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日本酒の世界基準の味わいとは。

毎回、全国各地の酒蔵当主をお招きして開催している、『手島麻記子のオンライン晩酌会』第8回目のゲストは、福島県二本松市の酒蔵、「人気酒造」の遊佐勇人(ゆさゆうじん)当主。テーマの、<オーガニックSake、これからの世界のSakeとは?>について、この秋にリリースされた、人気一 「グリーン人気オーガニック純米吟醸」と福島の郷土の肴を味わいながら、貴重なお話しを伺った。

遊佐当主とは、かれこれ20年以上にもわたるお付き合いだが、この20年余りというのは、日本酒の輸出量が飛躍的に増加した時代であり、国内での日本酒消費が伸び悩むなか、世界においては、和食と共に、日本の食文化として日本酒に大きな注目が集まるようになった時代でもある。

そんななか、10年前の東日本大震災以来、各国での風評被害により今だ中国、韓国への輸出ができない福島県の酒蔵として、早くから欧米市場へ注力してきた「人気酒造」のここ数年の日本酒の味わいは、私にとっては、今風でありながら、どこか懐かしい味わいを思い起こさせるものでもあり、常に気になる日本酒であったが、今回の会を通じ、その気になる味わいというのが、何によって生み出されているのかを、明確に知ることができた。

「人気一」を代表銘柄とする遊佐当主の酒造りは、
・すべて伝統的な木桶仕込み(それも6500リットルの大桶を使って)
・すべて吟醸づくり
・すべて一回火入れ(殺菌)後、すべて瓶で貯蔵(お酒の鮮度を酸化から守るため)
・年間、常時5度の室温コントロールした蔵で四季醸造
など、独自のこだわりに加え、
今回の「グリーン人気オーガニック純米吟醸」は、JAS有機米(福島県産・コシヒカリ)を使い、日本、カナダ、EU、アメリカ、台湾でオーガニック認証を取得した特別な日本酒だ。

伝統的な木桶仕込みという、単に昔のやり方に戻るということではなく、
新しい技術や設備などと組み合わせ、世界各国でのオーガニック認証を取得し、「世界基準の味わいを創った」と、語る遊佐当主の「グリーン人気オーガニック純米吟醸」の味わいとは、一体どんな特徴があるのだろうか。

よく冷やして、実際に試飲してみると、ワイングラスから立ち上るフルーティーな香りと、その味わいの格別な瑞々しさには驚かされたが、何か従来の日本酒とは違う違和感(味が固い、旨味があまり感じられないなど)があり、グラスにいれたまま、1時間、2時間と経ってからもう一度味わってみると、その味わいは、はっきりと変化を感じさせ、どんどんやわらかく、旨味が膨らんでいった。

確かに、これなら、福島県の郷土料理のニシンの山椒漬けといった、保存食としても愛されているしっかりとした味付けの料理にもよく合うし、ブルーチーズを肴にしても、お酒の旨味と酸味がしっかりと受け止めてくれ、グッドペアリングであった。

さらに2-3日冷蔵庫のなかに入れておいて飲んでみたら、このお酒は、こんなにもしっかりとした酸があるお酒だったのか、と感じ、旨味もさらにのって旨い!

遊佐当主にそのことをストレートに伝えると、「それが狙いですから。食事をしている間に、どんどん味が変化していく、ワインのような楽しさが味わえる日本酒を目指してつくりました。」 との答えがあった。
さらに、酒造好適米ではなく、有機米のコシヒカリを使い、木桶で醸すことによって生まれやすくなる、 日本の鑑評会では「雑味」とされるマイナスの味わいが、ワイン文化の国々の人たちには、「複雑味」として喜ばれるという、長年にわたる海外プロモーションからの貴重な経験も語ってくれた。

「最高級の酒米である山田錦を削って削って醸す、雑味のない、きれいな味わいの高価な日本酒だけではなく、白ワインのようなフレッシュな口当たりながら、時間の経過とともに、旨味や複雑味を増していく、そうした味わいの変化を料理と共に楽しめること。これが、これからの世界で求められるていく日本酒の味わいだと考えています。その変化を十分に楽しんでもらうためにも、是非ワイングラスで飲んでみてください。」

世界における、これからの日本酒の味わいへ向けた、遊佐当主の挑戦は、味わいだけにはとどまらず、普通のお米のおよそ2.5倍の価格がするという有機米を原料に、各国でのオーガニック認証取得費用、そして木桶仕込みという大変手間のかかる作り方をしながら、国内では、遊佐当主いわく、「日本一コスパのよいオーガニック純米吟醸」(720ml/1,628円)としてデビューした。

折しも、伝統的酒づくりが、書道と共に、生活文化として初の無形文化財としての登録が決まり、ユネスコの無形文化遺産登録へ向けて、大きく前進をした國酒である日本酒。

その伝統的な酒づくりによって生み出される味わいは、ただ単に昔のようなという意味の伝統的なものだけでもなく、最尖端の技術に特化した洗練を極めたものだけでもなく、世界各国の(特にまずは、ワイン文化の国の)食卓での料理とお酒の楽しみ方のスタイルに合わせたという点が、この「グリーン人気 オーガニック純米吟醸」の、味わいにおける最大の特徴であると思う。

ワイングラスで、料理と共に、時間の経過と共に ”変化する味わいを楽しむ”という、日本酒の新しいスタイルが、これからの世界基準の日本酒の味わいとなっていくのか。もちろん、そうした世界基準の日本酒の味わいの内容を、ひとつにしぼりこむことは容易ではないけれど、そもそもが、その味わいの多様性こそを最大の強みとする日本酒の世界基準の味わい、それを明確に示していくことができれば、あまたある世界のアルコール飲料のなかでの、日本酒のプレザンスがより高まっていくことは、間違いない。

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