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舟津のおかげ

MGC2023前々日、都内のホテルでMGCプレスカンファレンスが行われた。出走者も多かったから、ミックスゾーンみたいなものがもうけられていて、そこを選手が歩く。取材者たちは歩く選手をつかまえて、それぞれ話を聞いてください。ということになった。知名度のある選手のまわりにはテレビカメラもやってきて、大勢の記者が黒山のように集まり、ICレコーダーを差し出している。話を聞きたい選手がたくさんいたが、一人の話を聞いていると、次々と選手は通りすぎていく。「ああっ!井上大仁はどこいきました?」「西本さん、もう帰っちゃいましたよ」みたいなやりとりが何度もあったあと、今回のMGCで本命と思っていた選手の姿を探した九電工の赤崎暁選手だ。どこを探してもいない!いない!諦めていたら、出口付近で一人の女性と話している。文化放送の黒川ディレクターだ。良かった知り合いだ!話に加わっても大丈夫だ。聞くと、黒川ディレクターも今回のMGCの本命は赤崎選手と踏んでいたらしい。良かった。聞きたいことはたくさんあったが、ひとつに集約すると「君のそのもてあましたスピードをどうやってマラソンに活かすのだ?」ということであった。

【赤崎家の年賀状】でも書いたように、ふとした縁で筆者は赤崎くんのことを見続けることになるのだが、ファイナリストとはなったけど、課題が多すぎた福岡国際マラソンを経て、この夏、ホクレンであった赤崎くんがこれまで接地もヒールストライクよりのロードランナーだと思っていた彼が別人のようなトラックランナーへと変貌をとげていた。

筆者の持論として「ホクレンシリーズを通じて良かった選手はその年の秋冬は大ブレイクする」というものがある。夏に高強度で連戦が効く選手は夏合宿を経て秋冬に大輪の花が咲くという当たり前の話なのであるが、今年のホクレンディスタンス。男子は赤崎暁、そして女子は樺沢和佳奈が間違いなくMVPだ。多くのMGCマラソンランナーたちが10000mトラックに出場するなか、赤崎が選んだのは5000m。まずホクレン網走Aで13:27.79 4日後のホクレン北見Aでは13:28.70。ホクレン網走はトヨタ太田に先着され、ホクレン北見はトップながらもネームバリューで2位の三浦龍司に霞み、全く話題にならなかったが、ホクレン北見では「あの」三浦龍司にスパート勝負で勝ち、いつでも13分20秒台で走れるスプリントがあることを実証したのだ。ホクレン網走では大迫傑が10000m2本走って注目を集めた。知名度は彼の方が数百倍上なのだが、切れ味は赤崎の方が圧倒的に上。スタミナと経験値には課題が残るが、このスピード余裕度をもってマラソンを走ったらどうなるんだろう?と期待させるものであった。なぜなら、シューズの進化もあってこの数年で世界のマラソンシーンではトラックとマラソンとの垣根がなくなりつつあるからだ。

ホクレン北見から3日後のホクレン千歳。この日はオフだった赤崎くんとレースを見ながら雑談をした。「どうしたどうした?何があったの?」と聞くと。「舟津のおかげですね」という。舟津とは今年まで九電工のチームメイトだった舟津彰馬のことだ。

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