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終盤の手札干渉は本当に強い??

「ナンジャモツツジで手札1~2枚にしたのに相手のトップボスで負け」

ポケカプレイヤーなら皆経験したことがあるこれですが、皆さんはこの場面に遭遇した際、何を考えていますか?

「運だけ」

「クソゲー」

「俺の手札干渉はいつも効かない」

まあ良い気持ちはしないですよね。僕もずっとロストギラティナを使っているので、この場面は本当に何度も経験したし、未だにイラっとします。
ですが、よくよく冷静に、客観的に見れば、この状況は自分にとってかなり都合の良いように解釈されている可能性があります。
つまり、それは本当に運負けですか?上振れですか?という話です。

「本当は勝てたのに相手の上振れで負けた」と考えるのは楽なのでついついそう考えてしまいがちです。まあほんとに相手の上振れが凄いときもありますけどね。

ですが、同じトップ解決負けにしても、それがどの程度の上振れなのかを判断できていないと、反省できる点、改善できる点があるのに見逃してしまうリスクがあります。その試合で負けた事実は変わりませんが、現実を直視し、そこから何か学べるかどうかは将来の勝率に大きく影響します。

運が大きく絡むTCGですが、運が絡むからこそ、プレイヤーの認識に生じているバイアスを極力なくし、運以外の負け要素を消していくことが強者への近道といえるでしょう。



1.皆手札干渉に強い盤面を作るのが上手くなった

まず大前提として理解しておかないといけないことはこれです。
近年のポケカプレイヤーは平均的にかなりレベルが上がってきていると感じています。それは日本だけでなく海外の大型大会でも感じ取れますが、本当に何の経歴もない、つい最近始めたようなプレイヤーが大型大会で優勝したり、トップカットに残っているのをよく見るようになりました。

ここ数年で、大会で結果を残したデッキレシピが丸裸にされて拡散されるようになり、その使い方もnoteやXで周知するという文化が国内外で広まった結果、昔に比べてプレイヤー間の練度と知識に差がつかなくなりました。
流石に数か月と10年プレイヤーとでは大きな差がありますが、経歴が1~2年を超えたプレイヤーはトップ選手とほぼ差がないなと感じています(それくらい今のポケカはカード自体のパワーが高い)。

そうなると勿論相手のナンジャモやツツジといった手札干渉の捲りに対する意識も高いわけです。Nやリセットスタンプの頃とは全然違います。

ビーダルやミュウexといったドローできるポケモンを採用する、ドロサポ、ボスを多めに採用することで構築レベルで対策になっているものもあれば、単純に要らないカードをどんどんハイパーボール、博士で捨てて圧縮するといったプレイング面での対策も皆ちゃんとしています。

なので、最後に「ボスを1枚引かれるだけで負け」みたいな状況になり、しっかり引かれて負けたとしても、それは相手の強さ、実力であることを認める必要があります。
「引かれなければ負けない」状況を作ったあなたもプレイヤーとしてリスペクトされるべきですが、その状況になる前に相手は相手でしっかり準備をしているのです。使えるカードを使い、要らないカードを捨て、デッキをちゃんと圧縮しています。

また、言ってしまえばサーナイトやロスギラからナンジャモやツツジが飛んでくるのは予測できる動きであり、特段珍しい動きではありません。TCGにおいて、「予測されている」という状況がそれほど強くないというのは長年やっているプレイヤーは痛いほど分かるでしょう。

2.気持ちよさに酔ってないか?


手札干渉を絡めた捲りは本当に気持ちが良いです。「ギリギリの場面から捲る」というある種ドラマティックなシーンは、一度経験すると軽く中毒になります。
また近年の爆速運ゲー環境において、手札干渉に基づく終盤のプランを持っているデッキを使っていると、自分のプレイが上手く感じるし、それで負かした相手に対して、自分は実力で勝ったと思い込みがちになります。これはかなり間違い。どんなデッキでも、そのとき勝てるデッキを握っている人がちゃんと実力がある人です。

そして、この手札干渉という行為自体から生じるバイアスは大変危険だと考えています。あと目的と手段が入れ替わっているというか、それ前提で動いている人が多い印象。

そもそも、相手がリーサル盤面でこちらが手札干渉をする状況は、割と、というかかなり苦し紛れです。手札干渉は勝てる可能性を0にしないために行っているに過ぎず、勝つためのプランかと言われれば流石に受け身過ぎるといえるでしょう。

自分への戒めも込めていますが、手札干渉をして相手がトップ解決をしたからといって、相手にイライラをぶつけるのはかなり的外れであることを認識しましょう。既にリーサル盤面が作られていた時点でこちらの負けは割と濃厚です。


3.確率を計算しよう


認識に生じているバイアスを取り除くには数字が最適ですね。ですが、負けたときにいちいち相手の山札の枚数や解決札の枚数を数えている人はいません。てかそんな時間も気力もない。

しかーし、最近はPTCGLという便利なものがありますよね。TCGをデジタル化したものは素晴らしく、デッキや手札、トラッシュの枚数が常に表示されており、テーブルトップでは見えにくい事実が見えたりします。



そして、PTCGLをやるようになって1年ほどたって気付いたのは、最終ターンの相手の山札の枚数、思ったより少ないなってことでした。
テーブルトップだと、ある程度の枚数があると結構な厚みがあり、「だいたい20枚くらいありそう」みたいに感じるのですが、2重スリーブだったり、スリーブ自体の厚さだったりで実際はかなり少なかったりします。

デジタルはしっかり数字で示してくれるのでこういったバイアスを取り除きます。勿論相手のデッキや展開にもよりますが、「何かを引かれると負け」というリーサル盤面では相手の山札がだいたい10枚前後、多くて15枚前後であることが多いです(あくまで傾向ですが)。サナとかロストだと1桁台であることもしばしば。

我々ロスギラサーナイト教徒は、そこにツツジやナンジャモを撃って祈りを捧げていることになります。これ、実はかなり危険な賭けをしているのでは??

ということで試しに計算してみましょう。

極めて単純化するために

a. 手札が5枚、山札が15枚の場合。解決札1枚。
b. 手札が5枚、山札が10枚の場合。解決札1枚。


a'. 手札が5枚、山札が15枚の場合。解決札2枚。
b'. 手札が5枚、山札が10枚の場合。解決札2枚。

を想定します。

相手の残りサイドが2枚だとして、ナンジャモやツツジを撃つシミュレーションをします。


ツツジの場合

まずは簡単なツツジの方から。手札と山札を混ぜて2枚+ターン開始時のドローで1枚引きます(合計3枚引くとします)。

以下、TCG用の確率計算ツールを使いました。
https://yazirusis.com/calc/probability.html 

a. 手札が5枚、山札が15枚の場合。解決札1枚。

ツツジは手札と山札を混ぜるので、合計20枚になります。
そこから3枚引いて、解決札1枚を引く確率は15%。流石に引くの辛そうですね。でも、引けないこともなさそうな確率。


b.手札が5枚、山札が10枚の場合。解決札1枚。

3枚引いて、解決札1枚を引く確率は20%となりました。五分の一。まあまあ引く。


次に解決札が2枚残っていた場合を計算してみましょう。

a'. 手札が5枚、山札が15枚の場合。解決札2枚。
3枚引いて、解決札1枚以上を引く確率は28%となりました。


b'. 手札が5枚、山札が10枚の場合。解決札2枚。
3枚引いて、解決札1枚以上を引く確率は37%となりました。2ターン目以降は50%前後を超えますね。
このレベルになると全然引かれてもおかしくない確率になっています。


ナンジャモの場合

当たり前ですが、ナンジャモに関しては既に解決札を持っている場合とそうでない場合でパターンが変わり、単純な確率が出せません。
(相手が唯一の解決札を既に手札に抱えていた場合、底に行くのでナンジャモ後に引く確率はゼロ。)

なので、計算する価値があるシチュエーションは、「相手が解決札を手札に抱えていない場合」です。要するに「ナンジャモを撃ったことで裏目る確率」を見ます。

先ほどのパターン分けをもう一度使います。

a.手札が5枚、山札が15枚の場合。解決札1枚。
b.手札が5枚、山札が10枚の場合。解決札1枚。

a'手札が5枚、山札が15枚の場合。解決札2枚。
b'手札が5枚、山札が10枚の場合。解決札2枚。

※注意点
ナンジャモは手札を山札の底に送るだけなので、手札の枚数が確率に加わらず、ツツジの場合より確率の分母が小さくなります。

a.手札が5枚、山札が15枚の場合。解決札1枚。
ナンジャモ後のデッキ枚数は20枚になりますが、底5枚は混ぜてないので引く可能性があるカードは実質15枚になります。
3枚引いて、解決札1枚を引く確率は20%

b.手札が5枚、山札が10枚の場合。解決札1枚。

3枚引いて、解決札1枚を引く確率は30%



解決札が2枚残っていた場合も見ます。



a'手札が5枚、山札が15枚の場合。解決札2枚。

ナンジャモ後のデッキ枚数は20枚になりますが、底5枚は混ぜてないので引く可能性があるカードは実質15枚になります。
3枚引いて、解決札1枚以上を引く確率は37%です。



b'手札が5枚、山札が10枚の場合。解決札2枚。

3枚引いて、解決札1枚以上を引く確率は53%です。ついに50%を超えました。

ナンジャモの場合は裏目る確率がまあまあ高いことが分かります。
もしボスを引かれて負けた場合、相手にナンジャモ前は持っていたかを聞いてみるといいかもしれませんね。まあ結果論でしかないんですけど。


まとめ


数学得意な人には色々突っ込まれそうな雑な計算でしたが、今回は認識に生じるバイアスを取り除くという目的だったので、こういう単純な計算でも指標としては十分価値があるのではないかと思います。簡単な計算ですが、一度ちゃんとやってみて、数値を見るというのは大事ですね。


あと、条件はかなり渋めに設定しています。場合によってはもっとデッキの枚数が少なかったりもするし、解決札の代替となるカードも含めると実質的な解決札が3~5枚以上だったりもする(ペパーからカウンキャとか、カイからスーエネ回収とか)ので、実際はもっと確率が高いケースが多いと見積もるべきでしょう。

キリがないので細かくはやりませんが、試しに15枚中3枚解決札でツツジをシミュレーションしてみると、50%普通に超えます。そりゃ引かれるわって感じです。

また、今回のシミュレーションはターン開始時のドローのみを想定しているものです。グラフを見れば分かりますが、追加ドローを1枚するだけでかなり確率が上がります。実際は花選びとかライコウの早駆け、キルリアのリファイン等、追加ドローが残っていることもあり、それらを踏まえると止まってくれる方がラッキーレベルに思えてきますね。

ただ、絶望するのはまだ早い!これはあくまで解決札1枚で勝負が決まる場合の話です。我々ロスギラサーナイト教徒は手札干渉に加えてカウンターキャッチャーや雪道など、さらに要求を上げることができます。そう考えると、相手は複数の解決札のコンビネーションが求められ、1ターンで解決できる確率は一気に下がると想定されます(今回はもう疲れたのでやりませんが)。
トップ解決でキレるときは、この複数要求を乗り越えられてからにしましょう。

こういった数字的な要素を踏まえた上で、手札干渉のプランを見つめなおすことは非常に大事だと思います。相手にトップ解決されたとき、冷静にそれは上振れか、そうでないかを判断してみましょう。そして、手札干渉に絶大な信頼を置きすぎることの危険性を考えてみましょう。僕はしばらくロスギラから離れたくなりました。

おわり。