第14回 専門医は必要? 後記編

こんばんは。世間はハロウィンですね。
今の勤務地は繁華街から離れているため、飲酒トラブルの救急搬送が割と少ないため、ハロウィンも安心して迎えることができます。

前回、前々回、専門医が必要かどうかについて前後編で私見を書きました。

読み返してみると、高度な専門性さえあれば食いっぱぐれない!!という勘違い野郎のように映ってしまったのではないかと心配になり、後記を書いてみました。

専門性≠専門医資格

大学病院を始めとする急性期病院に勤務されている方々の多くは、「専門性を高めれば食いっぱぐれない!!」と思っているのではないでしょうか。

結論から言うと、半分正解で半分間違いです。

ここでは、専門性という言葉が指すものが大事になってきます。

自分の領域で説明をすると、ECMOが分かりやすいです。

VAなりVVなりECMOは、多彩なパラメーターを管理し、多量の医療資源が必要で、適切に管理出来るのは優秀な集中治療医だけです。

ではECMO physicianは皆、裕福でしょうか? 

違います。

では何故でしょう?

まず、本当にECMOが必要な患者はどれだけいるでしょうか。

最近のコロナ禍で紛らわしくなりましたが、僕が若手としてECMOセンターに勤務していた頃、VA-ECMOは月に1例いるかどうか、VV-ECMOは年1-2例といったところでした。

年間10人前後のニーズのために、ECMO physicianは何人必要でしょうか?

正直、1人いれば十分です。

病院からすればECMOを管理出来る医師なんて1人いれば十分なんです。

それを履き違えて、「ECMOもバリバリやってました!」なんてドヤっても、病院としては高給を与える価値を感じない訳です。

また高度先進医療は一般的にコスパが悪いです。

保険点数は高いですが、必要な医療資源(スタッフ、薬剤、物品など)も多く、そんなに儲かる医療ではありません。

医療はインフラ的な要素が強いので、儲からなくてもやらないといけない訳ですが、あえてそこに潤沢な人件費をかける病院というのは流石に無いと思います。

まとめると、高度先進医療は医師の承認欲求のおかげで成り立っているといっても過言ではなく、そこを目指せば将来安泰というのは現実が見えてなさ過ぎます。

専門医資格は何を表しているか?

専門性が不要なら、専門医も不要なのでしょうか。

専門医資格は専門性ではなく、最低限の実力を担保するものです。

でも、実際はそれが一番重要なのです。

ECMOの話をしましたが、高度先進医療は、出来る人が少ないだけでなく、必要な人も少ないものです。

世の中の大半の医療機関からは、普通のことを普通に出来る人が求められています。なんたって、普通のことのニーズが圧倒的に多いからです。

採用する病院からすれば、実技試験をする訳にもいかないので、分かりやすい「専門医」という肩書きで判断しています。

例えば二次救急病院で、いきなり「ECMO回すぞ!早くプライミングしろ!」とか怒鳴る救急医よりも、胸痛のない心筋梗塞や少量のカテコラミンが必要な敗血症を普通に診療できる救急医の方が必要なのは自明でしょう。

専門医取得のためのステップで身につけたくらいのスキルが、実際世の中で求められているのです。

普通のことを普通にやる

スポーツの世界でも何でも、普通のことを普通にやるのが一番大事で一番難しいです。

専門医資格は普通のことが出来ることを表してくれますが、維持するのはそれなりに労力が要ります。

しかし、その労力すらかけられない人は医業一本でマネタイズすることは困難でしょう。

締めは前回同様ですが、医学生や初期研修医で将来に迷っている方は、専門医くらいはとっておいた方が良いです。

迷っていない方は己が信じる道を進めば良いと思います。

では次回に乞うご期待!

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