網代鶲屋

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夢を正確に文章に起こすことは不可能

目を開けたら、男の子が僕の顔を覗き込んでいた。 その男の子は小学生くらいで、 バケツの水でもかぶったのか ぽたりぽたりと、髪から滴が落ちている。 状況がよく分か…

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3年前
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僕は見たことしか書けないし、これは恋愛でもなんでもない。

ねこ‐ぜ【猫背】 首をやや前に出し、背を丸めた姿勢。また、そのようなからだつき。ーー「デジタル大辞泉」 *** 僕は猫背だ。 もちろん立っているときに限らず座っ…

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3年前
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田舎に現れる渋滞は、まやかし。

乗り慣れた車に、飲み慣れた飲み物を乗せる。 通い慣れた道に、見慣れた風景を横目に走る。 ただ、走る。 車の渋滞に巻き込まれて、このまま息が出来なくなればいいのに…

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3年前
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たまに見る。こんな夢。

「ばさばさ」という音がする。 鳥が飛び立つように、と使い古された喩えを使えばわかりやすいだろうか。 「ばさばさ」という音がする。 僕はひとり。 木箱の前で立って…

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3年前
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誰にでも訪れること。だけど、誰にも当てはまらないこと。

僕の祖父が亡くなったのは、歴史的豪雪の予報が出された日の朝でした。 カメラが好きな祖父は、娘である母や祖母の写真を撮るのが好きだったと、幼い頃に聞いたことがあり…

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3年前
2
夢を正確に文章に起こすことは不可能

夢を正確に文章に起こすことは不可能

目を開けたら、男の子が僕の顔を覗き込んでいた。

その男の子は小学生くらいで、

バケツの水でもかぶったのか

ぽたりぽたりと、髪から滴が落ちている。

状況がよく分からなかったので、無言でその男の子と視線を合わせていた。

「靴を片方なくしてしまったの」

ややあって、男の子が言った。

酷く小さい声だ。

ぽたりぽたりと滴る水滴の音のほうが鮮明に聞こえる。

「……靴?」

目があっているはず

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僕は見たことしか書けないし、これは恋愛でもなんでもない。

僕は見たことしか書けないし、これは恋愛でもなんでもない。

ねこ‐ぜ【猫背】

首をやや前に出し、背を丸めた姿勢。また、そのようなからだつき。ーー「デジタル大辞泉」

***

僕は猫背だ。

もちろん立っているときに限らず座っている時もだ。

だから、御多分に漏れず電車内で座っている時も背中を丸めている。

猫背の人はわかると思うが、
猫背の人は胸を張って生きている人よりも視界が若干低い。

立っている時は相手の胸から腹に視線がいき、

そして、座ってい

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田舎に現れる渋滞は、まやかし。

田舎に現れる渋滞は、まやかし。

乗り慣れた車に、飲み慣れた飲み物を乗せる。

通い慣れた道に、見慣れた風景を横目に走る。

ただ、走る。

車の渋滞に巻き込まれて、このまま息が出来なくなればいいのに。

なんて気味の悪いことを考えているが、田舎に渋滞は存在しない。

ただただ、灰や黒や青が行儀よく流れていく。

ふと、視界の端にあるものをとらえた。

この間までなかったそれは、まだ真新しさを残している。

田舎の国道の脇に、花が

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たまに見る。こんな夢。

たまに見る。こんな夢。

「ばさばさ」という音がする。

鳥が飛び立つように、と使い古された喩えを使えばわかりやすいだろうか。

「ばさばさ」という音がする。

僕はひとり。

木箱の前で立っている。

それは白木の箱で、「なんだか棺桶みたいだな。」とぼんやりした視界が判断する。

「ばさばさ」という音がする。

手元から何かが落ちていく。

何か。ではなく、それは僕自身だ。

僕の手が、腕が、肩が、胸が、ばらばらに崩れ落

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誰にでも訪れること。だけど、誰にも当てはまらないこと。

誰にでも訪れること。だけど、誰にも当てはまらないこと。

僕の祖父が亡くなったのは、歴史的豪雪の予報が出された日の朝でした。
カメラが好きな祖父は、娘である母や祖母の写真を撮るのが好きだったと、幼い頃に聞いたことがありました。

葬式は呆気ないもので、胡散臭い坊主が祖父の顔を見て手を合わせ、それらしい読経をして、それらしい慰めを言い、祖母から金を取ってゆきました。
――ああそうか。こうして世界は廻っていくのだな。
彼にも生活があります。家に帰れば奥さんが

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