アイスの代償
朝、「サーティーワンのアイスが食いてえ」と思うやいなや、私は外がどんなに暑かろうと近所の商業施設に行くことに決めた。
近所といえど、着るものにも気を付けたい。少し前までなげやりでずぼらになっていた私も、そんな気遣いを楽しむぐらいには元気になった。
今日は夏らしい、薄くて光沢感のあるひらひらした水色のスカートを履いていこう。
自転車で向かった。熱い日差しも自転車のスピードに乗ってかすめる風がさわやかで気持ちが良い。
商業施設に到着してから、ついでにこまごまとした消耗品も買おうと思っていたが、その目的もほどなく達成したので、いそいそとサーティーワンの行列に並んだ。
サーティーワンのアイスはいい。なんてったって見た目が遊び心いっぱいでかわいいもの。
ただそのイメージに惹かれても、いつも注文するのはジャモカコーヒー(ただのコーヒー味、でもめちゃ美味しい)一択だったりする。
しかしラインナップを眺めると、いつのまにかその派生としてナッツなどが合わさった「ジャモカコーヒーファッジ」なるものがあったので、今回はそれにしてみた。一層楽しみじゃないか。
おっと私は店内で食べるのではない。家に帰って、ゆっくりと味わいたいのだ。持ち帰りの包装をしてもらう。
店から家までそんなに時間はかからない。30分までという指定なら無料のドライアイスがつくそうだ。それで私はじゅうぶんだ。
受け取って駐輪場へ向かう。あれ自転車どこに停めたっけ。うろうろする。おい、ドライアイスがなくなるぞ。いや、まだ大丈夫だろう、と心の中の私たちが少しおしゃべりになってきた。
あった。良かった。このタイミングなら全然平気だよ、あとは帰ってアイス食べるだけだ!と、私たちはうきうきしながら自転車へ飛び乗った。
ところが。日曜日なのでそういえば車道がいつもより混雑しているなあ・・・と渋滞気味の車を横目に見たそのとき、私の自転車は急にブレーキがかかった。
薄いひらひらのスカートが自転車の後輪に巻き込まれたのだ。
巻き込まれたスカートによって、私は姿勢を崩した。スカートが後輪に引っ張られすぎて、本来腰で止まっているはずのスカートのゴムがずり下がって、パンツが見えているのではないかというほどに。
おいおいやめてくれよ!!!よりにもよって渋滞気味の車道の横で!!!うわー!!!と、心の中の私たちがふたたびにぎやかになりつつも、メインの私はその場で気配を消す術を発揮しながら、どうしたらこの問題を解決できるのか考えることに集中した。
まあ単純に「後輪をバックさせつつスカートをひっぱって少しづつ抜くことを繰り返す」しかない。
とにかく!!一番の問題は!!!パンツを車道の人にさらすことよりも!!!!この作業に時間がかかればかかるほど、サーティーワンのアイスが溶けてしまうことだッ・・・!!!!!
なぜか楽しみで買ったはずの愛しきアイスが、炎天下にまるで時限爆弾かのように心をいたずらに急かす存在になった瞬間である。
スカートは後輪に思ったよりも食い込んでおり、かなり焦った。
パンツが!アイスが!パンツ!アイス!と心の中の私たちがうるさかったが、なんやかんやで多分2~3分ぐらいではずすことができた。
良かった。
ほっとして気が緩んだ私は即座にこれネタにしようと思った。
マスクに隠れた口がにやついていたが、振り返ると気持ち悪い。
渋滞気味の車道を、何事もなかったかのように進む。
そして。
さっきと同じ状態に1分も経たずしてなってしまった。
なんという、愚かしさ。
しかもさっきよりスカートの巻き込まれ具合が深い。
同じ作業を少し試みて、私は思った。
「さっきよりスカート履いたままでは身動きに制限ありすぎて、状況は深刻。これ、外せんかもしれん。」
心の中の私たちも、え・・・?なんなん、自分。馬鹿なの?これからどうなるの・・・?もしかしてスカートを脱がないと駄目なやつ・・・?まさかアイス溶かしてパンツ丸出しエンド・・・?うそでしょ・・・?と、虚無を映した顔で皆フリーズしていた。
それから。歩道にしゃがんで自転車の後輪をぐいぐいしている一人の中年の女を見つけたご婦人が、大丈夫ですか?と声をかけてくれまして。ご婦人だけでなく、おそらく娘さんと、その彼氏(旦那さんかも?)もいらっしゃって。協力して頂いて。ええ。はずして助けてくれました。
お礼に何かしたかったけど、アイスを渡すのも状況によっては迷惑になるだろうし、結局ひたすらありがとうございますと伝えることしかできなかった。
アイスはどうなったかというと・・・無傷だった。
今冷凍庫にしまってある。
だからといって、とてもじゃないが今日はハッピーな気持ちで君を味わうことができない。味に自分の愚かしさが前に来すぎるから。
アイスは明日食べよう。でもきっといつもよりほろ苦い味がすることだろう。(・・・と、なんとなくうまいオチのとりかたをしてみる)
やぶけたスカートを見ながら、自転車の見栄えが多少かっこ悪くなっても、巻き込み防止カバーを取り付けることの重要性を学んだ出来事であった。
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