久野 英太郎

久野 英太郎

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カッパドキアから次の街へ ―自分で決めるということ

バスが速度を落とすのに気付いて目が覚めた。数人の乗客が降りる準備をし、バスは雨のターミナルに滑り込んでいく。窓の外では、鼻筋の通った男の子が両親と抱き合っている。名残を惜しむように何度もお別れを告げ、ステップを上がって前の席に座った。窓越しに手を振りながら、今度は電話をつないでさよならを言っている。 昨日まで一緒だった女の子と別れて、僕は一人で長距離バスに乗っていた。カッパドキアへのバスで出会ったパキスタン人エンジニアの女の子だ。予約していたホステルがたまたま一緒だったから

    • シリア人の友だち ―東京に暮らす幸運について

      イスタンブールでは、アヤソフィア大聖堂にほど近いダウンタウンのホステルに泊まっている。1段ベッドが並ぶドミトリー、1泊30リラでだいたい900円くらいだ。屋上の共有スペースで深夜までどんちゃん騒ぎをしているのが玉にキズだけど、立地も良くて日の当たる気持ちのよい部屋だ。 トラムも走るメインストリート沿いのそのホステルは、1階が観光客向けのみやげ物屋になっていて、シリア人のにいちゃんがトルコ石の指輪やシルクのスカーフを売っている。 彼と話したのは、安くて美味いメシ屋を聞くため

      • 雪のモスクワ空港 ―僕たちがとらわれているもの

        目が覚めて外を見るとぼたん雪が舞っていた。17時にモスクワ空港に着いたときはまだ降っていなかったから、夜中に降り始めたようだった。着いたときには既に真っ暗だったけど、朝の7:30に飛行機が出たときもまだ真っ暗。 寝袋にくるまって、9時間熟睡した。敷き布団がわりの借りたブランケット、お気に入りのシュラフ、アイマスクにマスクに耳栓。ダウンジャケットを詰めたデイパックを枕にして、盗られるものは何もない。体を折って椅子で寝ている人、床に座り込んでいる人、せわしなく通り過ぎる人。床に

        • 腹のうちを覗くとき

          生まれて初めて胃カメラを飲んだ。 鼻から差し込まれたのだから、厳密には飲んだわけではないけど、喉を通っていくこの感覚は飲むという表現がふさわしい。 食事制限による低血糖と軽い麻酔で、看護師や主治医の声はずいぶんと遠いものに感じられた。世界が遠のいていくようなディジーな感覚って日本語ではどんなふうに言うんだっけと考えていた。 胃カメラはおもむろに差し込まれ、医者はするすると釣り糸でも垂らすようにすべらせていく。夢うつつの意識のなかで、喉やお腹にカメラがぶつかるのを感じる。そ

        カッパドキアから次の街へ ―自分で決めるということ