【一夏の恋が教えてくれたこと】


皆さまにご案内いたします。
ただいま客室内にアラート音が鳴り響いております。

機長によりますと…
この飛行機は離陸に向けて滑走路を走っておりましたが…
離陸が絶望的な状況とのことでございます。

無理にアラート音を止めようとせず
大至急ライフベストを着用してください。


✈️

☀️☀️☀️


暑いですね。

ビール製造者を壊れそうなほど抱きしめたい季節がやってきました。

みなさんは夏になると思い出すことがありますか。

もしかして、ヒトナツの恋?

私はですね。
若い頃からよく恋愛相談を持ち掛けられるのです。

それもビール瓶割れて中身全部こぼれた後みたいな状態で持って来る。もう手遅れ。

そう、
恋のドツボにハマった女は
滑走路爆走エアプレーン状態。

小石が飛んでこようが鳥が直撃しようが止まらない。
海にドボンするまで止まらないのですよ。


この暴走飛行機、
操縦室でアラート音が鳴っていることには気付いている。
(つまり、本能的にはその恋愛を警戒している。)

でも、手動で止める。



気持ちはわかります。
私にも経験がありますから。



🏄☀️



かつて私が国際線CAとして世界を飛んでいた頃。

夏になるとフライトどころじゃなかった。

Tシャツの下に忍ばせた水着。
東京のど真ん中から湘南へ向かうビーサン。


湘南新宿ラインで到着する茅ヶ崎はサザンの曲にも登場する夏の代名詞。


駅から海へ向かう途中、たまらずコンビニで缶ビールを買うのがお決まりでした。

ロング缶の一本目に手をかけながらビーサンの足取りは砂浜を待ちきれないのです。


すぐにぬるくなるビール。
肌にまとわりつく太陽。


私は一人のサーファーに恋を。


当時の私は
捨て犬のような今にもクゥーンと泣き出しそうな顔がタイプでした。

彼のサングラスの下はまさに捨て犬アイズ。
憂いのあるつぶらな瞳をしていました。


🐕


ポチ(勝手に命名)は優しかった。

湘南から当時私が住んでいた恵比寿まで車で送ってくれたり、ご飯をご馳走してくれたり。



でも、
何かが違ったのです。


私はポチに会うたびGoogleで男性心理を検索し、永遠に見つからない答えを探していました。



ポチはこんなことを言う人でした。



「俺たぶん結婚できずに孤独死すると思う。
 でも周りのみんなが幸せならそれでいいんだ」


哀愁漂うポチ。
ポチの周りにダンボールが見えた私は
胸がキュッと締め付けられました。

自分より人の幸せを願うなんて、本当に優しい人…。


💓


夏が終わりに近付いた頃。
最後のデートとなる日は突然やってきました。


ポチの車でドライブしていると、私の大好きなリンガーハットが目に入りました。


思わずつぶやく私。


「リンガーハット大好き、九州を思い出すから…。週1で行ってる!!」


するとポチはこう答えました。

「へー、意味わかんない。
 全然おいしいと思わない。」



⚠️⚠️⚠️


その瞬間。

ビーー!
ビーー!

アラート音がけたたましく鳴り響きました。


もう止めることなどできません。

機体は激しく失速していきます。


一夏のあいだ爆走した飛行機は、
なんとか海の寸前で停止したのです。




✈️




その優しさは、果たして本物なのか。

その優しさは、目的のためのツールではないか。

 
恋愛だけの話ではないかもしれません。


本当に優しい人。
本当に思ってくれている人。


それは、
相手の幸せに1gでも多く心を寄せようとする人のことではないでしょうか。


人の幸せというのは、
小さなものの中にあります。


その頃の私にとってリンガーハットは、
ただのチャンポン屋ではなかったのです。


故郷や、家族と過ごした時間を思い出させてくれる味。

孤独な都会生活で唯一の拠り所だったのです。

それは些末なことかもしれません。

しかし私の小さな幸せにすら気付かない人が、
私を幸せにしてくれるはずがありません。


ポチが言った
「みんなが幸せならそれでいい」
というセリフは空っぽだったと気付きました。


それでも私は…


誰かがダンボールに入ったポチを拾ってくれていることを願っています🐕📦


🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻

皆さま、
いつも私のフライトにご搭乗くださり誠にありがとうございます。


私だけでなく皆さまにとってもここが、しがらみのない安らぎの場になれたらと願っています。


夏バテ等なさらず、心身ともに元気で夏を乗り越えてくださいね。

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