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今日の一枚/M高史という生き方

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一枚の写真を選んで、そのあとに、写真とは関係なテキストが続くという「今日の一枚」最近はテキストが写真にひっぱられすぎる傾向にあります。こちらは山口で行われた全日本実業団ハーフ。レース終了後のもの。新谷仁美選手がハーフ終了後、すぐに20kmを走るとあって競技場外の駐車場にいたら、「収容ハイエース」がやってきて、一人の男性が降り立った。それがこちらのM高史さん。目標タイム通りにいけば、競技場あたりで新谷選手に抜かれる予定であったのが、この日は関門を通過できずに収容された。収容車から降り立って、すぐにこの笑顔ができるのはすばらしい。

駒澤大学陸上部の主務でもあった三上高史さんは、あるときから「M高史」という人生を歩みはじめます。最初に人々がその存在を知ったのは、春日部大凧ハーフマラソン。川内優輝選手の地元、春日部に川内優輝のモノマネ芸人として出走。しかも、ユニフォームも「埼王県庁」と、遠目には判断がつかなかったことから、現地は大混乱。そのことが新聞で大きく報じられて、ある意味、下積みなく世に出ることになりました。

当初は走りや顔マネくらいだったため、「出オチ」じゃないか。そうそうに飽きられるだろうと誰もが思ったことでしょう。しかし、最初の大混乱で教訓を得たMさんは偉かった。「ご本人様(と、Mさんは川内選手のことを呼ぶ)」が出ないレースをわざわざ選び、川内選手に迷惑がかかることはしない。その徹底ぶりがすごかったが、この丁寧さがMさんの活動を大いに広めることとなります。

Mさんの追い風となったのはFacebook。フルマラソンを走るような市民ランナーたちは、少し年齢層が高く、よく使うSNSはFacebook。出場した人々は会場で出会った、もしくは見かけたMさんの写真をFacebookにあげていきました。最初のうちはMさんをモノマネの人だと気づかずに、川内優輝選手本人だとアップロードするひとも多かった。

するとFacebookのAIが優れているのか、ビックデータがゆえのポンコツなのか(笑)数多くの市民ランナーが川内優輝選手と間違って上げたMさん写真を次々と「川内優輝」と顔認識するようになっていくのです。Mさんを川内選手と認識した市民ランナーとの2ショット写真は多くの「いいね!」を集めることとなりFacebookのつながりがある市民ランナーたちにどんどん拡散されていきます。

これに気づいたのは川内優輝選手をゲストランナーとして呼べない大会主催者たち。ディズニーランドにミッキーマウスは一匹しかいないのと同じように、川内選手も一人しかいない。毎週のように練習代わりにレースに出ていた川内選手とはいえ、すべての大会を網羅することはできない。川内選手に匹敵するような知名度の選手はいないか?と。

それがいたのです。いつしか市民ランナーのFacebook上では川内選手そっくりさんとして、圧倒的な知名度を誇っていたM高史さんが。世の中ではさほど有名でなくても、いつしか、市民ランナーには圧倒的に知られた存在となったMさんをマラソン大会主催者はゲストランナーとして起用するようになっていく。Facebookの誤認識がプロモーションとなったという稀有な例なのです。

日本中の大会にゲストランナーとして呼ばれているうちに彼は魔法の言葉を手にいれます。それは川内優輝選手のサインの横に書く座右の銘でもある「現状打破」という言葉。彼はこれを拳を上げながら叫ぶと言う最高の持ちネタは多くの市民ランナーを勇気づける魔法の言葉となって浸透していくのです。

あるとき気づいたことがあります。「このひと、なんにも面白いことを言っていない」ということに。やっていることは、ただただ、市民ランナーへの応援でありました。彼には、中途半端なYoutuberやタレントに見え隠れする功名心、打算や野心みたいなものが、全くなく、自分がこれまで世話になったマラソン・陸上への恩返しであったのです。

世が世なら宗教家になっていただろうな。とMさんをみて思うことがあります。この世の中で「現状打破!」と叫ぶ姿はシンプルな念仏のようにも感じるのです。

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ツイッターや「今日の一枚」では掲載するタイミングをうしなった写真やテキスト、これからやってみたいことなどを、ここでこっそりとはじめています。ちょっとびびって月10回と書いてますが、一日10回更新する日もたまにあると思います(笑)情報誌のようなことを期待している方はやめておいたほうがよいかも。ツイッターやオープンなネットとは違ってクローズドかつバズらない場を作ろうと思います。

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月刊といいながら、一日に何度も更新する日もあります。「いつかビジュアルがたくさんある陸上雑誌ができるといいなあ」と仲間と話していたんですが…

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