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同期発電機の並行運転


並行運転

図1 2台の並行運転

同期発電機を複数台並列にして、運転する方法を並行運転という。図1に2台の同期発電機で運転する場合の回路図を示す。並行運転する際には、後発投入する側(後で投入される側)は、同期を取る必要がある。

図2 同期投入時

例として、図2の状況を考える。今、発電機Aが先発(先に投入される側)投入され、発電機Aのみで負荷に電力を供給している。負荷が増加し、発電機Aだけでは容量不足になるため、発電機Bを投入したい。この時、発電機Bは発電機Aが供給している電圧波形と一致するように、原動機の回転速度や励磁を調整しないといけない。この電圧波形を一致させることを同期をとるという。電圧波形が一致しないといけない理由は、後で述べる。発電機Bが同期をとれた場合のみ、遮断機CBが投入され、図1のように2台で運転することができる。図2の状況を系統図としてみると、図3のようになる。

図3 系統図

電圧の大きさが異なる場合

並行運転する際には、後発側が同期を取らないといけない。ここからは、なぜ同期が必要かを見ていく。図4は、発電機Aと発電機Bが同期をとれた状態である。

図4 同期状態

ここで、発電機Aの電圧が発電機Bより大きい場合を図5に示す。図5では、発電機Aと発電機Bの間に、電位差が生じていることが確認できる。

図5 電圧の大きさが異なる場合

発電機Aと発電機Bの間で電位差があるということは、図6に示すように、発電機間に電流が流れる。これを循環電流という。循環電流$${\dot{I_{c}}}$$は、

$$
\dot{I_{c}} = \frac{\dot{E}_{a}-\dot{E}_{b}}{\dot{Z}_{a}+\dot{Z}_{b}} \tag{1}
$$

で求まる。

図6 発電機間に電位差がある場合

循環電流は、有効分と無効分で役割が異なる。
今、電圧の大きさのみを変化させることを考える。
電圧の大きさは、$${E_{a}>E_{b}}$$、電圧の差分を$${\dot{E}_{c}}$$、インピーダンスは、電機子抵抗が十分小さいとして、$${\dot{Z}_{a}=\dot{Z}_{b}=jx_{s}}$$とすれば、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$は、式(1)より

$$
\begin{align}
\dot{I_{c}} &= \frac{\dot{E}_{a}-\dot{E}_{b}}{\dot{Z}_{a}+\dot{Z}_{b}} \notag\\
&= \frac{\dot{E}_{c}}{j x_{s}+j x_{s}}\notag\\
&= -j\frac{\dot{E}_{c}}{2x_{s}}\tag{2}\\
\end{align}
$$

となる。

図7 電圧の大きさが異なるの時のベクトル図

図7に電圧の大きさが異なる場合のベクトル図を示す。今変化させているのは、大きさのみであるので、ベクトルの向きは同じで、長さが異なる状況である。また、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$は、電圧の差分$${\dot{E}_{c}}$$に対して$${\frac{\pi}{2}}$$遅れとなる。
発電機Aでは、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$は、流れ出る方向である。よって、発電機Aの電圧より$${\frac{\pi}{2}}$$遅れの電流になる。一方で、図6に示すように、発電機Bは、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$が流れ込んでくるので、$${-\dot{I}_{c}}$$となる。そのため、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$は、発電機Bの電圧より$${\frac{\pi}{2}}$$進みの電流になる。発電機Aでは、減磁作用により、界磁が弱まる。発電機Bでは、増磁作用で界磁が強まるため、発電機間で誘導起電力が等しくなるように働く。この時の循環電流は、無効分であり、横流または、無効横流とよぶ。実際には、自動電圧調整器(AVR)で横流補償を行うことで、迅速に電圧の大きさが一致するように調整する。

位相差がある場合

電位差を生じさせるのは、電圧の大きさが異なるときだけではない。図8のように、位相差がある場合も電位差が生じる。

図8 位相差がある場合

図8の状況においても、電位差が生じるため循環電流$${\dot{I}_{c}}$$が流れる。位相差が生じる場合のベクトル図は、図9のようになる。発電機Bが発電機Aより位相が$${\delta}$$だけ遅れている場合を示している。

図9 位相差がある場合のベクトル図

電圧の差分を$${\dot{E}_{c}}$$、インピーダンスは、電機子抵抗が十分小さいとして、$${\dot{Z}_{a}=\dot{Z}_{b}=jx_{s}}$$とすれば、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$は、式(2)と同様に、

$$
\begin{align}
\dot{I_{c}} &= \frac{\dot{E}_{a}-\dot{E}_{b}}{\dot{Z}_{a}+\dot{Z}_{b}} \notag\\
&= \frac{\dot{E}_{c}}{j x_{s}+j x_{s}}\notag\\
&= -j\frac{\dot{E}_{c}}{2x_{s}}\tag{3}\\
\end{align}
$$

となり、$${\dot{E}_{c}}$$に対して$${\frac{\pi}{2}}$$遅れとなるので、図10のようになる。

図10 循環電流を追加したベクトル図

ここで、図11に示すように、電圧の差分ベクトル$${\dot{E}_{c}}$$と循環電流$${\dot{I}_{c}}$$を原点に移動させる。

図11 電圧の差分と循環電流を原点に移動

原点に移動させると、図12のベクトル図ができる。

図12 位相をずらした場合のベクトル図

発電機電圧$${\dot{E}_{a}}$$、$${\dot{E}_{b}}$$の電圧の大きさを$${E_{0}}$$とすれば、図13のような二等辺三角形ができることが分かる。電圧の差分ベクトル$${\dot{E}_{c}}$$と循環電流$${\dot{I}_{c}}$$が、直角に交わることは、図10で見た通りである。

図13 ベクトル図からできる二等辺三角形

二等辺三角形の性質の1つとして、二等辺三角形の頂角の二等分線は底辺と直角に交わるというものがある。循環電流$${\dot{I}_{c}}$$は、頂角から出て、底辺と直角に交わっているため、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$の線分は、二等分線となっている。よって、図14のように循環電流$${\dot{I}_{c}}$$と各発電機電圧の間には、$${\frac{\delta}{2}}$$の位相差がある。

図14 循環電流と各発電機間の位相差

循環電流$${\dot{I}_{c}}$$によって、発生する電力を考える。
電圧の差分ベクトル$${\dot{E}_{c}}$$は、図9と図14から、$${\dot{E}_{a}}$$の$${\sin}$$成分を2倍すれば良い。発電機Aの電圧$${\dot{E}_{a}}$$の大きさは$${E_{0}}$$なので、

$$
\dot{E}_{c} = j2E_{o}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)\tag{4}
$$

となる。よって、式(3)で求めた循環電流$${\dot{I}_{c}}$$は、

$$
\begin{align}
\dot{I_{c}} &=  -j\frac{\dot{E}_{c}}{2x_{s}}\notag\\
&=-j\frac{\left(j2E_{o}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)\right)}{2x_{s}}\notag\\
&= \frac{E_{0}}{x_{s}}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)\tag{5}
\end{align}
$$

となる。これは、電圧の大きさが異なるときの循環電流と異なり、有効分の電流となっている。
循環電流$${\dot{I}_{c}}$$によって、各発電機で発生する電力$${P}$$は、

発電機A
発電機Aの電圧$${\dot{E}_{a}}$$の大きさは$${E_{0}}$$、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$の大きさは、$${\frac{E_{0}}{x_{s}}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)}$$なので、

$$
\begin{align}
P_{A}&= E_{0}I_{c}\cos\left(\frac{\delta}{2}\right)\notag\\
&= E_{0} \frac{E_{0}}{x_{s}}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)\cos\left(\frac{\delta}{2}\right)\tag{6}\\
\end{align}
$$

ここで、加法定理より、

$$
\begin{align}
\sin(a+b)&= \sin(a)\cos(b)+\cos(a)\sin(b) \tag{7}\\
\sin(a-b)&= \sin(a)\cos(b)-\cos(a)\sin(b) \tag{8}\\
\end{align}
$$

であるが、式(7)と式(8)を足すと、

$$
\begin{align}
\sin(a+b)+\sin(a-b)&= 2\sin(a)\cos(b)\notag\\
\sin(a)\cos(b) &= \frac{\sin(a+b)+\sin(a-b)}{2}\notag\\
\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)\cos\left(\frac{\delta}{2}\right) &= \frac{\sin\left(\frac{\delta}{2}+\frac{\delta}{2}\right)+\sin\left(\frac{\delta}{2}-\frac{\delta}{2}\right)}{2}\notag\\
&= \frac{\sin\left(\delta\right)}{2} \tag{9}
\end{align}
$$

となる。式(9)を式(6)に代入すると、

$$
\begin{align}
P_{A}&= E_{0} \frac{E_{0}}{x_{s}}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)\cos\left(\frac{\delta}{2}\right)\notag\\
&= \frac{{E_{0}}^{2}}{x_{s}}\frac{\sin\left(\delta\right)}{2} \notag\\
&= \frac{{E_{0}}^{2}}{2x_{s}}\sin\left(\delta\right)\tag{10}
\end{align}
$$

となり、これが循環電流$${\dot{I}_{c}}$$によって、発電機Aで発生する電力である。

発電機B

図15 循環電流が負の場合のベクトル図

発電機Bは、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$が流れ込むので、$${-\dot{I}_{c}}$$となる。図15に示すように$${-\dot{I}_{c}}$$は、発電機Bの電圧$${\dot{E}_{b}}$$と$${\left(\pi - \frac{\delta}{2}\right)}$$の位相差がある。よって、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$によって、発電機Bに発生する電力$${P_{B}}$$は、発電機Bの電圧$${\dot{E}_{b}}$$の大きさが$${E_{0}}$$、循環電流$${\dot{I}_{c}}$$の大きさが、$${\frac{E_{0}}{x_{s}}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)}$$なので、

$$
\begin{align}
P_{B}&= E_{0}I_{c}\cos\left(\pi - \frac{\delta}{2}\right)\notag\\
&= E_{0} \frac{E_{0}}{x_{s}}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)\cos\left(\pi - \frac{\delta}{2}\right)\tag{11}\\
\end{align}
$$

となる。$${\cos\left(\pi - \frac{\delta}{2}\right)}$$は、加法定理より

$$
\begin{align}
\cos\left(\pi - \frac{\delta}{2}\right) &= \cos(\pi)\cos\left( \frac{\delta}{2}\right)+\sin(\pi)\sin \left( \frac{\delta}{2}\right)\notag\\
&= -\cos\left( \frac{\delta}{2}\right)\tag{12}
\end{align}
$$

となるので、式(11)は、

$$
\begin{align}
P_{B} &= E_{0} \frac{E_{0}}{x_{s}}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)\cos\left(\pi - \frac{\delta}{2}\right)\notag\\
&= E_{0} \frac{E_{0}}{x_{s}}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right) \left(-\cos\left( \frac{\delta}{2}\right)\right)\notag\\
&= - \frac{{E_{0}}^{2}}{x_{s}}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)\cos\left( \frac{\delta}{2}\right)\tag{13}
\end{align}
$$

となるが、式(13)は、式(6)にマイナスを掛けただけなので、

$$
\begin{align}
P_{B} &= - \frac{{E_{0}}^{2}}{x_{s}}\sin\left(\frac{\delta}{2}\right)\cos\left( \frac{\delta}{2}\right)=-P_{A}\tag{14}
\end{align}
$$

となる。

よって、循環電流によって、発電機Aでは、$${P_{A}}$$だけ電力が増えるので、速度が遅れる。発電機Bでは、$${P_{A}}$$だけ電力が減るので、速度が増加する。したがって、この有効分の循環電流は、発電機間の速度を一致させるように働き、電圧の位相を保つように働く。この時の電流を同期化電流という。

並行運転の条件

最後に並行運転の条件を考える。
並行運転する際に、発電機間に電位差が生じることで、循環電流が流れることを見た。したがって、電位差が生じないような条件を作る必要がある。
電位差を生じないようにするには、

  1. 電圧の大きさが等しい。

  2. 位相差が等しい

である。位相差に関しては、図16に示すように周波数が異なる場合にも発生する。

図16 周波数が異なる場合

また、三相の場合は、図17に示すように相回転によっても電位差が生じる。通常は、相順を$${a\to b\to c}$$の順であるが、$${a\to c\to b}$$になっている場合、図17で$${b}$$と$${c}$$が入れ替わっている状態と同期を取ることになり、電位差が生じる。

図17 三相の場合

最後に、周波数や位相、相回転が一致していても、図18に示すように高調波成分などで、波形の形が一致していない場合も電位差が生じる。

図18 波形が異なる場合

よって、まとめると同期発電機の並行運転の条件は、

  1. 電圧の大きさが等しい。

  2. 位相が同位相である。

  3. 周波数が等しい。

  4. 相回転が等しい。

  5. 波形が一致していること。

となる。
条件を言葉で覚えるのも良いが、結局のところ図4に示した、波形が一致しているイメージがあれば、言葉で覚える必要もなくなる。

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サイト

https://sites.google.com/view/elemagscience/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0

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