信じているものは何(22)
望みの洗礼
再度精密検査を行った。
もう、父はその説明を聞く席にはつけることが
出来なくなっていた。
母と妹と一緒に医師の説明を聞きました。
医師
「骨の転移があったので、肺も調べてみましたが、
やはり肺にも転移が見られました。」
私
「・・・そうですか」
医師
「痛みも増しているようなので、モルヒネの量を
調整します。本人と家族の同意をいただきたい
のですが。」
私
「父に確認してご連絡いたします。私たちは
先生にお任せします。」
私は、そのとき、もうあまり、時間がないことを悟りました。
何か父にしてあげる事はないだろうか?
私は考えたと共に、後悔もした。
元気なうちに、もっと親孝行をしてあげればよかった。
体の症状の変化があったときに、もっときつく言えば
よかったと。でも、考えても時間は戻らないので、頭を
切り替えた。
父から私は、信仰という素晴らしい賜物をいただいた。
私は父の過去は知らないが、父からキリスト教を
教わったが、父はプロテスタント、私はカトリック。
私は、現世で出来ることは、来世に希望を持たせて
上げることぐらいしか出来ないと思いました。
「そうだ、父はプロテスタントなので、せめてカトリック
の洗礼を授けて、同じ所へ行ってもらおう」と思った。
しかし、父は動けず、寝たきりになっていたので、
行くことも出来ないので、どうしたらいいか、神父様に
相談したところ、
「望みの洗礼を授けることができますよ」
と言われた。
信者であれば、誰でもキリストの名において洗礼を
授けることができることをきき、出来るかどうか
わからないが、やってみようと思った。
これは、相手の意志がなければ成立しないことと
同時に、受け入れる気持ちがなければいけなかった。
不思議な体験〜旅立ち
何日かして、母と交代し父の看病をしたとき、
父の容態がすこぶる良いことがわかった。
意識がはっきりしており、痛みも少ないということで
父は「ベッドを起こしてほしい」といった。
電動のベッドで、私は上半身を45度程度に起こした。
迷わずチャンスだと思い、父に切り出した。
私 「父ちゃん、聖書の出てくる人で誰が好き?」
父 「ん〜、誰かな、マタイかな?ヨハネかな?」
「なんでや?」
私 「父ちゃん、俺な、父ちゃんとおんなじ所に
行きたいんやけど、カトリックに改宗せえへん?」
父 「カトリックか、あまり好きやないな」
私 「・・・(汗)
「でも、キリストは信じるやろ?」
父 「ああ、信じるよ」
私 「じゃ、おんなじやん、一緒になってもええやろ」
父 「ははは、まあええよ」
私 「ほんと?じゃ、お父さんはマタイ〇〇(名前)やね」
私はまたとないチャンスだと思い、一気に進めた。
私 「父ちゃん、キリストを信じますか?、俺と同じ
カトリックの洗礼を望みますか?」
父 「ああ、」
私 「御父と御子と聖霊との御名によって
あなたに洗礼を授けます」
そう言って、聖水を額に少しつけた。
その後、疲れが出てきたのか、ベッドを戻すと
すぐに眠りにつきました。
そして、その数日後に、ほぼ父と意思疎通が困難に
なってきている中、目を開け病室の隅を見てこう言った。
父 「ああ、あの人、あの人」
私 「え?なに?だれ?なに?」
父 「来たよ、あの人が」
私 「誰が来たの?」
父 「キリス・・・」
私 「キリスト?」
父 「ああ、あの人、」
私 「誰?」
父 「3人いる」
そう言うと、父はそのまま眠ってしまった。
一体誰だったのでしょう?
キリストと言いかけたような、感じだったが
それ以外にも居て、3人ほどいたようなことを言っていた。
私は、天からの迎えなのか、励ましなのか、わかりませんが
父には何らかの存在が見えたのでしょう。
それが父との最後の会話でした。
病室は8Fでした。
その病院では8Fは、余命が短い患者が入院するとか。
そういう噂も耳にしてました。
さらに数日後、痩せ細った父にモルヒネの注入機械と
栄養剤注入の点滴が痛々しかった。
そして、家族が集められた。
心音をとる機械に異変が見られた。
急遽、管が通され、延命装置らしきものが取り付けられた。
その日は少し安定しており、翌日の夜にまた異変があった。
そして、医師と看護師が処置を行ったのち
主治医が口を開いた。
「ご家族の方ですね、今の容態は、自力で呼吸することが
できない状態です。
今、モルヒネを投与してますので、
眠っておりますが、モルヒネが切れると痛みで体が動き
出します。
しかし、この延命装置によってお父様は呼吸をしております。
でも、肺の状態から考えてもあと数日です。
この、装置のスイッチを切るか、延命しながら待ちますか?
今、薬で眠っている状態ですので痛みもなく最期を迎え
られます。」
とても複雑な決断でしたが、家族で相談し、電源を止めてもらう
ことにしました。
しっかりと、父の最後を看取ることができました。
私の信じる存在が、私の前から消えていった瞬間でした。
・・・。
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