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1月1日/子虎といっしょに

こんにちは。Ellie*です。
皆さん、あけましておめでとうございます。

ことしは寅年。
わたしにとっては、11年間待っていた、寅年です。

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ことしの年賀状です。
かわいい子虎でしょう?
(なんとなく、マントヒヒっぽいお顔だなと
思っていて、それがまたかわいらしいのです)
この子虎は大理石に彫られた印で、
わたしがつくったものではありません。

きょうは、この印にまつわる物語を
お話ししたいと思います。

*****

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立派な大理石の印。
これをつくったのは、仮に鈴木さんとしますが、
近所に住むおじいちゃんです。
そしてこの印は、12年前に鈴木さんから
わたしが預かったものなのです。


鈴木さんとの出会いは、わたしが小学生のころ。
友だちに誘われて入ったこども会で、
地域のおとなのひとたちに
年賀状を書くという行事がありました。
宛先をランダムに振り分けられて、
はんこを捺したり、シールを貼ってみたり、
こどもらしい、にぎやかな年賀状をつくりました。
忙しいひとたちだから
返事はこないかもしれないけれど
がっかりしないでね、と
こども会のおばちゃんに言われたのを覚えています。

お正月になるころには、送った年賀状のことなんて
すっかり忘れていましたが
年が明けて何日かしたあと、
わたし宛てに一通の年賀状が届きました。

差出人名には
「自治会長 鈴木□□」と書かれていて、
裏には見事な筆によるメッセージも
書かれていました。

あのときだした年賀状の
お返事をいただいたのだわ、と気がついて
とても嬉しい気持ちになったことを覚えています。
(地域のえらいひとから年賀状をもらうなんて、
こどもにとっては
とても名誉なことのように感じたのです。)

その後、どうしたのだか
経緯をあまり覚えていないのだけれど、
鈴木さんは大理石で印を彫るのが趣味だと仰り、
なんとわたしの名前の印を掘って
贈ってくださったのです。
(その印は、いまでも大切に使っています。)

こどものころに直接会ったのは
印を受けとったときの一回きりでしたが、
そのあとも数年間、年賀状のやり取りをしました。

そして、すこしおとなになったわたしは、
こども会のまとめ役となって行事を計画したり、
地域の活動もたくさん手伝うようになっていました。

ある年の、地域の市民体育祭で
こどもたちの引率をしていたわたしは、
来賓席に「元自治会長」として
鈴木さんの名前があることに気づきました。
顔は覚えていなかったけれど、
もしかしたらもう二度と話す機会はないかもしれない
改めてあの時のお礼を伝えたい
そう思ってわたしは声をかけました。

鈴木さんは、わたしのことを
覚えてくださっていていました。
青くて高い秋の空を眺めながら、
お年はもうすぐ八十なのだということ、
戦時中は空軍にいたから
雲をみるとその高さがわかるのだという
お話などを聞きました。
それから、いつか年賀状をくれたちいさな子が
いまは地域で活躍するお姉さんに
なってくれていることがうれしい、と
すてきな笑顔で仰ってくださいました。

わたしはあの日の青空に浮かぶうすい雲と、
空を見つめる鈴木さんの横顔を
いまでもずっと覚えています。


その翌年、鈴木さんから、
渡したいものがあるのだけれど、と
連絡をいただきました。
受けとったのは、大きくて重い
石のかたまりのような子虎の印でした。
その年は寅年。いまから12年前の寅年です。

「これは去年彫ったもので気にいっているけれど、
次の寅年には自分はもういないから
もしよかったら使ってほしい」

そう言われて、わたしはかぶりを振りました。
「きっとそんなことはないです。
次の寅年もきっと
お元気でいらっしゃると思います。」
だから受け取れません、そう言おうとしましたが、
ぜひわたしにと渡してくださっているものを
突き返すような真似をするのも
ちがうような気がして、
結局わたしは一旦その印を預かって
でも11年後に年賀状をつくるころに
きっとお返ししに来ます、という約束をして
その印を受けとったのです。

それから、ときどき地域行事などで
鈴木さんにお会いするようになりました。
わたしは夏祭りのお手伝いの合間に
来賓席に遊びにいってお喋りしたり、
数年後には地区内の引越しで家が近くになったので、
地区パトロールの帰りに
一緒に歩いて帰ったりしました。

(鈴木さんだけでなく、地域のおとなのひとたちには
ほんとうにかわいがっていただきました。
わたしはおとなになってからも、
ずっと「しあわせなこども」でした。)


そして、いよいよ次がその12年後の寅年という昨年。
わたしが信じていたとおり、
鈴木さんはいまも変わらず
近くに住んでいらっしゃいます。

でも、だれも予想なんてできなかったコロナ禍で、
もう少し経てばお伺いできるだろうか、
もしかしたらこのことは
忘れてしまったかもしれないから
一度お話ししたい…と
思っているうちに夏が来て、秋が来て、
偶然お会いできれば一言伝えられるのに、と
思ったままそんな機会もなく、
あっという間に年末になってしまいました。

どうしよう、お宅に伺ったらご迷惑でしょうか、
それともわたしが使った方が?
いろいろ考えて、結局わたしの方で
年賀状に使わせていただくことにしました。

印を捺した年賀状が送られてきたら
喜んでいただけるかな、とも思ったり。

そしてできれば、次も、その次も、
そのさらに次の寅年も
この子虎と一緒に迎えたいという
手紙を添えて投函しました。

*****

長くなってしまいましたが、
わたしにとっては特別な寅年のお話でした。
どうかことしもすてきな年になりますように。

皆さん、また一年どうぞよろしくお願いいたします。

いまは9日からGallery&Cafe AQUAさんで開催される
「AQUART2022」という展示会に向けて
絵を描いています。
お正月休みは、本と絵と過ごすことができそうです。

Ellie*

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