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走るという競技

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ついに3種目目に到達。田中希実の800m予選がスタートした。
瞬発的なスピードにおいては他の中距離走者から比べると劣る田中はスタートと同時に最後尾へ。これが800m1500m5000mでのかわらない彼女のスピード。1周目、400mは59秒で通過。おそらく、これは彼女にとってはじめて味わうスピードであっただろう。しかしだ、田中の動きは1500mや5000mのスパートでのそれとは違い、とても力が抜けていてスムーズに入ってきた。力みがまったくないのだ。

田中の持ち味は爆発的なスパートというよりは、同じスピードであれば延々と走り続けることができるスピード持久力にある。1500mのように5000mを走り、いつしか、その延長線上で同じリズムとスピードでフルマラソンまでに距離を伸ばす。というのが、彼女が将来に描く未来でもある。若いうちにこそ伸びるスピードをとことん極めることが、距離を伸ばしたときに活きてくる。同じ1km3分10秒のペースでフルマラソンを走りきるにしても、1km3分で練習するのと1km2分45で練習できる基礎スピードがあるのとでは、余裕度が違うことは明らか。今回の世界陸上では男女トラック、マラソンともに「余裕度」の差がはっきりでた。

田中希実の世界陸上800m予選は2分3秒56組7着で予選敗退となったが、走った本人にしてみれば、手応え以上のものを掴んだ800mとなったようだ。「ようやく800mの走り方がわかったようです」とコーチの田中健智氏。元800m日本記録保持者横田真人さんとの雑談の中で「新谷がいう走っているうちにリズムにハマるという感覚がわからない」と。「800mは3歩でハメなければいけないんです」今回の田中の800mからは横田さんのいう「3歩ではめる」に近いイメージが生まれたのではないかと考える。本来なら1500mや5000mのラストスパートでもとめられるスピードにスタートからスッとはめることができた。「1周目の走り方がわかったのかもしれないですね」と横田コーチはいう。

リザルトやタイムではうかがいしれない変化が田中希実の800m予選でおこっている。だとするならば、5000m決勝が楽しみになってくるではないか。田中希実の復習種目チャレンジは観客やテレビ視聴者にとって、新たな陸上の楽しみ方を提示しているように思う。ウサイン・ボルトがあそこまでのスターになったのは、世陸・オリンピック期間中に100m200mリレーの予選・決勝に出続けてきたからであり、カール・ルイスは短距離だけでなく、幅跳びでも名勝負を繰り広げた。大会期間中、なんどもなんども勝負する姿を見せてくれる。これはそれだけでエンタテイメントなのだ。

田中希実のチャレンジに1種目に絞ったほうがいいのではないか?という声も見聞きする。予選敗退するとわかって800mに出るくらいなら、5000mか1500mに絞って集中したほうがいいという意見だ。それも一理あるだろうが、筆者はそうは思わない。田中希実と父健智氏にとって距離が多少違うくらいで、「走るというひとつの競技でないか」という捉え方のように感じる。

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