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川内優輝のマラソンひきだし


MGCの記者会見で「注目ポイントは?」という問いに川内優輝はフリップに「過去129回のフルマラソンの経験(130回目のフルマラソンの走り)」と書いた。そのフリップをもち、いつもの早口でまくしたてる川内の姿に場がふっと和んだ。その後の囲み取材の中で川内はその空気を読み取り。「お前のようなロートルが出るまくじゃない」と思われたかもしれませんが。と前置きをしながらも、「大迫選手にはフルマラソンで一回も勝ったことがないので一回くらいは勝ちたいなという思いがあったので日曜日は大迫選手に勝つような走りができれば」とカメラの前で語った。思えば、あそこでスイッチが入ったのかもしれない。そのあと、川内選手をもとに行き、こう話しかけた。「川内さん、レース当日は天候が悪そうですね?」と。するとニヤッと笑って、「バットコンディションは私にとっては追い風です!」これまでのマラソン129戦であらゆる展開、コンディションを経験したノウハウをここでつぎ込むつもりだと。「ボストンのような大逃げもあるか?大阪マラソンではロングスパートも見せたけど?」「いえ、今回は力のある選手が多いから、ああいう走りはしません。状況みながらレースを動かすことにします」前々日の時点では慎重なプランであると明かした。

スタート直前のアップ。雨の中、女子選手よりもゆっくりなペースでアップを続ける川内選手の姿があった。ん。体力を温存させているのか?もしや、なにか企んでる?アップを眺めながらふとあるレースが頭に浮かんだ。川内といえば、2018年ボストンマラソンの大逃げが有名ではあるが、筆者が川内のマラソン脳の凄さを知ったのは、2013年の長野マラソンだ。気温はほぼ0度。雪が降るなかのレース。駒澤大学藤田敦史監督の引退レースでもあった。競技場で向かうバスの中、指導者たちは選手たちに「雪が降っているから前半はアップだと思って抑えていけ」という指示が出ていたのを聞いた川内選手は「なるほど前半は出ないのか。ならば出てやれ」と、スタートから飛び出せるよう、雪の中、ガンガンアップをして身体を十分に温めてからスタートダッシュを決め、そのまま優勝してしまう。前半抑えていけ。と指示を受け、軽めのアップをしていた選手たちはリズムが崩れたまま走ることとなり、次々と脱落。優勝候補だった藤田さんも30kmすぎにリタイアしてしまったあのレースだ。ホテルから国立へ向かう道すがら、そして控室などで、川内選手は至るところで、「前半は抑えていけ」という指示が飛び交っているのを聞いて、頭の中のマラソンひきだしをあちこち開けながらレースプランを練り直していたことだろう。

スタートとともに飛び出す姿をみて思った「長野の再来だ」と。

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