コーポエリーゼ管理人

私はコーポエリーゼの管理人をしている。
年を取り一線から退いた私にはちょうどいい仕事かもしれない。

建物周辺、エントランスや通路の掃除をし、ごみ収集が来たら手伝い、集積場の片づけをする。
何か壊れていたり、電球が切れていたら交換する。
その日あったことを日報に書いて報告する。
それが私の通常業務だ。 
管理人業務に就いて数週間、いろいろと板についてきたと思う。

家からほど近いコーポエリーゼ。
自宅からは歩いて5分ほどだ。

私の家は第二公園のそばにある。
子供たちのはしゃぐ元気な声、ときたまやかましいこともある。

「おはよーございまーーす!」
幼くも逞しい大きな声だった、
君はここの住人だったのか、意外と分からないものだ。

おはようございます、行ってらっしゃい。私は笑顔で返答する。
元気の証を背負って駆けていくあの子、
公園で見る限り頼れる親分肌なのだろう。
敷地から出てすぐに「オッス!オッス!」と仲間と合流していた。

「おはようございます。」
元気に挨拶をくれる住人の方々、
「…ッス。」
会釈と小さく挨拶をくれる方々。

もちろん声を掛けてくれない人もいる、
特別気にすることはない。
彼ら彼女らに特別な物を求めているわけではないから。

気になる人を見かけた、
元気だったはずなのに今では元気がない。
最近一緒にいる所を見ないが、果たして?

それを聞くのは野暮というもの、
不必要なことを言わないのが大人というもの。

色んな思いを振り払っていると、
「え!?管理人さん!?」
後ろから驚きの声を掛けられた。
振り返るとそこにいるのは見たことのある顔。

「おはようございます。まさかここの管理人さんやってるとは!」
彼はそういうとお辞儀をした。
世間は狭い。
改めて感じた。
驚きの声とお辞儀をしたのは趣味の仲間の彼だった。

「家が近いのは知ってましたけど、まさかここの管理人をしているとは思いもしませんでした。」
私も驚きだ、あなたがここの住人だったなんて。
一通り最近の趣味事情を話していると「ヤベ!ヤベ!」といって彼は足早に去っていった。

彼の話では他の趣味仲間もここの住人らしい、昔からの付き合いだと言っていた。
本当に世間は狭いものだ。

──エントランスの掃除を終え、集積場の片付けも済んだ。
そのままの流れで紙タバコに火をつけて一息つく。

今日は雲はあるがいい天気だ、
風も気持ちがいい。

「こんにちは」
声を掛けてくれたのは子供を連れたお母さん。
しまった、たばこは火をつけたばかりだ、
消したいけれども、消すのも惜しい。

私は謝った。

「気にしないでください!全然大丈夫です!」
彼女の言葉に素直に甘えさせていただこう。

「これから少し遠くの公園まで遊びに行くんです。」
彼女はそういうと子供の目はより輝きを増したように思えた。
気を付けて行ってらっしゃい、楽しんでと言葉を交わし、
彼女は自転車の支度をし走り去っていった。

通路の掃除も終え、詰め所で日報も書き終えた。
さて、そろそろ今日の業務も終了という所、
「こんにちはーー!ただいまーーー!」
朝の元気な逞しい声がした。

おかえりなさいと声を掛けると、
「イェーーーイ!」ともとれる返答をし部屋に入っていった。
と、思いきや、
「てきまーーす!」とすぐに出てきた。

少し重いであろう元気の証から解き放たれたあの子は元気そのものだった。
「いってきまーーす!」と声を掛けながら私の前を駆け抜け、
公園方向へと走っていった。

周囲は元気の証を背負った子たちが歩いている。
その流れに逆行して走り去るあの子、
おそらく公園一番乗りといった所か。

詰め所を少し片づけ、鍵を掛け、帰路へと着くとしよう。
帰宅中の子ども達と挨拶を交わしながら家へと向かう。

もう公園はお祭り騒ぎだ、
明日もいい日になるだろう。


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