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【アークナイツ世界観雑談】テラ種族論:万物生まれつきの不平等(大陸考察の和訳)

 いつも他ジャンルで考察を書いてる親友初めてのアークナイツ雑談で、個人的にとても興味深い内容で、中国語で書かれたもののため、口頭で許可をいただいて翻訳させていただきました。可愛い可愛い大親友なので、文末の後書きにこれを読んだ後二人でまた議論した上の感想と、私の素直な(かつ容赦ない)感想も付き添えます。
 公式訳が出る前の翻訳作品であるため、正式の訳と異なる可能性が高いという点について予めご了承ください。
 使わないかもしれませんが念のため、区別しやすいために翻訳する私からの注釈は「*」マークを使います。

【ネタバレについて】

 R6Sコラボのとあるセリフを起点に展開する雑談のため、どんなストーリーなのかについて全く触れませんが、設定と登場人物の言及が含まれておりますので、ネタバレについて一切踏みたくない方はコラボストーリーを読んだ上の閲覧を推奨します。
 スクショの中国語について、内容はすべて説明の中に書かれているので、特別に訳しません。

【本文】

 今回のサイドストーリー「Operation Originium Dust」OD-7行動前のストーリーで、マッドサイエンティストLevが自分の「パトロン」ドラッジをディスる時の言葉、悪役の発言ではあるが、私を含めて多くのプレイヤーはそれに対して「ディスって気持ちすっきり」と共感の意を示した。

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図1 Levの脅かしに対しドラッジは血統を持ち出して身を守ろうとしてた

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図2 発言者は人間の心が持たないマッドサイエンティストではあるが、その発言自体はまさにその通りの正論だった。

 Levは科学のために人間の心を捨てた、他人の命を犠牲にしてまで知識欲を満たそうとするマッドサイエンティストで、あのボトムラインのなさと極端な行為は印象深いが、悪役としての狂気を置いといて、「私は豚野郎どもを軽蔑することはなく、あの枝の先っぽに高く飾ってる金冠だけが憎しい」という言葉の中身は、中国の歴史書『史記』「陳渉世家」のあの名言「王侯将相寧んぞ種有らんや*」と同じ思想でできている。血統は他の人より高貴である証明にはならず、ましてや他人を抑圧し、搾取する行為に正当性を提供するものでもない。
*.解釈:王侯や将軍・宰相となるのは、家柄や血統によらず、自分自身の才能や努力による。(引用元:コトバンク)
 血統によらない「すべての人は平等に作られている」概念は、封建主義から段々離れていく地球で大きな影響力を発揮し、多くの地域で既に「常識」となっている。しかし、ドラッジもその一例で、テラで生きる一部の人々からしてはまだ理解し難しいことである。別におかしなことではない。リアルな地球であろうとアークナイツのテラであろうと、いずれの世界にも「生まれつきの社会的地位」という論調が育つ土壌がある。ただ、テラ世界においてその土地が更に肥えているように見える。

一、地球

 人類の祖先が偶然、減数分裂と遺伝的組換えで繁殖するように変異したときから、進化の産物である未来の私たちの遺伝的な多様性は既に決まっている。生物学的な両親が染色体を半分ずつ提供し、卵子の受精を経てDNAが組み換わり、そこで子の代の受精卵が出来上がるというプロセスによって、私たちは有糸分裂で繁殖する生物より、比較的に大きい確率で親の代の独立した個体と異なる新しい性状が現れる。

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図3 図解:有糸分裂と減数分裂

 世界の各地で分散した人類は、生息地の自然環境に適応するために異なる進化的傾向を示し、人種的差異が生まれた。
 そのために、人と人の間に個体差が存在し、異なる血脈の人間集団の間にも差異は客観に存在している。同じ親から生まれた数人の子供でさえ一人ひとり同じなわけがないし、全世界何十億人の話となれば尚更のこと。
 この客観的に存在する差異は、現実における血統論の土台である。原始的な人類文明で、二つの集団の間で衝突が発生したとき、勝敗を決める要素は簡単である。遺伝によって決められた身体能力がより強い集団が弱い集団に勝ち、前者は最終的に後者を統治する。そのため、前者の血脈は他人を打ち勝つことに適しているものとされ、この血脈の人は「他人より強い」と理解される。
 しかし文明が発展し、遺伝によって決められた能力は足りなくなっていく。DNAに刻まれた本能より、人類は生活環境に対する適応と学習という、後天的なスキルへの依存度が高くなってきた。親が適応と学習によって獲得した経験は本能のようにDNAを通じて子の代に与えることができない。言語というコミュニケーションツールのお陰で、人類は後天的な教育という形でこの目的を実現した。親との間でしかできない遺伝的情報伝達と違い、後天的な経験は言語を通じて、多くの人類個体の間でシェアすることができる。異なる人類個体の間、異なる人間集団が蓄積してきた情報は衝突と融合を経て日々更新していき、その速度はだんだんDNAの交流による物理的な進化を超えた。この後天的な生活経験の交流、また経験の中からルールを見出し、それをまた未知なる分野に適用して、更に経験を蓄積していく進歩の形は、現代がいう科学研究である。文明が誕生した短い数千年の中で、後天的な経験を以てDNAの遺伝がもたらす影響を小さくした人類は、数千万年の自然選択を経てなお得られるかどうかわからない肉体的な強さを勝る生産道具を製造する能力を手に入れた。また後天的な教育と訓練を通じて、子の代に23本の染色体と31億の塩基対に保存しきれない情報を伝授する方法も見つけた。
 生まれつきもっている優れている素質と後天的な訓練の勤勉さによって、ジャマイカのウサイン・ボルト選手は陸上競技の短距離において数々の記録を樹立し、今でも世界記録の保持者であり、人類史上最速のスプリンターと評された。しかし、ボルト選手が残した9s58sの100mの世界記録はある意味人類の限界を代表しているかもしれないが、運転免許を持っている人であれば車の力を借りて容易く超えられるスピードである。

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図4 2011年ボルト選手が残した世界記録

 直径数メートルあるいは十数メートル、何キロものトンネルを掘削できるトンネルボーリングマシン、機材を載せながら第二宇宙速度まで加速でき、地球からの脱出ができるロケット、秒単位で億乃至万億の次数に対し計算を行う半導体チップ、これらの人工物の性能は人間だけではなく、人類に知られている、進化によって現れたすべての生物の肉体的な限界を超えている。
 極端にまで差別を否定する人間が言っている生まれつきの平等は真実ではないかもしれない。種族主義者が主張している人種の間に存在する能力差は確かに実在した根拠があるかもしれない。一方、こんなにも広い地球において、全世界の人類の間、DNAがもたらした差異は生殖隔離に至るほどにも及ばず、生まれつきに優れている知能、肉体的な強さというDNAによる微々たる差異は後天的な教育と訓練の前では、鋼鉄でできた生産道具の前で大したことではない。
 自然選択の目線から人々は確かに生まれつき平等ではないかもしれないが、地球に生きる人類は自分の努力を通じて、この永遠に及ばないほど遠い目標を少しずつ実現しようとしている。
 だから現代に生きる私たちはドラッジの血統論に対して鼻先であしらい、むしろマッドサイエンティストのLevの反血統論的な言論に対して共感を覚えた。

二、テラ

 アークナイツのテラ世界では、血統がもたらす意味は現実世界と些か異なると考える。
 地球の人類世界においては、人類という1種類の生物のみ、理性がある生物と考えられることに対し、テラにおいては理性がある生物は多数存在する。これらの種族の間は血脈の伝承を通じて異なる能力を獲得し、こういった差異は現実におけるホモサピエンスの間の差異に比べてもっと大きいものである。

2.1 異なる種族の間の差異
 OD-5行動前のストーリーで、ロシアの勇ましき大男タチャンカは全力を以てクロスボウを引いてみて、レンジャーの爺さんから「みごと」の称賛を得た。

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図5 レンジャーの爺さんからの称賛

 だがその次に、大抵のサルカズができる技という情報も教えてくれた。

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図6 大抵のサルカズができるコメント

 「引けて見事」の称賛と「大抵のサルカズができる」という言葉から、身体能力はサルカズと比べて弱い種族はテラで少なくないとわかることができ、彼らの間の身体能力の差は特定の武器を扱えるかどうかまで直接な影響がある。同時に、サルカズ一族のアーツ適正も屡々取り上げられている。

【イフリータ第二資料】
 現在閲覧可能な資料によると、イフリータはサルカズに属することが判明している。しかし彼女の多角形構造の角と尾には、通常のサルカズのものと大きな差異がある。現在のサルカズに関する研究においては、まだその種族特性は完全に解明されていない状況ではあるが、少なくともロドスに在籍しているサルカズのオペレーターと比較した限りでは、イフリータのサルカズとしての特徴はどれも独特なものに見える。
 サルカズは皆アーツの才能をある程度有すると言われるが、イフリータの才能はそのサルカズの中でも飛び抜けており、あまり見られないレベルにまで達している。
……

 ヴイーヴルのリスカムは小さく見えても、他の種族が比べ物にならないほどの力を有しており、同じヴイーヴルのサリアはストーリーで同じような力を示している。素手で制御不能に陥ったサルカズ実験体イフリータの暴走を止め、山(フェリーン)が苦戦したジェストンを容易く制圧した。

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図8 ヴイーヴルの身体能力が高い

 スカジのプロファイルに書かれている種族は「非公開」であるが、アビサルの血が引いてる彼女とスペクターは恐ろしい破壊力を有している。任務を遂行すると同時に、市街区建築物の粉砕、金属製防護壁の引き裂き、谷の崩壊など、現実世界において重火力を使用しないと実現不可能な広範囲破壊が伴っている。血がつながっているアビサル生まれつきの身体能力は彼女たちにテラの技術で補うには難しい優位性を与えた。

【スカジ第二資料】

 客観的に言えば、オペレータースカジは大量の敵に立ち向かうのは実際に得意とするところだが、彼女に必要な行動のうちの不必要な破壊は、必ず阻止しなければならない。
 例えば、市街区の建築物の粉砕、保護対象物の金属製防護壁を誤って引き裂いたことによる対象物の漏洩、単独で目標の要塞を攻撃したことによる谷の崩壊等だ。
 彼女の一連の動作は近接オペレーターのスペクターと酷似している

 体が小さく、動きが機敏なコータスは比較的に力が弱く、フェリーン、ループス、ヴァルポのステータスは比較的に平均で、これらの種族に比べてサルカズ、ヴイーヴル、アビサルの血は確実に強い先天的な能力をもたらし、こういった優位性は他の種族が後天的な学習と訓練、機械を借りても及ばないかもしれない素質である。

2.2 種内における血統の差異
 現在、ロドス内部の雇員にも提携先のチームにもヴァルポのオペレーターが多数いる。例えばBSWのフランカ、教官陣のジュナー、兄弟を連れてロドスに入ったキアーベ、家出のアンジェリーナ。中で一番特殊なのは極東神職者の血を引いている九尾のヴァルポ、スズランであろう。スズランのプロファイルで、この九尾の血は幼い彼女に優れたアーツの才能をもたらしたと明確に書かれており、激動の子供時代もそのおかげである。

【スズラン個人履歴】
 本名はリサ。保護者の要望により苗字は伏せられている。ロドスで治療とケルシー医師の指導を受けており、年齢は若いが、血筋による優れたアーツの才能を持っている。
 本人の要望により、他オペレーターの同行を前提に難易度の低い任務に就くことが許された。

 この生まれつきの九尾によって、リサは故郷の極東で父の後継者として認定され、このことは極東における九尾ヴァルポの血の重要性を語ってくれた。スズランの父親は娘に自由な未来を与えるために既に後継者と認定されたリサを母親に託して「密かに」物騒なシラクーザに連れ出した。

【スズラン第三資料】
 ……
 スズランの母はシラクーザの一大ファミリーの構成員であり、父は極東のある都市で名のしれた神職者だ。シラクーザと極東の状況と距離を考えると、スズランの両親がどのように出会い、恋をして娘を授かったのか想像しがたい。母から髪色と顔立ちと、父から神民の血を受け継いだスズランは、その身に九つの尾を宿しているこのことでスズランは一度神職者である父の後継者として担ぎ上げられたが、父は娘が神への終わりなき勤めに縛られることを望まなかった。彼は神職者として自分がしてきたことが民に心の安息を与えると信じている一方、親として娘にはもっと広い未来を生きてほしかったのだ。そのためスズランは母に連れられて密かにシラクーザに移った。しかし穏やかな暮らしは長くは続かなかった。スズランの母が所属するファミリーが■■■■ファミリーを狙った内乱に巻き込まれ、スズランもまた陰謀の渦に飲み込まれてしまった――ぬいぐるみの中に仕込まれた源石結晶が、彼女の左腕を正確に貫いたのだ。その時の母の悔しさは推して知るべしだろう。スズランをロドスへ預けた後、彼女は首謀者ファミリーの暗殺を主導し、その後は行方をくらました。
 ……

 スズランの血はヴァルポで宗教上の意味を持つだけでなく(テラにおいて「神」は確実に存在しているため、テラの宗教は地球と比べてもっと現実味を帯びてる)、実際に彼女のアーツの才能に影響を与え、幼い彼女はその血のおかげで同年齢の他のヴァルポ、乃至他の種族が完成できないアーツの勉強を完成することができる。
 同じような状況はサルカズにも存在する。サルカズには多くな「タイプ」が存在する。辿れる根拠があるのはワルファリンとクロージャが所属しているブラッドブルード。他人の血液を主食とする。パトリオットが代表するウェンディゴは体が大きく、頭蓋骨がむき出しており、人喰いをする風習がある。最後の純血ウェンディゴとして、年齢は「歴史古い」ともいえるパトリオットは死に際に自分の意識になかったはずの預言を言い残した。

【7‐16 戦闘後】
ケルシー: アーミヤ……アーミヤ……?
ケルシー: サルカズの預言は、種族全ての記憶が融合したものだ。源石の多発地帯で起こったオリジニウムバースト……その直後、狙いすましたかのようなタイミングで、チェルノボーグを襲った天災……
ケルシー: 祭壇……アーミヤ……ウェンディゴ……魔王!?
ケルシー: 待て……もしこれが直接の影響だとするなら……有り得ない! 古のウェンディゴの最後の血脈が、サルカズの全支族の魂を繋いだとでもいうのか!?
ケルシー: あの預言……あの預言か!?
ケルシー: 雪? ボジョカスティと全ての祭壇の「人喰い」が共鳴した!? それに加えて、さっき私がボジョカスティに施した、ウェンディゴの回魂儀式が補完作用を……しまった!
ケルシー: 全オペレーターに告ぐ!!
ケルシー: 奴が何を言おうと……ボジョカスティの口が何を発したとしても!
ケルシー: 【一言たりとも信じるな!】

 これに対して、ケルシーの解釈はパトリオットのウェンディゴの血はサルカズの全支族の魂を繋ぎ、魔王の預言を言わせたということである。ストーリーで死んだサルカズはたくさんいたが、最後の純血ウェンディゴ・ボジョカスティだけ、死に際に魔王の預言を残した。このことは、古かつ純粋なサルカズの血脈は、若いサルカズにない特殊能力が有していることを証明してくれた。
 血脈の力で一番奇妙なのはエーギルとアビサル。アークナイツのプロファイルで、エーギルという種族があり、エーギル族のオペレーターはウィスパーレイン、ソーンズ、セイリュウ、ウィーディ、アンドレアナがあげられる。その一方、出身地エーギルのキャラクターはスペクター、スカジ、グラウコスが挙げられ、この三名とも、種族は「非公開」となっている。上記のオペレーターはエーギル人と「未公開」に分けられているが、モチーフはみんな海洋生物であり、設定上、海と何かしらのつながりがあるという共通点がある。こういった点を踏まえて、前者と後者は必ず何かしらの関連性があると思われる。オペレーター・アンドレアナのプロファイルで、彼女が改造されたエーギル人であるとあちこちにヒントが残され、エーギル人でありながら、スカジとスペクター以外、他のエーギル人に見られない「アーツ適正:欠落」と一般人より優れている身体能力を有している。

【アンドレアナ第四資料】
 ……
 それでもケルシーの言葉の端から推測できたものはある。アンドレアナとスペクターやスカジとの違いは、一滴の墨が入った水と、純粋な墨との違いのようなものだ。だが水に墨を入れること自体が、生物本来の尊厳をひどく損ねるものであり、それにケルシーは軽蔑の意を示している──「ある者たちは関わるべきではない領域に手を伸ばしている。その愚かさはとても様になっているのだがな。」

 これらの事実から色んな推測ができるが、この文章の趣旨ではないので、詳しく論述するつもりはない。とりあえずエーギルという種族は、エーギル出身の「未公開」種族と関連性がある。後者は「アビサル」と呼ばれる血によってつながっており、前者は特定な場合、ある程度「アビサル」に転換することができ、この「アビサル」という血脈は、一般的な認識を超える身体能力を保有している。

2.4 テラの統治者種族
 私たちが知っている限り、テラ世界に統治者と直接かかわっている種族は3つある。オペレーター・シージ、ヴィーナが代表するアスラン。リード、タルラが代表するドラコ。チェン、ウェイが代表する中国龍。他の種族と比べて特別なところは何か、現時点のストーリーでは明かされておらず、エーギルとアビサルのような明白な描写が見つからない。ドラコと龍のハーフであるタルラは第八章の追憶編で身体能力が強いことはわかるが、他の非統治者種族に勝るかどうかは未だにわからない。
 リードのプロファイルに、アスランとドラコはその血筋だけでヴィクトリア唯一の君主になる資格があるという法的な根拠が書かれている。

【リード第四資料】
 ……
 ライオンたちは同じく王と自称し、ドラコとアスランはそれぞれ平等な機会を得ました。このいにしえの条約が結ばれた後、彼らは等しくヴィクトリアの 唯一の君主になる資格を手に入れました。ドラコは武力と欲望を象徴し、アスランは権力と秩序を象徴します。長い歴史の中、ヴィクトリアはこの両者を含む三つの力によって支配されていると考えられてきました。
 王位継承でどれほどの血が流れ、どれほどの争いが起こるかについてはさておき……周知の通り、過去も今も、ヴィクトリアは閉鎖かつ友好的な独立国家ではありません。アスランはサルゴン、リターニア 、そして天災で消滅した国々から生まれた種族です 。日に日にその勢力を強めているドラコたちがヴィクトリアと無関係の種族を黙って受け入れる理由はありません。まし てや彼らに国の支配権を渡すはずもないでしょう。
 アスランとドラコ間の条約は、平和で神聖な環境で結ばれるはずありませんでした。史実の残酷な部分は、伝説の序章としてあやふやにされ、流浪歌手や吟遊詩人の口々で伝わってきた逸話は公式記録より遥かに真実に近いです。しかし伝説と歴史は常にどこか近い存在です。現代国家のヴィクトリアではありますが、その古き 伝統によって維持されています。今から二十年以上も前に、ドラコの血筋は既に絶たれたと考えられていました。ヴィクトリアに対するアスランの確固たる支配を脅かす者はもはや存在しません――。その後のことについて、皆さんは既に先月二回目の授業で習ったはずです。
 ……

 個人的に、元々ドラコ(赤き竜)とアスラン(ライオン)に対する認識は現実の王家と似ているイメージで、一般人と大した差がなく、テラではそれほど珍しくないヴイーヴル(ドラゴン)とフェリーン(ネコ科)と同じものだと思っていた。封建社会における王権神授の思想によって王家の人間は自分の血脈がヴイーヴルとフェリーンの同族より優れていると自任し、支配される側の「卑しい平民ども」と区別するために自分の血脈を新たな政治的な意味を持つ種族として作り出し、「生まれつきな高貴」という偽りの優越感を以て自分の支配を維持する行為だと。
 今となって、種族の間の先天的な能力差がこれほど大きく、種の内部の特殊な力が伴う血脈の存在という背景の下で、ドラコとアスランの血脈はもしかしたら一般的なヴイーヴルとフェリーンにない能力が備わっているかもしれない。この生まれつきの強さは、他の種族からわざわざ区別するほど絶対的なものであり、それによってヴィクトリアの支配者になったのではないかと考えるようになってきた。この血脈の恩恵は、現実社会において作り出された偽物であるが、テラ世界において貴族の血脈の「優越性」は確実に存在しているかもしれない。

2.5 テラ世界における血統論の土壌
 現時点のストーリーから確認できた情報として、テラ世界ではこの世界に特有な、源石技術を基盤とした科学が既に発達し、移動都市のような個体の力を遥かに上回る科学技術の産物も作り出されている。しかし、血統がもたらした差は、地球の人類個体、または人種の間のような比較的に小さいものではないため、テラ世界において血統論は成長する土壌があり、ある意味、テラ世界の血統論には現実世界と比べようがない正しさがある。なぜドラッジは自分の血統でマッドサイエンティストLevを脅かそうとするのか、理由はここにあるかもしれない。
 1つ個人的な解釈からの余談だが、すごく皮肉なシーンがあって、論拠がないものであくまでも推測で正しくないかもしれないが。
 ドラッジの兄妹?姉弟?ピガールはOD‐ST‐2で、自分の家族が今回のサイドストーリーの舞台、長泉(Long Spring)村の領主になったのは、父親が戦士として戦功を立て、恩賞として与えられた土地だと教えてくれた。

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図15 長泉(Long Spring)村は領主が戦功を立てたおかげで得た領地

 既に亡くなられた元領主は生まれながらの貴族かどうかについて特に言及がなかった。この領地は世襲ではなく、後天的な行為である戦功による下賜で得たもので、ストーリーが終わった時点で、トゥーラ一族の長泉(Long Spring)村に対する支配はまだ二代目で、つまり亡くなられた領主の支配は血脈頼りのものではない。同時に、元領主ご健在の時から自分の家族の繁栄は他人より優れている血統のおかげではなく、源石採掘をされてた労働者たちの犠牲のおかげだとわかっている。

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図16 トゥーラ一族の繁栄は源石採掘の労働者のおかげである

 そのため、一番皮肉なのは、トゥーラ一族の血統を以て人より優れていると自任するドラッジは、テラのような血統が確実に「優位性」をもたらす世界においても、自分が思い込んでたような高貴な血統の持ち主ではなく、他のごく一般的なレプロバ人と本質的な違いがないかもし得ない。軍人家庭から脱出しようとロドスに入った行動予備隊A6のレプロバ・オペレーター・スポットがむしろドラッジよりもっと「優れている」血統がお持ちかもしれない。

三、バベルとロドス

 ならテラ世界で種族的なショーヴィニズム(*排外主義の一種)こそが正解なのか?
 ロドスではこの世界の色んな種族のオペレーターがいて、現在知られているロドスの雇員、提携先の協力者、拘束中の者の中で、ヴィクトリア合法的な王位継承者ドラコ2名、アスラン1名、謎深く強いアビサル3名、「魔族」と呼ばれ差別されるサルカズオペレーター及び技師計15名、炎国の古き神、その権能の欠片2名……これら種族と出身に客観的な差異が存在するオペレーターたちのロドスにおける生活・仕事・戦闘は、決して全員何のしこりもなく和やかに過ごしているわけではない。だが打ち解けた雰囲気が満ちていると思う。絶対的な平等ではないが、差別をなくすように努力している。まだ実現したわけではないが、ロドスの目標は、童話の中でしか存在しないユートピアのようなものだと思う。
 ロドスの前身は「バベル」。現実世界のバベルの物語は聖書由来で、どういった目的で作り出されたかわからないが、聖書そのものの内容と関連の解釈を読む限り、おそらく信徒たちに、神の前で人間の無力さ、神に近づこうとする人間は最終的に神罰が下されるということを伝えているであろう。
 宗教上の理解と原作者の創作意図を置いといて、バベルの物語は私からしては他の解釈もできる。神は人間の言語を乱して、人間が互いに相手の言葉を理解できなくなったことでその団結を乱し、バベルの塔の建設を阻止した。人間が協力し合って一団となれば、バベルの塔は確実に作り出されるから。神は、自分の領域に入る人間を恐れている。この上なく至上の存在である偽装が剥がされるのではないかと。そしてバベルの塔は、人間たちは神によって作られた(つまり生まれつきの)隔たりを乗り越え、一団となりすべてを支配する神を覆し、真に自分の運命を手にする象徴ではないかと考える。
 旧正月のサイドストーリー「画中人」から、テラのような実際に「神」が存在していた世界においても、この「神」は知るすべもなく倒すことができなく人間のすべてを超える存在ではないとわかった。かつて、炎国は「神」を討ち倒した。この「神」は客観的に存在するもので、知ることができ、わかることができ、研究することさえできる。「人間」の手で倒すこともできる。彼らは桁違いの強さを持つ「ただ者」に過ぎない。
 「神」にさえ至高の「神性」が存在せず、まして「凡人」のこと。
 バベルの精神的指導者であるテレジアは、サルカズの王の力を同じサルカズの血が流れている同族に引き継がせることなく、代わりに幼いコータスの少女を選んだ。
 果たしてバベルの精神を引き継いだロドスが作ろうとしているのは、あの天にも届く塔、バベルなのだろうか。

【後書き】

 「人間はみな、平等に作られている」という堂々と正しさが溢れているセリフは、善役のR6Sコラボオペレーターでも、ロドスのオペレーターでもなく、ストーリーで絶対的な悪役ラスボスキャラLevの口から出たのはこういう複雑な人物像を作るためだけではなく、その同時に、人の心を捨てた科学信者ザ・マッドサイエンティストの認知においても「血統は何ものにもならない」し、これは普遍的に認められていることである。
 一般的に、科学の信者故、「平等主義」という理想的なものを捨て、生物的な差異という客観的な事実を根拠に「人と人の間には差異が客観的に存在する」ことに賛成の意を示すこそが道理で、だからこそこういった彼の口からの、血統がもたらした意味への否定はより一層説得力があるものだと考える。
 読了した後に親友と話し合って、やはり前半の内容には些か賛同できないと伝えた。人間社会における権力関係はもっと複雑なもので、身体能力の強さと弱さで決められる上下関係は古代社会においてもこういった理想的な擬似モデルは存在しないし、自然科学はむしろ生まれつきの格差を証明し、技術の進歩は「平等」をもたらしたということについて個人的に賛同しかねない。そも、平等は哲学的な概念で、物理的な同一よりは人格的な等しさに重んじるものであった。現代社会で「平等」が真に基本原則として捉えられるようになったのは、近代憲法由来の法の下の平等という概念の影響が大きいと考える。しかし法の下の平等も相対的な平等であり、集団意思が決めた平等故、法の前の平等はある意味、平等を追求しながらも届くことはあり得ないものであって、それでもなお近づけるように努力している。だからこの意味においても「法だけが真実」のラテラーノは興味深いし、地球より科学技術が優れているところもあるテラは未だに封建主義から脱却できてない。
 だが親友と言っているように、科学技術の進歩は身体的な差を埋めることができ、現代社会でインターネットの登場によって情報の独占が難しくなった。技術の進歩によって、アーツが使えなくても銃に勝るクロスボウが作られ、これは技術によって平等になったテラの一例。だがパトリオットとへラグの言葉の中のウルサスを観ればわかる。国家が他の何かに頼らない絶対的な暴力手段を独占しており、こういった国家を牽制できるものはなかなかいない。これは暴力という意味における不平等。テラでの情報伝達は、通信機などがありながらも、トランスポーターがメインの手段である。情報の獲得不可能というのは知識の独占による不平等。
 色々な不平等がある中で、肉体的な平等を作ろうとしているのはむしろアンドレアナ、イフリータ、ローズマリーを作り出した非道な技術で、国家に匹敵する富を手に入ったのは例のカジミエーシュ騎士競技で、とても皮肉なことだが、現実社会の発展においても似たような段階がある。ロドスだけが孤独な求道者というよりは、テラ全体がこういった段階にきていると考える。
 まぁ親友だから言いたい放題ではなく、二人で既に話し合った内容を記録するだけなので、エルが堂々とわけわかんない異見を発表する怖い人ではないからご安心ください…。

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