見出し画像

海外女装小説の紹介「女装警護官」③

私が機密誓約書に署名すると、別の男が椅子に腰かけ、大統領の夫婦生活について掘り下げた話をはじめた。

それは、ケネディ大統領が美しい女性への飽くなき欲求を持った男性であり、それがゆえに彼の結婚生活はもう何年もの間崩壊の瀬戸際に立たされている…というものであった。ジョン・F・ケネディの父親は、1961年に自身が衰弱性脳卒中を患う前に、息子の公的立場を崩壊させるスキャンダルを食い止め、そしてジャクリーンの心情を幾分かは改善するために、経済的な援助をおこなったものの、彼女は夫との離婚について度々口にして、再選の見通しを暗いものにしていた。

そしてジャクリーンが再び妊娠したとき、彼女はいくぶんかは心情が穏やかなものになり、夫に対して漁色癖を直すように求めた。だが、大統領の性格を知っている者は、それが成し遂げられるとは誰もが思っていなかった。

男が私に説明する「国家の機密」はこれからが本題であった。

じつは、ジャクリーンにはもう一つ要求があり、それは次の大統領選における彼女の「政治的」活動の大幅な削減であった。

これについては「代役」を用いるオプションが大統領補佐官の一人によって浮かび上がっていた。ジャクリーンはそのアイディアに大きな興味をそそられたものの、同時に、自分以外の別の女性が夫に近づくことについて不安を抱いていた。

誰かが冗談半分で彼女のために女装する男性を解決策に提案したとき、ジャクリーンは気分を害するどころか、夫に別の男性と結婚しているふりをさせるというオプションに興味を引いたようだった。

これに関しては、ハリウッドとブロードウェイが候補者の宝庫であったものの、機密保持等の観点から、すぐに候補としては外されてしまった。彼らが必要としていたのは、信頼に値する口の固さ、そして大衆の視線を欺けるまでに変装できる独身の「異性愛者」の男性だったのだ。

担当の誰かが、財務省エージェントのファイルの検索と身体的特性の精査を提案したは、ほんの偶然からだった。

その結果がいまここにいる私である。

この話を耳にしているとき、私の頭は予想もしない展開にかなり動揺していた。

私に対して最後に語りかけてきた人物は、ホワイトハウスにおける警護の責任者であった。その人物が言うところでは、私は武器を携行せず、勤務中は大統領ファミリーの一員として扱われるこになるというものであった。

そしてファミリー全員にはコードネームが付けられており、大統領は「ランサー」、ファーストレディは「レース」として呼ばれていた。そして私に与えられるコードネームは、古代ローマの女神「オーロラ」であった。



2時間後、会議がようやく終了したときには、私は完全なショック状態に陥っていた。半ば身体をふらつかせながら、書類の山となっている階下の我が事務所へと戻り、転任のための身辺整理に着手した。

段ボール箱にいくつかの私物を入れて財務省ビルを出て行くと、まったく想像もしない形で自分の人生が変わりつつあることを感じとった。だが、少なくとも私には…幸か不幸か…身上の変化を心配するような配偶者や恋人はいない。恋の炎などという洒落たものは、数ヶ月前に私を捨てていたのだ。私はアレクサンドリアのスタジオアパートに一人で住む独身者である。

バス停で待っていると、会議のときに私を精査した女性…アイリーンというファーストネームの女性が語りかけてきた。

「私たちがいますぐ取り組む必要があるのは、あなたの体重です。ジャクリーンようなサイズ4となるためには5ポンドの減量が必要です」



翌日、アイリーンと打ち合わせを始めたときに、私はこの女性がシークレットサービスと契約しているブロードウェイのインプレサリオであり、私と同じく、機密保持誓約書に署名をさせられていることを知った。

私たち二人は、秘密の任務のために、国立劇場の未使用の楽屋に部屋を構えることになった。


#海外小説 (女装、TS)の紹介まとめ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?