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【随筆日記】ストリートビューで追う47都道府県思い出の場所 《秋田県/47》

矢島町矢島駅

01秋田県矢島駅

 だいぶ以前、山形県と秋田県の県境付近に興味を持ち、山形は遊佐、秋田は象潟や鳥海に何度となく足を運んだことがある。まだ「おくりびと」なんて映画が世に出る前の話だった。おくりびとの舞台は遊佐だ。

 今考えるとあの一帯にははまる要素がたくさんあった。自分にとって庄内弁は津軽弁以上に魅力的だった。そんなあまりに限定的な方言を自分の耳で聞いてみようという欲求もあった。

 第2に鳥海山だ。すっかりあの山の魅力に惹かれていった。といっても登山はしないので山の周辺から見上げて楽しむ、そして季節毎に姿を変えるその様子にも夢中になったものだ。

 そんな時一度鳥海町の奥深く。栩沢(くぬぎさわ)、直根(ひたね)の集落を見てみたくなり秋の紅葉の美しい頃、そんなマイナーな場所をバイクで走り回っていた。その時に立ち寄ったのが矢島駅だった。写真とは違って小さな駅舎に待合室があるだけ。冷えた身体を缶コーヒーで温めながら一気に横浜まで帰る前にちょっと休憩をしていた。

 その日、南に下れば下るほど天気が悪いという情報は得ていたが、今のようにスマホで天気確認なんてできる時代でもなかった。缶コーヒー一本分の休憩を終えると一気に象潟まで下り、県境を越えて遊佐を通過し、余目あたりから内陸に入ってなどと漠然としたルートしか考えていなかった。本当に度胸を決める数分間、この矢島駅ですっかり整えてからバイクに跨がり、キックスタートをしてこの街を後にした。それからこの街を再び訪れる事はまだない。いつしか矢島という名前の町はなくなり、写真のような大きな駅舎が出来上がっているとは思ってもいなかった。

 結局その日は横浜には帰れなかった。新庄、天童、山形、米沢まで南下し、さらに大峠を越えて喜多方にまで戻った頃に日も暮れた。喜多方からは田島へ向かい、芦ノ沢温泉で休憩をした後土砂降りの中会津西街道を南下、しかし土砂降りには勝てず宇都宮で一泊。翌日宇都宮から横浜までの道のりはまったく距離も時間も覚えていない。

 当時バイクを走らせてあちこち見て回っていたが、今となってはあの時に見た風景はあの時バイクから見たからこそのものだったと思う■

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