等価回路でみる三相誘導電動機
等価回路は、多くの情報を含んでいる。そのため、等価回路を理解することで公式とされているものの多くを導ける。電験では、等価回路を理解することで、暗記することも少なくなり、応用力も身につく。今回は、三相誘導電動機について等価回路から読み取れることを見ていく。
三相誘導電動機の等価回路
三相誘導電動機の1相分のL型等価回路を図1に示す。
1相分であることに注意する必要がある。また、多くの場合、1次相電圧$${\dot{V}_{1}}$$は基準ベクトルなので、$${\dot{V}_{1}=V_{1}}$$である。
$${s}$$はすべりである。
定義されている式
等価回路から導かれるもの以外に定義されているものを先にみていく。これは定義されているため、もちろん等価回路から読み取れるはずはない。
同期速度$${N_{0}}$$
周波数$${f}$$、極数$${p}$$とすると、
$$
N_{0} = \frac{120f}{p} \tag{1}
$$
すべり$${s}$$
回転子の回転速度を$${N}$$とすると、
$$
s = \frac{N_{0}-N}{N_{0}} \tag{2}
$$
すべりは、実際の回転が、どの程度基準速度から遅れているかを示す指標である。基準となる速度は、回転子を回転させるのに必要な回転磁界の回転速度である。つまり、同期速度である。分子は、同期速度との相対速度を取る必要があるので、同期速度から回転子の回転速度を引く。
停止時および同期速度で回転時のすべり
停止時は、$${N=0}$$であるから、
$$
\begin{align}
s &= \frac{N_{0}-0}{N_{0}} \notag\\
&= \frac{N_{0}}{N_{0}} \notag\\
&= 1 \tag{3}
\end{align}
$$
同期速度で回転しているときのすべりは、
$$
\begin{align}
s &= \frac{N_{0}-N_{0}}{N_{0}} \notag\\
&= \frac{0}{N_{0}} \notag\\
&= 0 \tag{4}
\end{align}
$$
となる。よって、停止時や同期速度で回転しているときの値を求めたいときは、各式のすべり$${s}$$に$${s=0}$$や$${s=1}$$を代入すればよい。
回転子の回転速度$${N}$$
すべりの定義式である式(2)から、回転子の回転速度は次のようにも表せる。
$$
\begin{align}
s &= \frac{N_{0}-N}{N_{0}} \notag\\
sN_{0} &= N_{0} - N \notag\\
N &= N_{0}-sN_{0} \notag\\
&= \left(1-s\right)N_{0} \tag{5}
\end{align}
$$
同期角速度$${\omega_{0}}$$
$$
\begin{align}
\omega_{0} &= 2\pi\frac{N_{0}}{60} \notag\\
&= 2\pi\frac{1}{60}\frac{120f}{p} \notag\\
&= \frac{4\pi f}{p} \tag{6}
\end{align}
$$
角速度$${\omega}$$
$$
\begin{align}
\omega &= 2\pi\frac{N}{60} \notag\\
&= 2\pi\frac{(1-s)N_{0}}{60} \notag\\
&=(1-s)2\pi\frac{N_{0}}{60} \notag\\
&= (1-s)\omega_{0}\tag{7}
\end{align}
$$
トルク$${T}$$
出力を$${P}$$とすれば、角速度$${\omega}$$を用いて、次式で定義される。
$$
T= \frac{P}{\omega} \tag{8}
$$
等価回路から導かれる式
二次側の合成抵抗
$$
{R_{2}}^{\prime} + \frac{1-s}{s}{R_{2}}^{\prime} = \frac{{R_{2}}^{\prime}}{s} \tag{9}
$$
励磁電流$${\dot{I}_{0}}$$とその大きさ$${I_{0}}$$
励磁回路は基本的にアドミタンス表示なので、注意が必要。アドミタンスは抵抗の逆数なので、電流を求める際は、電圧をアドミタンスで割るのではなく、電圧にアドミタンスを掛けないといけない。
$$
\begin{align}
\dot{I}_{0} &= \dot{V}_{1}\left(b_{0}-jg_{0}\right) \tag{10}\\
I_{0} &= V_{1}\sqrt{{b_{0}}^{2}+{g_{0}}^{2}} \tag{11}\\
\end{align}
$$
一次負荷電流$${{\dot{I}_{2}}^{\prime}}$$とその大きさ$${{I_{2}}^{\prime}}$$
等価回路を見ると、励磁回路とそれ以外の並列回路である。よって、一次負荷電流$${{\dot{I}_{2}}^{\prime}}$$を求めるには、一次相電圧を全インピーダンスで割ればよい。
$$
\begin{align}
{\dot{I}_{2}}^{\prime} &= \frac{\dot{V}_{1}}{\left(R_{1}+\frac{{R_{2}}^{\prime}}{s}\right)+j\left(x_{1}+{x_{2}}^{\prime}\right)} \tag{12}\\
{I_{2}}^{\prime} &= \frac{V_{1}}{\sqrt{\left(R_{1}+\frac{{R_{2}}^{\prime}}{s}\right)^{2}+\left(x_{1}+{x_{2}}^{\prime}\right)^{2}}} \tag{13}\\
\end{align}
$$
一次入力$${P_{1}}$$
一次入力$${P_{1}}$$は、励磁電流と一次側負荷電流が分岐する点から二次側をみた電力である。
$$
\begin{align}
P_{1} &= 3\left(R_{1}+\frac{{R_{2}}^{\prime}}{s}\right){{I_{2}}^{\prime}}^{2} \tag{14}\\
\end{align}
$$
等価回路は1相分なので、出力や損失関係はすべて3倍して3相分求める必要がある。
一次銅損$${P_{c1}}$$
一次銅損$${P_{c1}}$$は一次巻線抵抗$${R_{1}}$$の消費電力なので、
$$
P_{c1} = 3R_{1}{{I_{2}}^{\prime}}^{2} \tag{15}
$$
二次銅損$${P_{c2}}$$
二次銅損$${P_{c2}}$$は二次巻線抵抗$${{R_{2}}^{\prime}}$$の消費電力なので、
$$
P_{c2} = 3{R_{2}}^{\prime}{{I_{2}}^{\prime}}^{2} \tag{16}
$$
機械的出力$${P_{m}}$$
機械的出力$${P_{m}}$$は、等価回路上では出力抵抗での消費電力である。実際には、三相誘導電動機の軸の部分の動力である。軸の部分では、機械損を考慮する場合もある。その場合は、機械損分を引いたものが出力になる。電験の問題文によっては、出力の取り扱い方を明示しているときもあれば、していないときもある。通常、電験の問題では、機械損は無視することが多いので、機械的出力=三相誘導電動機の出力であるが、機械損を考慮した問題では、三相誘導電動機の出力=機械的出力-機械損となる。
$$
P_{m} = 3\frac{1-s}{s}{R_{2}}^{\prime}{{I_{2}}^{\prime}}^{2} \tag{17}
$$
式(8)よりトルク$${T}$$は、機械的出力を用いると、次式となる。
$$
T= \frac{P_{m}}{\omega} = \frac{3\frac{1-s}{s}{R_{2}}^{\prime}{{I_{2}}^{\prime}}^{2}}{\omega} \tag{18}
$$
二次電力$${P_{2}}$$
二次電力$${P_{2}}$$は、二次銅損と機械的出力を合わせた二次側の電力すべてである。
$$
P_{2} = 3\frac{{R_{2}}^{\prime}}{s}{{I_{2}}^{\prime}}^{2}\tag{19}
$$
二次電力、二次銅損、機械的出力の関係
式(16)、式(17)および式(19)より、
$$
\begin{align}
P_{2}:P_{c2}:P_{m} &= 3\frac{{R_{2}}^{\prime}}{s}{{I_{2}}^{\prime}}^{2}: 3{R_{2}}^{\prime}{{I_{2}}^{\prime}}^{2}: 3\frac{1-s}{s}{R_{2}}^{\prime}{{I_{2}}^{\prime}}^{2}\notag \\
&=\frac{1}{s}:1:\frac{1-s}{s} \notag\\
&= 1:s:(1-s) \tag{20}
\end{align}
$$
効率$${\eta}$$
効率$${\eta}$$の考え方の基本は、
$$
\begin{align}
&\notag\\
効率 &= \frac{出力}{入力}=\frac{出力}{出力+損失} \tag{21}\\
\end{align}
$$
である。電験の問題では、三相誘導電動機の場合は、一次入力に対する機械的出力で計算されることが多い。
$$
\begin{align}
\eta &= \frac{P_{m}}{P_{1}} = \frac{3\frac{1-s}{s}{R_{2}}^{\prime}{{I_{2}}^{\prime}}^{2} }{3\left(R_{1}+\frac{{R_{2}}^{\prime}}{s}\right){{I_{2}}^{\prime}}^{2}} \notag \\
&= \frac{\frac{1-s}{s}{R_{2}}^{\prime}}{\left(R_{1}+\frac{{R_{2}}^{\prime}}{s}\right)} \notag\\
&= \frac{(1-s){R_{2}}^{\prime}}{\left(sR_{1}+{R_{2}}^{\prime}\right)} \tag{22}
\end{align}
$$
鉄損$${P_{i}}$$や機械損$${P_{l}}$$を考慮する場合の効率は、
$$
\begin{align}
\eta &= \frac{P_{m}-P_{l}}{P_{1}+P_{i}} \tag{23}
\end{align}
$$
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サイト
https://sites.google.com/view/elemagscience/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
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