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Dr.ヒロのおさらい心電図No.7

Q:波形な~んだ?

▶X/Twitterに公開:2023/10/13

https://x.com/ekagemaster/status/1712601136006643837?s=20

67歳,女性【おさらい心電図No.7】

おっ~っと,これはR-R間隔が整(レギュラー)かつ3マス未満(マス:5mmサイズの太線枠)ですね。

われわれ日本人風だと,

Narrow QRS tachycardia(QRS幅の狭い頻拍)

という表現になります。皆さんは普段なんて呼んでますか?

ちなみに,欧米圏の人々は何かと「NCT」って略するんですよね。NとTは“そのまま”(narrow/tachycardia)ですが,真ん中のCは「complex」だそうです。たしかに「QRS→QRS-complex」と表記してある本もあるなぁ。いずれにせよ,ボクたち日本人にはチョー・わかりづらい(笑)


そんな呼び名の話は脇に置いといて,この心拍数135bpm・narrow QRS tachycardiaを考えて下さい。

P波が見やすいとされるV1だけ見てしまうと「洞頻脈」にも見えなくもないのですが,これは早合点です。I,II,aVFで陽性なはずの洞性P波は見られません。「心房細動」でも「洞頻脈」でもなければ,基本的には「心房粗動」か「発作性上室頻拍」(細かいメカニズム云々は省略)の2択です。

実践的な考え方としては,心拍数が150bpm付近ならば最初に「(通常型)心房粗動」を考えます。これは鉄則。現実にはピッタリにはならないので,±30bpm(20%)程度の幅を持たせてOKです(120~180bpm)。

今回もそれに該当しますし,そんなとき次に見るべきは下壁誘導(II,III,aVF:“ニサンエフ”)とV1のP(心房)波です。IIIなどはかなりギザギザしており,波形がスーッと滑らかな「発作性上室頻拍」の線は最初からなしで結構です。

今回は“ノコギリ刃”(鋸歯状波)も明瞭ですので,「心房粗動」(atrial flutter; AFL)の診断ですね。今回のように心房(P)波がII,III,aVF:下向きに加えて,V1:上向き,V6:下向き,途中過程で2相性を経つつ移行していくパターンは「通常型」(英語ではcommon<typicalが頻用)で三尖弁周囲を大きく旋回するマクロリエントリーであることが知られています。
なお,肢誘導では,I,aVLなどは“垂直方向”に該当するため,心房波はフラットなことも多いとされます(本例ではaVLは目立ちますが...)。

三尖弁一周≒0.2秒(200ms)≒300bpm(心拍数換算)とされるため,何回に1回という「○:1」の(房室)伝導様式ならば,心拍数が300の約数となることもナットクですね。不思議ですが,150bpm(2:1伝導),75bpm(4:1伝導)などの偶数比がソドー(粗動)のお好みのようです。

以上,「疑いを確信に変えよ」の精神で房室伝導比2:1の心房粗動を診断しました!


正解:心房粗動 Atrial flutter

【診断基準】
についてまとめました!

心房粗動(2:1伝導)

今回の心電図では,房室伝導が2:1で固定(一定)であったため,R-R間隔は整(レギュラー)でしたが,症例によっては他の伝導比が混在し,R-R不整を呈するケースもあることは知っておくべきです。「心房粗動が“常に”R-R間隔が整」だというのは妄想です!

ちなみに今回の患者さんは過去に心房細動アブレーションを受けており,施設によりますが,施術に際して心房粗動の治療も行ってくる場合があります。
三尖弁輪下大静脈間狭部の伝導再開か,そもそも焼いていないかのいずれかでしょうが,いずれにせよ心房粗動が臨床的に認められたため,何らかの対策を講じる必要があります。この方は「心房細動」も再発しましたが,“2回目”(2nd session)を嫌がったため,薬物療法が選択されました。

粗動レートが270bpm(135bpm✕2)とやや遅めなのは,不完全焼灼や抗不整脈薬(ベプリコール〈bepridil〉)の影響などを疑えば良いと思います。


by えかげますたぁ|Dr.ヒロ|杉山裕章
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