自動車昆虫論

世田谷を散歩していて「自動車昆虫論」という言葉が浮かんだ。アリ塚の研究についての記事を読んだ後だった。

シロアリが創るアリ塚は、ひとつの生命のように緻密にデザインされている。内臓のようにいくつもの機能に別れた部屋があり、キノコが共生し呼吸を担い温度や湿度を一定に保っている。どうやってシロアリはこのような複雑なメカニズムを構築したのだろう?彼らは自分たちが巣のどの部分の建造を担い、それが全体にとってどのような意味を持つのか把握できるような、高度な知性を持っているというのだろうか?

ハーバード大学でロボット工学を専門とするラディカ・ナグパル(Radhika Nagpal)教授は、シロアリの行動を脳に例えている。個々のシロアリは考えるというより反応しているだけだが、集団レベルではある意味周囲の環境を認知しているように振る舞う。同様に脳では、個々のニューロンが考えているわけではないが、そのつながりの中で思考が発生する。− 巨大なアリ塚を築くシロアリの集合精神

個体を取り出して観察しても、その知性の在り処はわからない。複雑な計算を可能にする高度な知性は、シロアリが「群」となったときに現れる。それが「群知能」と呼ばれ研究されている、個体の認知を超えた領域にある強力な知性の在り方である。

群となったときにひとつの生命のように振る舞う在り方を、「人間」と「道具」それぞれに当てはめて世界を捉え直したとき、驚くほど簡潔に私たちの文明構造を記せることに気がついた。

それは自動車において象徴的に現れている。大地をくまなく覆うアスファルトは一体誰のための構造物なのだろう?どこへ行っても目に入る自動車たちは、個体は(まだ)知性を持たないものの、群として高度な知性を発揮しているのではないか?2017年において、昆虫としての自動車は蛹のような中間状態にある。AIが搭載され運転が人の手を離れたとき、彼らはアリの群と同様に、渋滞のない美しい自律的交通網を築き上げるだろう。

蟻間(ぎかん)距離とでもいいますか(笑)。アリは必ずバッファ、ゆとりを確保しているんです。なぜアリにこんな知恵があるのかと考えると、進化の過程で常に壮大な実験をやっていて、うまく適応したやつだけが生き残ったからじゃないかと。− 渋滞学の第一人者・西成活裕教授が解明した「渋滞を解決する方法」
TeslaのCEO Elon Muskは、「人々は車の運転を法律で禁止するかもしれない、なぜなら危険すぎるから」と公言して世界を驚かせた。20億台の時代遅れの車両が走る今、無人走行車への完全移行には20年近く必要だろう。しかし、ワシントンDCのEno Center for Transportationによると、部分的な普及によっても、米国だけで年間2万1000人の命を救うことができる。われわれ全員、人間による運転を2030年までに禁止する努力をする必要がある ー 自分たちの命がかかっていると思って。さもなければ、2000万人の人々が不必要に亡くなっていく。− 車の運転はもうすぐ違法になる

「道具」の群をひとつの生命として捉え、その歴史を振り返ってみよう。彼らは人の手を介しながら進化を続けてきた。彼らを進化させるロジックは非常にシンプルで強力なものだ。実際に彼らの振る舞いを決定しているのは私たち人類の集合的な意志なのだが、そこに「代替」という命題があるのだ。

「道具」の進化を加速させる栄養素として、金融というテクノロジーがある。貨幣が人間の関係性の構築(信頼承認)を代替しており、私たちにとって「社会に出る」とは、数字によってコミュニケーションを取ることを意味する。そしてこの金融経済のもとに、産業の機械化つまり労働の代替が進んでいく。工業化時代の次は情報科学の時代で、それはインターネットとアルゴリズムが知性を代替することを意味している。そしてすでに入口に差し掛かっているのが、人体を代替するトランス・ヒューマニズムと、現実そのものを代替するヴァーチャル・リアリティの時代である。

「道具」は私たちの「代わり」に生きようとしている。それが私たち人類の望みだから。

しかし、本当にそんなことを私たちは望んでいたのか?

「道具」がどのように発展しているか、あなたはご存知だろうか?その進化の最前線を追いたければ、最も資本が動いている業界を知ればいい。それは個人や企業を相手に商売をする産業ではく、国家を相手にする産業である。この文章があなたに届くのも、その産業が開発したテクノロジーによる。

軍需産業だ。

いま一度「道具」と「人間」をそれぞれひとつの生命体として捉え、その生態を見てみよう。「道具」が「人間」を退けながら「代わり」に育っていく様は、カッコウの子育てを想わせる。個々のメカニズムではなく、群としてのメカニズムを捉えたときに浮かび上がる輪郭は、私たちが「道具」に宿した意志を雄弁に物語っている。

仮親は、カッコウの卵とは気づかず自分の卵といっしょに温め続けますが、カッコウのヒナは短期間で孵化するため他の卵より先に生まれることが多く、生まれたヒナは、他の卵を自分の背中に乗せて全て巣から落としてしまいます。こうして仮親が運んでくるエサを独り占めし、自分だけを育ててもらうのです。カッコウのヒナは成長すると仮親より大きくなりますが、仮親は献身的にエサを与え続けます。− 日本の夏を告げる鳥「カッコウ」
NHKニュースによると、2017年度のアメリカの軍事費は、海外での対テロ軍事作戦など臨時の支出を除き、総額はおよそ5500億ドル(約60兆円)。− トランプ大統領、軍事費6兆円規模増額の方針 「歴史的拡大だ」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?