見出し画像

ぼくらはライオンズでつながっている

休日の朝はゆっくりと寝ていたいものだ。ましてや、それが週の半ばの木曜の祝日であれば、早く起きる必然性なんて、まったくない。

しかし、その日の僕はいつも通り朝7時に目を覚まし、仕事のある日と同じように身支度を整えた。家族はまだベッドの中だ。しばらくして眠い目をこすりながら寝室から出てくる子どもたちを尻目に目的地へ向けて家をでる。向かうのは戸田競艇場だ。

ここまでの行動だけを見るとギャンブルジャンキーのようだが、実際の僕はそうではない。単なるライオンズファンである。

そんな僕が競艇場へと足を向けたのは、この日(2022年11月3日)が、ライオンズで左の中継ぎ投手として活躍した野田昇吾のボートレーサーとしてのデビュー戦だからだ。

最寄り駅である戸田公園からは無料のシャトルバスが出ている。いつもは、それなりに余裕があるはずのバスもこの日は満員。出口付近のステップに片足だけ乗せるようにして、なんとか体勢を保ちながらバスに揺られること数分。目的地の戸田競艇場へとたどり着く。

まだ、開場前にもかかわらず競艇場の入口へと続く橋の上には、長い行列ができている。ユニフォームや「のだなのだタオル」といった所持品から、明らかにライオンズファンとわかる人たちも列の中に多数見掛けた。かくいう僕もライオンズのキャップをかぶり、ファンクラブ特典のパーカーを着て、同じく特典のリュックを背負うというゴリゴリのファンファッションである。

模範的ライオンズファンの舟券。ライオンズには斎藤大将という同姓同名の投手もいます。

ちなみに僕は競艇に関しては、まったくの素人だ。「モンキーターン」というマンガで読んだ程度の知識しかない。生でボートレースを見ると、まず、そのスピードに圧倒される。凄まじい速さでターンマークに突っ込んでいき、他のボートにぶつからんばかりの勢いで旋回する。「水上の格闘技」の異名も決して大袈裟ではない。

そんなことを思いながら試走を眺め、慣れない手つきで舟券を購入し、建物内をうろついていると「永田さん!」と声を掛けられる。相手は、同じくライオンズファンのかつての同僚だ。今は、それぞれ違う会社で働いているが、彼も野田のデビュー戦を見に来たとのことだった。

4位だっだが可能性は感じた。

かつての同僚とスタート表示の大時計近くでレース開始の瞬間を待つ。
ところどころに、似たような理由で、この場に駆け付けた多くのライオンズファンがいる。ある人は野田のタオルを掲げ、ある人は一眼レフカメラを構えている。

大きな拍手で迎えられた野田昇吾は、最初のターンマークを上手く抜け出して2位争いに絡むかと思われた。スタンドからも思わず「おおっ!」と歓声があがる。しかし、ズルズルと後退し、最終的には4位でレースを終えた。
レース終了後、再びスタンドから大きな拍手が起こった。

12時すぎからビールを煽る退廃的な週末

野田のレースを観戦した後、居合わせたかつての同僚と戸田公園駅近くの回転ずしで昼飯を食べた。

「休日の昼間に競艇行って、ビールなんて退廃的ですね」

「しかも舟券当てたわけでもないのに寿司って」

そんな風に笑い合いながら、野田の話、ライオンズの話に興じた。

帰りのシャトルバスを待っている間に、係の人に聞いてみた。「いつも、こんなに人が多いんですか?」と。返ってきたのは、「いや、そんなことないですよ。普段の倍は入ってますね」という答えだった。

元ライオンズの野田昇吾というボートレーサーの存在がなければ、僕をはじめとした多くのライオンズファンは競艇場に足を運ぶことはなかっただろう。そして、久しぶりに会う友達とビールを飲みながら、好きなことについて語り合う休日も存在しなかった。

ライオンズというプロ野球チームがあること。西武線沿線で生まれ育った僕がライオンズファンであるということ。たった、それだけのことが多くの縁をつなげている。

今まで知らなかった何か。少しの間に疎遠になっていた誰か。それらをつなぎあわせるものが、スポーツのチカラなのだと思う。

Twitter→jake85elwood

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?