バーチャレとはなにか?
「オンラインでインターハイをやろうと思うんですよね」
と、横田真人コーチから連絡が来たのは5月末。TwoLapsのMTGに参加することになった。なんとなく春からインターハイや全中の代替レースを作ろうと考えていることは知ってはいたけれども、自分が手掛けているOTT(オトナのタイムトライアル)も、今年に入って予定していた大会が2回すべて中止となり、大会開催の見通しすらたたず、OTTも持続化給付金を申し込んでもらったりしてたくらいだから、参加人数を集めることが収益となるリアルイベントの開催は難しいだろう。どうするんだろうなあと気にはしていた。
「オンライン」最初聞いたとき、あまり気乗りはしなかった。これまでSTRAVAなどで行われているバーチャルレースの存在も知ってはいたし、登録もしたことはあるけれども、「夏休みにラジオ体操のスタンプを集めるようなもんだろ?」みたいな印象があって、走ること、そのものを上回る、楽しさや喜びをオンラインイベントには感じることはなかったからだ。
「GPSウォッチや記録会で計測したタイムをオンラインで登録し、サイト上でランキングにする」世の中のバーチャルレースの仕組みをベースにMTGがはじまった。
選手側から意見を集約するとバーチャルレースの問題点はこのふたつ。
「ガーミンのようなGPSウォッチは正確だとはいえ、
トラックを走ると誤差がでてしまう」
ロードレースであれば、誰でもGPSウォッチの計測をもとにタイム申請をすることができるが、400mトラックをぐるぐる走る場合は1周走っても、400mピッタリの距離表示が出ないのだと。
「インターハイや全中を楽しみにしていたのは選手だけじゃなくて、ご両親や監督、コーチ、マネージャーも含めてだと思うんです。そのみんなが参加できるものにしたい」
自分たちがここまで競技を続けてこれたのは、多くの人の支えがあったから。競技者だけでなく、その競技にかかわる人が参加できること。インターハイや全中がなくなったのは選手だけでない。関係者やファンにとっても同じことだと。
デジタルデータをもとにランキングシステムを作ること、そのものは簡単にはできそうだけど、結果を集計したものを表示して一喜一憂するものではなく、その過程をもみんなで楽しむようにするような仕組みが必要になった。どうやらTwoLapsでのこれまでの議論もここがネックとなっていた。
まず、GPSをやめてストップウォッチでの手動計測でオッケーということにした。そうすれば、トラックにいき、手動計測のルールにのっとって計測すれば誰でも参加できる。ただし、このままタイムだけを登録させると、性善説にもとづいて行わなければならず、走らなくてもタイムを登録することができてしまう。なので、本当にそのタイムで走ったのかを確認するために、動画で撮ってYoutubeにアップしてもらうことにした。本当にすごいタイムで走ったとしたら、その映像は貴重だし、進学時のスカウティング資料にもなりうるからだ。
自分ひとりで、タイムや動画を撮ることはできない。必ず、ご両親や監督やマネージャーといった、誰かの手を借りることになるし、タイムを出すために、ペースメーカーをつけることもオッケーとした。「タイムを出せたのはひとりだけの力ではない」バーチャレに記録を登録するために、関わるひとをふやすことで、大会とは違う場を創ることができると考えたのだ。
性善説に基づいた手動計測だとしても、適当な計測だと、動画をチェックすれば、すぐにバレる。そこで動画計測をする「自宅計測員」も募集することにした。自宅計測員の役割はストップウォッチで計測しながら動画鑑賞をしてもらうこと。タイム計測だけでなく、ネットを通じた観客となってもらうこと。記録を並べるだけじゃなく、動画があると、その選手の背景までが映し出される。動画のアルバムのようなサイトができあがるはずだ。
当初はインターハイ・全中の代替レースという意味合いが強かったからバーチャルチャンピオンシップという仮称がついていた。しかし、これじゃあ「ばーちゃん」になると、ネーミング会議を行い、「バーチャルディスタンスチャレンジ」バーチャレとなった。ピンと来る方も多いだろう。もちろん「ホクレンディスタンスチャレンジ」が由来だ。チャンピオンシップという名前をとることで、エリートだけでなく、もっと幅広いひとたちに参加してもらいたいという、運営のニュアンスを込めることにした。
仕上げにTwo Laps主力メンバーによる「計測タイムトライアルは面白くなるのか?」を検証する意味でブルックリンバーチャルマイルに出場。その模様を収録。これが、面白かったことに手応えを感じて企画は大きく前進することに。
昨日、横田さんや小林祐梨子さん、卜部蘭選手と、バーチャレの途中経過を振り返ってみた。田母神選手の福島やお膝元の東京ではなにかやろうとは考えていたけれども、ここまで自然発生的に各地で計測会を産まれることは予想していなかった。競技場を借りて、選手を集めて、時間どうりに競技を運営するだけでも手間なのに、今回はコロナ対策も日本陸連のガイダンスに沿って行うことをもとめられている。各地域で開催予定のリーダーには、ガイダンスを徹底するように、リーダーだけのLINEグループも作られ、ホクレンディスタンスにおいて行われていたコロナ対策などの運営ノウハウの共有などが行われている。
このバーチャレ運営を通じて、陸上競技に新たなファン層が産まれていることもわかってきた。走ること、応援すること、支えること。つまり、競技者、ファン、ボランティア(審判)の三角形がこれまで考えられてきた陸上競技への関わり方であった。今回、このコロナ禍で「自分たちで創る」というひとたちが産まれた。「収益を出そうとするから大変であって、お金をかけずに、それぞれができる範囲で手伝えは、自分たちでもレースは作れる」ということに気づいて、一歩踏み出したことが大きい。尾道の大会などもまさにそうだ。
OTTが始まるときも、企画を考えた3人で織田フィールドを借り、「もし赤字が出たら3人で割りましょう」というところからはじまった。
各地の計測会では、すでにたくさんのボランティアたちが動いている。だから、次回、開催するとき、運営はさらにスムーズなものになるだろう。どうやって人を巻き込みながら、広めていくか。課題も含めて、それぞれの地域でノウハウがたまったことに違いない。2020年夏のバーチャレは、「中高生のため」というテーマがあったが、夏以降は、それぞれの地域が新たなテーマをもうけてバーチャレが開かれていけばよいと思う。バーチャレは動き出したばかり、どういうものになっていくかは、創りはじめたひとたちや、そこに出場した人たちが色付けをしていくものになるだろう。
ちなみにOTTがいまのような大会になったのは、第一回のペースメーカーとして走った大谷遼太郎選手(当時トヨタ紡織)が市民ランナーを相手に15分を切る走りで突っ込み、観客を煽りながらペースメークをしたことが大きい。あれがなければ、OTTはもっと「真面目」な大会になっていただろう。だから、埼玉のバーチャレを大谷選手が主催することは、なにか大きな縁のような気がしてならない。(たぶん、本人もそうだろう)
非公認大会だからこそできること。今回は「中高生も真剣かつ、もっと楽しんで走っていいじゃない?」という記録会がたくさん産まれている。いつもの部活とは違うタイムトライアルをバーチャレで味わって、このあとも陸上競技を続けるきっかけとなればいいなと思う。
だから、「バーチャレとはなにか?」という問いに
正確に答えられるひとはまだいないのだ。
そして、バーチャレとはこちら。
運営費は横田真人コーチが自腹を出すことからはじまった。自腹を埋めるためのクラウドファンディングはこちらだ。Tシャツを買うことで中高生の夏を応援してほしい。(意外とクラファンにもっていかれる手数料がバカにならないから)
そして、いまさらであるが、このひとが横田真人コーチである。元800m日本記録保持者でロンドンオリンピック日本代表選手。現在はTwoLaps TCのヘッドコーチだ。
サポートと激励や感想メッセージありがとうございます!いただいたサポートは国内外での取材移動費や機材補強などにありがたく使わせていただきます。サポートしてくださるときにメッセージを添えていただけると励みになります!