コマクサ(駒草)
コマクサと言う、高山植物をご存じだろうか。
ほかの高山植物が生えることができないような稜線の砂礫地を好んで生える孤高の花で、高山植物の女王とも呼ばれている。この花を見る事を楽しみに山に登る方も多い。
草丈10cm程までに成長するコマクサだが、それまでには苦労を要する。
先にも述べたように、高山植物の女王の雄姿をカメラに収めたいという登山者は非常に多い。一歩でも花に近づきたいという衝動で、砂礫の中に足を踏み込む人が少なくない。踏み込まれた場所は窪みになって雨が降ると雨水が流れ込み、成長過程のコマクサは流されてしまうとの事だ。
自然の美しさを求め、高い山に登りながらも、ちょっとした心無い行動が、自分の求める愛すべき自然を壊していることに気づいている人はどれ程いるのだろう。
こうしたことは、人間関係においても言えることだと思う。
例えば自分が何かに悩んでいたとしよう。気にかけてくれるのは有難いことなのだが、他人の懐にずかずかと入り込み、その人の心や気持ちを荒らすだけ荒らして、本人は平然としている。
たとえそこに悪気が無かったとしても、当人にしてみればたまったものではない。
僕は距離感と言うものを大事に生きていたいと思う。
人それぞれ自分の中に持っている、物差しの目盛りは異なるものだろう。だからあまり自分の尺度を相手に推し過ぎる事は、自分と相手との関係においてとても危険なものになりかねないと思うのである。
飛び越えることが出来る川であっても、飛び越えてはいけない、踏み込んではいけない向こう岸と言うものは確かに存在すると思う。
それが自然であっても、対人関係であっても同じなのだとつくづくと感じるのである。
コマクサは、無事に成長できれば、地下に1mもの根を張るという。だからこそ他の植物が生える事のない砂礫地という厳しい環境の中でも、美しく自分自身を花咲かせることが出来るのだろう。
敬愛する夏目漱石が詠んだ俳句に、「菫ほどな 小さき人に 生れたし」と言うものがあるが、僕自身も小さくとも自分の花を懸命に咲かせる事の出来る人生を送りたいと願うものである。
山に登りコマクサを目にする度に、そんな事を考えさせられる。
2022.04.12
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