強化や組織改革を支援をする部門だった。

 異動したのは2011年4月、東北の震災直後。先輩から引き継いだ仕事がわずかにあるものの、一から顧客を探す日々。また前の職場とは異なる環境や仕事に最初の頃は戸惑っていた。

しかし、異動したばかりの自分にそんなことを言っている暇などない。「目の前の仕事について考え、とにかく目標を達成するんだ、顧客の期待に応えるんだ」と自分に言い聞かせた。

けれど、この仕事も当然すぐに成果がでるような簡単な仕事などない。さまざまな協働者と膝づめで話し、納得してもらう、とにかく一つひとつの信頼を得ていくことで精いっぱいだった。

 ちょうどその頃、長男が生まれる。仕事で何もできない自分が、家のこともできていない葛藤はすさまじかった。 

夜明け前、まだ空が白んでいる時間に仕事にでかけていくことに胸が引き裂かれる思いをしながらも、とにかく自由を得るためには目標達成しかないのだ、成果を出すんだ、それさえすればきっと報われる。家庭も職場も、自分の居場所を失うわけにはいかない。そう思っていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?