大学構内に植えられている大木の周りを、半円を描くように大股で歩く。僕は、左手は包丁を握る感覚、右手は彼に繋がる糸を手繰る感覚で、拳をしっかりと握りしめ、徐々にスピードを上げる。一方彼は、にへらと笑いながら緑鮮やかな木の周りを、軽やかに走っている。何がそんなに面白いんだ。 目の前で、バタン、バタン、また一つ、一つと、扉が閉まって行く音が、異様に大きく煩く聞こえる。いま、私にはそれが、耳元でガシャーンとガラスを、誰か悪意を持った人間に割られている音に聞こえている。今すぐこの場か
冷蔵庫にチルド室ってあるじゃないですか。 私が小さい頃 夏休みによく遊びに行ってた祖母の家の台所にね、マグネットなんかが沢山ついてる、少し古びた冷蔵庫があったんですよ。 開けると上の方の大人の目線のあたりに、よくあるカバーがついた引き出しみたいになったチルド室があるやつ。 それで、そこにいつも、ちっちゃい真っ黒くて中身が見えないバターケース？みたいなのだけが、ぽつんと置いてあってね。それが物凄い臭かったんです。いや、なんていうか、正確には酢の物みたいなのの強烈な臭いが、周りの
