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小説『これが僕のやり方』――⑥僕の友達

(前回:小説『これが僕のやり方』――⑤夜未知、おかまいなし。

「うぅ、うう、うううぅー……」
 僕は痛くて泣いた。目をつむっても涙はこぼれた。
 気持ちはそろそろ大人になったつもりでいたけど痛いとまだ泣いてしまう。

 僕は絶対に目を開けない。
 開けたら夜未知が僕を嘲り笑って見下ろしているにちがいない。

「うっ!」

 僕のお尻に衝撃。蹴られた。そして僕は悟る。
 これは僕に痛みを与えるための蹴りではない。僕の心を折るための蹴り。
 キモいんだよ、と夜未知の声がしたかと思うと、イスに座ったみたいだ。
 朝のチャイムが鳴ると、さすがに僕も立ち上がって席に着いた。

「なんかあった?」
 朝礼でやってきた担任の斉藤先生は教室の変な空気を察してクラスに訊いたが誰も返事をしなかった。
 朝礼が終わると1時間目は移動教室でクラスメイトが次々と教室を出て行く。
 夜未知とその他が出て行ったのを確認した大塩正憲が僕の席にやってきた。「どうしたぁ?」

 正憲は僕の数少ない友達で、小学校も一緒だった。仲良くなったのは中学2年のクラス替えがあってからだった。
 背は僕と変わらないくらいで160センチ前半。いつも角刈りで前髪は上を向いていた。歯並びが悪く、前歯は二枚重なっているようになっていた。その歯並びのせいで給食の後は必ず歯を磨く。
 正憲が僕に向かって最初に発した言葉が
「あいつらうざいでな」
だった。
 正憲の視線の先の「あいつら」とは夜未知とその他とかわいい女子のことだ。
 僕は、初対面のクラスメイトに人の悪口を言ってくるなんてこいつはクズだなと思った。思ったが、
「下品。あいつらなんて雨の日に限って傘を忘れればいい」
 正憲は目をらんらんと輝かせた。 
「段田くん。僕たち親友になれるで!」
 初対面のクラスメイトに親友なんて重い言葉を浴びせてくるあたり、こいつは友達いねぇなと僕は思った。思ったが普通の友達にはなれるかもしれないとも思った。

 その正憲が僕を心配していた。
「最近変だと思っとったけど、妙に左手かばったりイメージが足りんとか言ったり。さっきのは、スカッとしたような気持ちにもなったけど、段田くんが蹴られたらむしろムカムカしたわ。
 俺にできることないかもしれんけど、悩みがあったら相談して」
 僕は久しぶりに純度の高い優しさに触れた気がした。
「ありがとう。気持ちが固まったら言う」
「いつでも言ってくれ」
 と正憲は笑顔になる。複雑な歯並びのせいでその笑顔はなんとなく不潔だった。


つづく

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