タイムアウト① 白10番

ブザーの音が鳴り両チームの選手たちがベンチへ戻っていく。
選手たちは体中から汗が噴き出し、大きく肩で息をしている。

「よしよし大丈夫だ!まだいけるぞ!」監督が戻ってくる選手たちに声を掛ける。
「コウタ!お前は向こうで少しでも休んで体力回復しておけ!他の奴らは作戦を聞け!」

そう言われた白チームの10番は一人離れた所へ座った。
座ってすぐ飲み物を飲み、大きく項垂れた。

「ちっくしょう……」小さくつぶやいた。
エースと呼ばれるチームの中心選手は苦悩していた。

それなりに仕事はしている、だが活躍は出来ていない。
仲間たちから向けられる期待とは異なる状況に焦りを覚えていた。

「青の7番、あいつ俺の思考が読めんのかよ!」頭の中で叫んだ。

ドライブで切り込もうにも、外から打とうにもあいつのマークが外れねぇ!
外れたところでうまく誘導されている気がする!
どうすればいい?どうすればいい!?俺が何とかしなきゃ負けちまう!
負ける?負けちまうのか!?

後悔と葛藤と焦りが頭を支配する。
コートの空気を重たく感じ、頭を上げることができない。

「先輩!!」
凛とした声が突然頭に届き顔を上げた、視線の先に居たのはユニフォームを着ていない一年生だった。

「先輩は凄いんスから大丈夫ッス!!」
その瞳は煌々と輝き、大きくはない体からは期待と自信が溢れ出ていた。

突然の言葉にコウタは呆気にとられた。
試合に出ていない選手から溢れ出てくる自信が不思議だったのだ。

さらに一年生は言葉を続けた。
「絶対に勝ちましょうね!!」そう言うと右手を胸元の前で強く握りしめた。

一年生の言葉を聞き我に返った。
少し前までの自分は諦めも半分入っていたかもしれない。
負けていない。試合は終わっていない。まだ、負けてはいない。
葛藤が吹き飛び頭がクリアになった。

「ナハハハッ!あたりめぇよ!よーく見とけ!!」
コウタは勢いよく立ち上がり、声を掛けてきた一年生へ返答した。
先ほどまでの空気が嘘だったかのように軽くなった気がする。
「ぜってぇ勝つぞ!!」コウタの声がチーム内に響き渡った。
ベンチの控え選手や応援の選手を含め全員が「おう!」と返答した。

監督と作戦会議をしていた選手たちはその光景を見て確信した。
「この後あいつは大活躍する」と

タイムアウトの時間が終わりを迎える間際、監督は出場選手の一人に声を掛けた。
さっきの作戦は忘れいつも通りコウタにボールを集めろと。

「しゃぁーー!行くぞ行くぞ行くぞぉ!」コウタはコートに向かいながら仲間を煽った。
鼓舞しながら小躍りしているようにも見える。

タイムアウトが終わりを迎え、試合が再開される。

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