ダニング=クルーガー曲線という都合の良いグラフ
ダニング=クルーガー効果という、ネットではかなり有名な認知バイアスがある。
ひと言で言えば、バカほど自信満々という話だ。
このグラフは頻繁にSNS(というか旧twitter)を利用している人ならば、きっとどこかで見かけた事があるのではないだろうか。
これを見て、あるある…と感じた人はきっと少数ではないだろう。
私もそう思った一人だ。
だが、これは偽りのグラフらしい。
そもそもダニングとクルーガーが行った実験というのはこのようなものではない。
実際の実験内容というのは、こういうものだった。
バカほど自信満々…というのとは異なる。
これは要するに平均以上効果(レイク・ウォビゴン効果)と類似のものであり、概ね自らを過大評価しがちだという話だ。
下位の人ほど実際の能力との開きが大きく、能力が上がるほどに差異は少なくなっていくのだが、上位25%になると逆に謙虚になってくる。
しかし、そもそもダニング=クルーガーの実験というのは、母数が非常に少ないものであり信憑性に欠けるとされている。
私の主観では割と合っているのではないか?という気はするのだが。
話が逸れたが、では何故ダニング=クルーガー曲線はこれほど支持されているのだろうか?
ウクライナの一件で大きく株を落としてはいるが、有名なフィギュアスケート選手にエフゲニー・プルシェンコという人がいる。
彼はオリンピックの個人種目で銀金銀の3つのメダルを獲得している大変優れた選手なのだが、日本の番組で持て囃されていた時期があり、持ちネタが「私はスケートチョットデキル」だったそうだ。
無論、ちょっとじゃないだろ!とツッコミを受けるところまでがお約束だ。
このネタは何故か他の分野でも使われる事になり、有名なのはリーナス・トーバルズ(Linuxの生みの親)が「ワタシハリナックスチョットデキル」と書かれたTシャツを身に着けていた一件だろう。
リーナスは性格に難がある人として有名であり、多分誰かがウケ狙いで着せたのではないかと思うが、以降「チョットデキル」はエンジニア界隈では最高峰とされるようになり、チョットデキル曲線とも呼ばれるようになった。
さらにここからどういうワケか、ポプテピピックと謎のコラボを果たし「完全に理解した」と「チョットデキル」はセットで認知されるようになる。
ダニング=クルーガー曲線というのは、エンジニアの成長過程あるあるのグラフだと思う。
エンジニアではないが、10年以上前のようやく基礎をひと通り習得したばかりの自分にも近い経験がある。
きっと、過去の自分を振り返った技術系の人々が、俺にもこんな時期があったと共感するのだろう。
「チョットデキル」まで到達する人は僅かだろうが。
ただ、このグラフはかなり誇張されたものであり、眉唾とされる実際の実験結果であっても、下位25%の人々は中の上〜中の下の人々ほどの自信を持ち合わせてはいない。(僅差にはなるが)
グラフではあたかも、少し齧っただけの初心者が玄人よりも高い自信を持っているかのように書かれているが、そうではなく実態との差が非常に大きいというだけだ。
しかし、このような人が近くにいたとしたら「あいつは無能なのに人より優れていると思っているらしい。滑稽だ。」と感じる事だろう。
自己認識と現実との乖離があまりにも大き過ぎると嘲笑の的になる。
あるワクチン陰謀論者が、ワクチン接種を勧める医者を指して「医師国家試験なんて9割が合格するものであり、運転免許と大差ない。あいつは藪医者だ。」などと投稿し、意を同じくする人々から喝采を受けていた事があった。
なんとも凄まじい主張だ。
彼らは自らを「目覚めた者」だと主張しているが、現実にこのような人と遭遇したなら、きっとニヤニヤが止まらないだろう。
ダニング=クルーガー曲線は、無知で自信過剰な人をデフォルメした面白グラフだと考えると腑に落ちる。
一種のファクトイドなのだろうが、SNSで悪目立ちする愚か者を嘲弄するのにもってこいの「もっともらしい俗説」として多くの人々に語り継がれているのだろう。
※そもそも大半の人は、自分自身を実際よりも上だと思うのが常であり、自信過剰な状態が普通なのだという話がある。それについては過去の記事でも何度か触れており「皆、自身を平均かそれより少し上だと思っている」と述べているが、実際の自分+20%以内の自己評価であれば正常な範囲内だろうと思う。