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2025年まで、よろしくお願いします。と。

世界陸上オレゴンで一番楽しみにしていたのは男子5000m予選。日本男子長距離界にとって高い壁として存在していた参加標準記録をついに遠藤日向選手が突破し、その舞台に立つ。5000m参加標準を切った5月の「ゴールデンゲームズinのべおか」での遠藤選手の戦い方が、これまで日本の数多くの記録会で産まれたような力の勝るケニア人ペースメーカーにお膳立てされたものではなく、自らレースを支配し、最後はケニア人すらも手玉にとるようなレース展開であっただけに、「俺たちの遠藤日向」が世界とどこまで戦えるのか?という期待が高まった。

日本選手権で優勝し、日本代表に選ばれるとすぐに遠藤選手は、これまでの練習パートナーである住友電工加藤淳、吉田圭太選手を伴い、アメリカで高地トレーニングへ。世陸で戦うための強化を積み、時差の影響もなくそのままオレゴン・ユージーンに入り。オレゴンは遠藤選手が渡米してトレーニングを積むバウワーマンTCの本拠地。これまで何年もトレーニングをともにしてきたバウワーマンTCの選手たちも、ユージーンに大集合。見知った顔が集まる国際試合とあって、遠藤選手にとっても、これは追い風になると感じた。さらにホーム感を高めようと、代理人の柳原さんにお願いして、関係者のみなさんに5000mスタート地点3コーナーに集結してもらい、大声援を送ることに。

レーンに並ぶ遠藤選手をみて、「こりゃ、いいぞ」と思った。

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遠藤選手の隣にはバウワーマンTCのWoody Kincaid選手がいたからだ。Kincaid選手の5000mベストタイムは12:58.10。遠藤選手のベスト13:10.69とは差があるが、左端の同じくチームメイトのMoh Ahmed選手(12:47.20)ほどは差はない。そしてこの組にはもうひとりバウワーマンTCのKieran Tuntivate選手(13:08.41)。予選通過は着順5+タイム5。持ちタイム的に着順での通過は厳しい。タイムで通過を狙うのであれば、Kincaid選手あたりがターゲットになる。Kincaid選手は全米選手権10000m走行中、脚にトラブルがでて、レースを棄権。本来ならば代表3着争いにからんでいてもおかしくなかった選手だけに、この5000mにかける意気込みも大きい。

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もひとつあげるなら、Kincaid選手はレースを棄権しても、そのまま3コーナーにいつづけ、バウワーマンTCの選手たちに声援を送り続け、代表になったチームメートにいち早く祝福に駆けつけるような選手。

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陸上競技とは個人競技ではあるけれども、並んでたつ二人からはチームメートとしての空気が漂っていた。

スタートと同時に遠藤選手は何度も振り返りKincaid選手の位置を確認する。

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予選1組目の着順5位は13:24.48。2組目はこれよりも速いタイムで走れば、着順では無理でもタイムで拾われる可能性がある。スローペースになるのを嫌ったKincaid選手は自らレースを作りに前へ。

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Kincaid選手を遠目にみながら流れにのっていく遠藤選手。この流れにのっていけば予選通過は行ける!行ける!3コーナーに陣取った遠藤日向大応援団のボルテージはあがった。

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そして2000m。3コーナーをすぎたあたりでグァテマラのGrijava選手が飛び出して集団が崩れた。持ちタイムは遠藤選手にも近い13:10.09。であるが、これは真夏の東京オリンピック決勝(12位)でのタイム。だから、持ちタイムというのは本当に当てにならない。一見、無謀とも思えるこの飛び出しに選手たちはすかさず反応した。そのとき、目の前でKincaid選手が大転倒する。映像を見返すと、転倒そのものは映っていない。

ターゲットにしていたチームメートの転倒に遠藤選手の心は明らかに乱れた。ここが勝負どころなのか?それとも飛び出したGrijava選手が無謀なのか、瞬時には判断できない。まだレース序盤の2000m。仕掛けるには早すぎる。ここは追うべきなのか?どうなのか?その空白の時間だけ判断が遅れ、集団との差がついてしまう。遠藤の横にスッと現れたのは、はるか後方にいたはずのノルウェーのヤコブ・インゲブリクトセン。前が動き出したのを確認してようやくスイッチが入ったのだ。遠藤選手もスピードアップして集団を追うが、ペースアップするヤコブのスピードについたことで、ラスト1000mまで温存するはずだったアクセルを踏むことになり、遠藤選手は知らず知らずに削られてしまう。ここで勝負が決まった。

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一方で大転倒で大きく遅れただけでなく、身体にも大きなダメージを負ったはずのKincaid選手は、5000m12分台の自力で遠藤をパスし、さらに前を追い続け、最終的には予選通過タイムまで1秒弱の11位まで追い上げた。すごいガッツである。遠藤選手は13:47.07で13位。

たぶん、相当悔しかったのだろうし、頭を整理したかったのだろう。遠藤選手とはオレゴンで話すことなく日本に帰国した。日本に帰国してバタバタと向かったMDC福島には遠藤選手の姿があった。

いつものように楽しんで走る遠藤選手を撮影し、レース終了後、撤収して荷物をあらかた積み終えたころ、遠藤選手がスタスタすたと。こちらにやってきて、オレゴンでは聞けなかった世界陸上の振り返りの話をした。

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