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運命の出会い

ザンクトフローリアン少年合唱団のアドベントコンサートにカウンターテナーのアロイス・ミュールバッハー君がソリストで出ることを知り、急遽行くことを決めましたが、実はもう一つ理由がありました。

ザンクトフローリアン修道院のFacebookでコメントすると、修道院のアカウントと、あるおじさまからよく「いいね!」をもらうのです。その人のプロフィールを見ると、居住地がザンクトフローリアンだったので、地元の熱心な信者さんなんだろうと思っていました。それ以上の情報は公開されていませんでしたが、笑顔が素敵でとても気になる方でした。

アドベントコンサートのポスターを見ていたら、どこかで見た名前があったのです。よく「いいね!」してくれる方だ!オルガニストなの?

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そのおじさまはザンクトフローリアン修道院のオルガニストで、修道士だったのです。

そして、以前修道院に泊まった時の予約票を見ると、連絡先にその方の名前があったのです。ゲストマイスターとして、一般から特別な来客の対応、イベント、広報等の対外的な仕事もされているようです。

本番は二階にあるブルックナーオルガンを弾くので見ることはできないだろうけど、万が一にでもお会いできたらいいなと思っていたのです。

さて、アドベントコンサートの日です。修道院内のレストランで昼食を取ったあと、大聖堂に行きました。あと15分ほどでリハーサルが始まるとのことでしたが、まだ訪問者もいたので、私も中に入ってみました。

祭壇の前でホルンカルテットが練習をしていました。すると、祭壇近くの入り口から男性が入ってくるのが見えたのです。「クラウスさんだ!」Facebookでよくいいねしてくれるオルガニスト兼修道士のおじさまです。クラウスさんは、ホルンカルテットの近くでノートパソコンで何か作業をしていいました。

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写真をこっそり撮り、遠くからでもクラウスさんの姿を見られてとても満足でした。ホルンカルテットの練習は終わり、クラウスさんも入り口から出ようとしていました。クラウスさんがいなくなるのを見届けてから私も大聖堂を出ようと思っていました。

その瞬間、クラウスさんは振り返り、私の方向に歩いてきました。後ろの出入り口に行くのかなと思っていたら、私の近くに来て立ち止まりました。

「Grüß Gott!」と満面の笑みで挨拶をされたのです。クラウスさんは大きな人でしたが、とてもソフトな声でした。透明感がすごく、この世の人ではないと思うほどでした。握手しながら「よくいらっしゃいましたね。私はこの修道院のオルガニストです。あなたがここに来ることを知っていましたよ」と言われ、あまりの驚きに声が出ませんでした。

気が動転してしまった私は、頭を冷やすために外に出ました。修道院がよく見える場所で、これまでのことをぼんやり考えていました。

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シュッツさんの演奏を聴いてフルートを始め、ムーティの指揮のもとウィーンフィルをバックにソリストとして演奏するシュッツさんを見たくてウィーンに行ったら、アロイス君に会った。ザンクトフローリアンのことを深く知るようになり、そしてクラウスさんと出会った。

クラウスさんを実際に見たとき、私の心臓からクラウスさんのほうに何かが飛び出すのが見えたのです。フルートを始めたのは私の意思だと思っていましたが、クラウスさんと出会うために神様が私にフルートを与えたのではないかと思いました。

今までどんな人と話しても面白くなく、どんなに偉い人に会っても尊敬できず、それでも真っ直ぐ生きようと頑張ってきました。同時に、こんな状況では自分がいつかダメになるという不安を抱えていました。しかし、クラウスさんは私の心に明かりを灯してくれました。「クラウスさんのそばで働きたい。クラウスさんと一緒に神の仕事がしたい」と。

今まで知り合った人は、全然知り合いではなかったことに気づき、もう一切連絡を取っていません。連絡を取らなくても全く支障がないので、縁がなかったのでしょう。そして、新しく知り合いになる人はほぼ修道院・教会関係者です。多分私もそういう方向に進むと思います。

大聖堂には楽器を持った天使がたくさんいますが、ブルックナーオルガンの上にだけ、フルートを持った天使がいます。私はこのフルートエンジェルになりたい。そうすればクラウスさんと一緒に働けますよね。