「三度目の日本」堺屋太一著 感想文

 今回は堺屋先生(すでに他界、ご冥福をお祈りいたします)の遺作になる「三度目の日本」についての感想を述べさせてもらいます。堺屋先生の視点の斬新さや日本に対する愛情の深さに大きく感銘をうけました。私自身の理解を深めるためにも、いくつの論点を整理し、私なりの考えを加えておきます。

 堺屋先生が本書の中で、最も重要な論点は、一つの社会の発展において、一番重要な「基」は価値観であります。人々はその価値観によって、目標を立て、努力をします。しかし、いずれその発展が外部または内部の壁にぶつかり、立ち行かなくなる際、改革者が現れ、新たな価値観が作られます。その価値観の下で、人々もう一回、前に向けて前進する力を得られます。

 今の日本はまさに三度目の改革が必要とされる時期です。

 近代日本の“一度目”は幕末の時期で、江戸時代の価値観が「天下泰平」、世の中の体制をなるべく変わらない事が一番と思っています。しかしそれが黒船の到来によって、開国つまり今までと違うことをやれという要求を強いられました。うまく対応できない幕府をよそに、薩長土肥の改革者は「富国強兵、殖産興業」という新しい価値観を挙げられ、日本を明治維新という新時代に引っ張り出しました。“二度目”の変化は日本が第二回世界戦争に負けたあと、アメリカの占領軍のマッカーサー将軍の指示のもとで、吉田茂首相が打ち出した「効率」と「安全」と「平等」というまた新たな価値観で、戦後の方々が夢をもって、新日本の構築に努力し、世界の二位の経済大国までに上り詰めました。しかし、90年代から明らかな経済における行き詰まりと人口減少に伴い、「失われた30年」になったのは皆さんもご存じの通りかと思います。

 そして、次に“三度目”の改革に必要な価値観は「楽しい日本」だと堺屋先生が喝破しました。その「楽しい日本」の本質は今の旧勢力の代表である官僚たちが固持している信念の反対面で、以下の5点が上がれました。
  1.東京一極集中ではなく、地方のオリジナリティを出し、地方創成
  2.流通の無言化ではなく、コンミュニティの再構築
  3.小住宅持ち家主義ではなく、東京に頼らない地方を再構築
  4.職場単属人間ではなく、副業や柔軟のキャリア構築
  5.全日本人の人生の規格化ではなく、楽しさや自由さを認める

 私も一部堺屋先生の観点に賛同しますが、以下の2点については疑問を持っています。
1. 本書の中にも書いていましたが、日本の発展は基本世界の工業革命の波に乗って成長してきました。しかし、これからの第四次工業革命ではいわゆるAI革命の際、ビックデータとマシンパワーと頭脳が勝負の肝になるので、それは現時点よりいっそう一極集中の方向に向かわないとできないような気がします。いわゆる日本版のGAFAを作らないと、アメリカや中国にはまず勝てないと私は感じています。
2. 今までの2回の改革はいずれもアメリカという外敵がありました。戦争という一番強烈な刺激であり、人々の命まで落とすまでになったからこそ、改革のコモンセンスが作られてきました。しかし、いまの時期で日本にそこまで圧力かけてくる外部要因は非常に想定しにくい。改革が起こる要因が見当たらないというのが現状です。

 疑問は残しつつ、大変勉強になる本でした。機会があれば、また堺屋先生の本を紹介したいと思います。

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