第二話 【案中予報】
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VRC環境課
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[環境課-整備/開発室-] AM 5:00
「自動販売機の修理、ですか?」
かなり早い時間に呼び出しを受けたと思えばそんなことを言われて少々困惑気味だ。
「ぱぱって行って直してくんない?」
手渡されたメモに書かれていた場所は市街地であり、ともすれば通った事がある場所かもしれなかった。
「それは構いませんけど、これも環境課の仕事なんですか?」
「環境課の仕事だよ、間違いなくね」
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[市街地-自動販売機前-] AM 5:30
「あれ、タチバナくんも?」
「椛さんに言われて来たんですけど」
肩に担いだ鞄を下す。
開いた口の隙間から見えたのは真新しい警棒や分解された銃器の部品であり、この場所には似つかわしくないものばかりだった。
「ここであってますよね?」
二人が視線を向けるのは【整備中】と表示された自動販売機であり、側面には【鬼瓦】のロゴが見て取れる。
「IDカードを当てるんだっけ」
決済用の読み取り部分に環境課のIDカードを近付け、短い電子音と共にロックが解除された。
機械制御された筐体がゆっくりと開き、その内側には飲み物を補充するべき部分の更に奥。
中にはスタンブレード用の予備バッテリーと警棒がいくつかと携帯食料が10セットほど、そして今回持ってきたパーツと同じものが陳列されていた。
「なるほど……。それで備品管理の業務なのか」
携帯食料の期限を確認し、問題が無かったのでそのまま戻す。
バッテリーを含めた備品を一通り交換しようとして、物品が取れない箇所が一つあった。
「アルくん、ここが引っかかっちゃってる」
「あー、変形してますね」
持ってきた工具で軽く調整すればすんなりと交換が終了した。
再びIDカードを読み取って、筐体が閉じたのを確認したところで二人のデバイスに作業完了の通知が届く。
「これで終わりかな」
「ですかね?戻りましょうか」
やはり【整備中】の表示のままであるが、これは元々そういうものなのかもしれなかった。
「せめて内容とか説明あっても良かったと思いません?」
「まあ、それは確かに」
二人は短くぼやきながら来た道を戻る。
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[市街地] AM 11:00
日が高くなり、雲が差し掛かる頃。
「時期も時期だっていうのに、なんでこんなに暑いんだか……」
自動販売機で買った缶コーヒーはまだ冷たい。
暦の上では秋と呼ばれるはずの季節であるが、気温はまるでそんな素振りを見せてはくれない。
道行く人はどこか薄手の格好をしており、衣類を販売している店は一度下げた服を再び店頭に並べるなどで凌いでいる様だ。
「暑いで御座るなぁ」
そう答えるのは上下をしっかりとスーツで着込みながらも汗一つかかない四角い顔の男性だった。
「本当にそう思ってます?」
「うむ、まだ冷凍菓子が美味しい季節故」
判断基準そこなんだ?と思うが口には出さず、巡回を続ける。
ふと視界に入ったのはやけに明るい色調のポスターだった。
『この状況からでも入れる保険があります!』
空と自然を基調とした背景の中央には粉砕された義体部品が描かれている。
「どういうセンスだ……」
センスはさておいて、ポスターに書かれている文面はかなりの好条件である様に思えた。
「ここまで粉砕されているのに後から保険適用可能とは思い切ったことをするで御座るな」
「いやここ」
指差した先に小さい文字で書かれていたのは【このような状態では適用出来ません】の一文であり、看板に偽りが有り有りだった。
なんとも微妙な空気が流れ、それを変えたのは武内の問い掛けである。
「ナタリア殿はどの程度義体化を?」
「……セクハラでは?」
「あ、いや、それはその、誠に申し訳ない」
慌てて頭を下げる姿に小さく吹き出してしまう。
「冗談ですよ。そもそも義体化ってどういうものだと思ってます?」
「肉体を部分的に機械に置き換える技術で御座ろう?」
腕や足のみならず内臓や眼球など、凡そ脳以外がその適用範囲であるとされており、一般で施術可能な範囲には限度がある。
機械化された右腕を撫でながら、
「その認識で大体合ってると思います。ほとんどの場合は欠損した部位や外科手術などで対応出来ない部分の代替として処置されるんですよ」
その言葉の意味を理解し、
「私のはそういうのじゃないですけどね」
肩を透かされた気分になる。
「費用面ではどの程度かかるので御座るか」
「片腕でこのくらいです」
提示された額面に四角い顔が激しく震えだす。
「そ、そんなに!?」
「身体能力という意味ではかなり向上しますし、怪我をしても部品交換で繋いでいけますから悪くは無いトレードだとは思いますよ。ただ、無暗に人に勧められるものだとも思いませんが」
それは金額面でも、別の面でもだ。
「義体をスムーズに動かす為には少なからず電脳化する必要がありますからね」
「電脳化で御座るかー」
「そっちの説明は私じゃなくてボパさん辺りに聞いてください」
少し話し込み過ぎましたからね、と言いつつ立ち上がり―――
「ふむ」
空気が緊張感を伴う。
まばらだった人影が更に少なく、明らかに何かを避けている様な。
視界の先、街の大通りを進むのは見慣れない神輿だった。
装飾は緻密かつ繊細であり、その全てが手作業によって行われている事が見て取れる。
しかし二人の警戒を高めたのは引くのはそれを担いでいる集団だろう。
先頭を歩く数人のみは整えられた衣服を着ているが、それ以外のほとんどが薄汚れた布をまとっているだけである。
「あれは何で御座ろうかな?」
「どう見ても面倒事でしょう……。一応確認を取ります」
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[環境課-管制室-] AM 11:20
「神輿……ですか?」
通信を受けた少女は見たことのないそれに困惑していた。
『データベースにログが残っていないか参照してくれないか』
「分かりました」
ワード検索―――対応件数は万とちょっと。
条件を絞り込む―――数千まで減らす事が出来た。
祭事を外し―――ここからは目で追いかけた方が早い。
「これ、かな?データ送ります」
金属や塗料による装飾が無く、装飾の身が行われた木製の神輿。
それは移動用の台車であるとされて、何が運ばれているのかは記載されていなかった。
「あれ?」
ページを下にスライドしたところで関連性のありそうな単語が目に入る。
「えーと」
見たことのない単語であり、読み方が分からず首を捻るが早々に諦めてページを移動した。
下へ下へとスクロールして、ある部分で指が止まる。
疑問と、焦りと、ほんのわずかな後悔と。
それは呼び出しの声で掻き消えたが、視界の隅に移る文言は消えず。
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【案中予報】
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