見出し画像

BERLIN DAYS

日本記録更新を目指したベルリン・マラソンが終わって、
TWOLAPSのベルリン合宿所で夕食会が行われた。
この日のために遠くからベルリンに駆けつけた人が集い、
ビールやワインを飲みながら談笑しているところに、
走り終えた身体をマッサージでほぐし終えた
新谷選手がリビングに入ってきて挨拶がはじまった。

「ベルリンまで来てくださりありがとうございます。
   ピーキングのズレが招いた結果でした。
   もしかするとマラソンを過信していたのかもしれません。
   走る前から今日は記録は出ないというのはわかっていました。
   途中でやめることも頭によぎったのですが、
   みなさんの応援が支えとなって最後まで走りきることができました。
   また日本記録を目指して走るときは
   みなさんの力をお貸しください。
   本日はどうもありがとうございました。」

正確ではないけれども、記憶をたどるとこのようなことを
唇を震わせながら、新谷選手は言葉を絞りだした。
駆けつけた人たちのなかにはテレビ局の人もいたし
カメラマンもいたし(俺もか)
いつもTWOLAPSのyoutubeを撮影している池谷さんもいたし、
みんなスマホくらいは手にもっているが
誰一人カメラを回すものはいかなかった。
それは野暮だというものだ。
というか、そういう人たちがベルリンに集まった。

「今日はよくない」とわかってながら、
スタートラインにたち、フルマラソンを走る。
しかも、日本記録を目指して走るのだ。日本記録ペースから遅れ始めた
ハーフ通過以降はとてもつらかったことだろう。

スタート前の打ち合わせで新谷選手は横田・新田コーチに
「時計はつけません。」と告げた。
新谷選手ほどの選手になると、時計の重さによる左右差も気になる。
本当かどうかわからないが、
新谷さんのWikipediaには爪に塗ったマニュキュアすらも
重く感じると書いてあった。

キプチョゲをはじめとした選手が一斉にコースに現れた。
選手たちはそれぞれのスピードで流しをはじめ、
スタート地点に戻ってくる。
一番後方から新谷選手が出てきたが、なかなか走り出さない。
手首のあたりをつかんで力んでいる姿が近づいてきた。

ベルリン・マラソンではランナーがスタートエリアに入るために
ブルーのリボンを手首に巻くことが求められた。
多くのランナー左手首にはGPSウォッチとブルーのリボンがあった。
身体は絶好調からは程遠い。このブルーのリボンが邪魔に感じたのだろう。

「ふんっ!」新谷選手はブルーのリボンを引きちぎり走りさった。
ぼくは、さっとそれを拾い上げてポケットにいれた。
BERLIN MARATHON2023 RUN FOR JOY と書かれた
ブルーのリボンは、このベルリン旅での唯一のお土産だ。

ここから先は

2,218字 / 6画像

サポートと激励や感想メッセージありがとうございます!いただいたサポートは国内外での取材移動費や機材補強などにありがたく使わせていただきます。サポートしてくださるときにメッセージを添えていただけると励みになります!