【感想小説】うたう少女のグリザイユ by BouQuet*

本作は、BouQuet*さんのCD『うたう少女のグリザイユ』の感想です。
感想と言いつつ、感想を言葉にできないもどかしさを誤魔化す為に、小説テイストにしています。
基本的にフィクションですが、作中には一部実在の人物やサービスが登場します。
これらの人物やサービスと作者は一切関係がございません。
本作はあくまで感想であり、販促や宣伝目的ではありませんので、何卒ご了承ください。
Twitter 2018年03月03日投稿作品
※元ツイートは削除予定

「ねね、これ! これ聴いた?!」

あれは半年前、秋が深まり、冬の足音が聞こえ始めたある朝の出来事。

「……ちょっと落ち着こうか? まずは「おはよう」だよね?」
「あ、おはよう! でねでね、これなんだけどね!」

うん、だから、まず落ち着け?
とはいえ、この子がこんなに興奮しているなんて珍し……くもないか。

「って、聞いてる?!」

思わず話も聞かずに観察してしまった。

「あ、ごめん。今日のパンツは赤だって?」
「違うよ!? なんでパンツの話!?」

友人は少しムッとした様子だったけど、すぐにまた相好を崩した。

「これ! もう聴いたよね!? 超いいよねー! うたザイユ最高!」

え……っと?

「それどこのヴェルサイユ?」

聞き返さずにはいられなかった。
変なのはいつものことだけど、やっぱりこのテンションはおかしい。

「まさか買ってないの? もしかしてチェックしてないの!?」
「貴女の常識、私の非常識って言葉知ってる?」

その場の造語だけど、わりと的確な気がするぞ。

「私たちのシンクロニシティは本物だと信じていたのに!」
「それどこのBouQuet*よ……」

ん? BouQuet*?

「そう! BouQuet*さんの新譜! tone color paletteさんとコラボしたやつ!」
「ちょ、ちょっと待って。tone color paletteって、奏月すいむさんのサークルだよね? それこそ、BouQuet*のジニアを作曲「そう! その奏月さん!」

最後まで言わせてもらえなかった。

「で、新譜? うたザイユ?」
「そう! 聴いた!?」

いやー、ここまでの流れでは聴いてないよねー?
今日は一体どうした。

「新譜って確か『うたう少女のグリザイユ』……あー、最初と最後で『うたザイユ』ね」
「そう! まさにうたザイユなの!」

それはさすがに意味がわかんないかなー?

「えっと」

えっとが多いな、今日の私。

「『モノクロの街でうたう少女と色彩を巡る物語を、3曲の歌で彩る』だっけ。タイトルに『グリザイユ』で、2曲目が『音色コロリアージュ』だし、雰囲気そんな感じ?」
「そんな感じ! なんだけど……何ていったらいいのかなぁ……そんな感じじゃない! ううん、そんな感じ!」
「どっちなの?!」

あれー? 普段のボケとツッコミが逆転しちゃってるよー?
今日は本当に一体どうした。

「クロスフェードは聴いたし、欲しいとも思うけど、そんなに?」
「そんなに! あのね? うたザイユはフルで聴いて欲しいの。うたザイユはフルがいいの!」

そうなのか。
この子がここまで言うんだから、相当な良作なんだろうな。

「奏月さんって、曲も素敵だけど、弾いてみたの最後でカメラの下の方に向かってかわいく手を振ってるイメージがあ「あれ、かわいいよねー!」

お小遣い……を心配する程の価格じゃないし、何だったら他の作品も欲しい。
でも、これから物入りで、懐が寂しくなるしなぁ……。

「うーん……」

悩んでいると、いつの間にか本鈴が鳴っていた。
予鈴いつ鳴ったの?

「えっ、まだコートも脱いでないのに! また後でねー!」
「はいはい」

その日は結局、休み時間の度にうたザイユの感想を滔々と聞かされた。

そして、春−−。

「え、もう在庫僅か? しかも再販予定なし?!」

バタバタしててうっかりしてた。
お財布の中は……寒い! いつにも増して寒すぎる!
このまま買わなくても後悔はきっとしないだろうけど。
でも、ものすごくもったいない気がする。
これはもう直感。
よし、買っちゃえ!

私は半ば勢いでBOOTHを開き、ログインに躓きつつも何とかうたザイユを購入した。
ログアウトしてひと息つく。
何となくTwitterを開いたら、BouQuet*の如月梢さんのツイートが。
全身筋肉痛? いや、もしかして、もっと悪かったりする?
何てタイミングで注文したんだ、私。
如月さん、ごめんなさい……。
そんな中、迅速にご対応くださり、本当にありがとうございました。

勢い余って住所も間違えてたんだよね、そういえば。
運送屋さんも忖度?してくれてありがとう。
何の問題もなく届けてくれました。

さて、と。
あの子があれだけ推してたんだもの。
少なくても間違いはない。

私は疾る気持ちを抑えつつ、音のチェックの為に、ザーッと通しで聴いてみた。

「……え。何これ? どうなってるの?!」

もうザーッと聴くどころではなく、2周目3周目と聴き入っていく。
3曲の歌? いや、もうこれ、3楽章からなる舞曲だよね?
しかも何このエンドレスエイト。いや、エイトではないけど。
このリズムで曲が破綻してない? いや、嘘でしょ?

舞曲って言ったけど、じゃあ踊り付きで観たいかと問われれば、答えは否。
だって、もう視えてる。
音で世界が彩られていく。広がっていく。
場面転換に向けての音の重ね方。楽器の選び方。変拍子による緩急の絶妙さ。
その舞台の上で、華麗に舞う2人の歌姫。
聴けば聴く程に惹き込まれていく。ただただ音に満たされる。

これはテーマパーク。
さながらメリーゴーラウンド。
ひと時の夢。

どれくらい時間が経ったのか、気づけばあの子が目の前で手を振っていた。

「おーい。あ、やっと帰ってきてくれた」
「?」

思考が追いついてこない。
どうして貴女がここにいるの?

「ん? もしかして忘れてる? 遊びに来いって言ったよね?」

あ、そうだった。そうだったね。
すっかり忘れてたよ。

「ところでさ、うたザイユ聴いてたんだ! どう? どう?」
「どうって……何これ!? すごい! 何てもの作ったのあの人たち!」

ようやく出てきた言葉がそれか。
日本語不自由か。
秋のあの日の立場が逆転してしまった。

「うんうん、わかるよー。そうなっちゃうよね。聴いて、感じる。それでいいと思うな」
「あ、でも、ひとつ確かなことがある」
「何なに?」
「この曲、演奏する側になったら詰みそう」
「わかる」
「わかってくれる?」
「うん、わかる。でも、生楽器のライブで聴いてみたいよね」
「わかる」

秋に色づき始めた世界は、モノクロの冬を越え、カラフルな春にその幕をいったん閉じた。
次の物語を紡ぐ為に。