【Safety Firts】

[解体現場] AM 10:00


「……多くね?」

ガメザが見上げているのは廃棄された鉄塔の群れだ。
配電線を外された姿はどこか不気味であり、役割を終えたそれはある意味死骸の様でもある。

「フーケロちゃん、これどうすんの?」

ここまで送り届けてくれた課員に礼を伝えるのもそこそこにして、駆け寄ってきた少女の腰には工具の詰まったバッグが携えられている。

「まず上まで登って配線関係の部品を取り外します。その後は鉄骨をバラしながら下へ下へ、という感じです」

「根本からこう、ガッてやらねえの?」

「やっていいの!?」

久々の課外業務に若干テンションが高い小玲が乗っかり、二人に聞こえるように小さく溜息を吐いた。

「やりませんし、やっちゃ駄目ですからね?」

安全策に取り付けられた扉を開き、鉄塔の足の内側から螺旋を描く階段を登っていく。
途中途中の踊り場には解体した鉄骨を置いていくスペースが設けられていた。

「ねえケロセンパイ」

「何ですか?」

「どうしてガメザクンもいるの?」

「今更かよ」

といっても本人も良く分かっていないのである。
狼森から言い渡された【課外業務への同行命令】によって一週間ほどの鉄骨解体作業への従事と相成った。

「今回は結構力仕事になりますからね。投げ落とす訳にはいきませんし、運ぶ手はいくらあっても困りませんよ」

「荷物運びって事?」

「まあ、そういうことになりますね」

顔を顰めそうになったが、

「体の調子はまだ戻っていないんでしょう?」

フローロの指摘がそれを押しとどめた。
先日の無人掘削機を止める為に行った新型Harpeのフルパワーが未だに尾を引いているのは事実だからだ。
全身の関節の軋みに始まり、筋肉の発熱に伴う吐き気にも似た不快感、不意にぶり返す鈍痛の様な。
チンピラ程度ならば難なく対応出来るだろうが、本来の意味で処理係としての役割を果たすには心許ない。

「退屈かもしれませんけど、これもお仕事ですから」

「ケロセンパイ、何からやるのー?」

「あ、はい。今から説明しますね」

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「一日目にしては悪くないペースですね」

日が暮れてきた頃に一本目の鉄塔が半分ほどの高さになっていた。

「一週間で三本の解体を見込んでいるので、明日から少しずつペースを上げていきましょう」

「はぁーい……」

なんだかんだで体を動かし続ける作業であり、また作業内容から常に気を張らなければならない事も疲労の原因だろう。

「小玲、積んである廃材をスクラップ入れに運んでもらえますか?無理に多く持たなくてもいいですからね」

「分かった!」

まるで聞いていない様に両手で抱えられるだけ抱えてふらふらと歩いていく。
十分にその背中が離れたのを見て、隣のガメザだけに聞こえるように小声で話しかけた。

「本当は根元から切断することも出来ますし、その方が楽なんですよ」

「だよな」

「だけど目立ち過ぎますし、危険も伴います。公共性のある業務に関して言えば周りに合わせる必要もありますしね」

例えば三人が全力で解体業務に取り掛かれば一日で全ての鉄塔がその姿を消すだろう。
それが人力によるモノだとして、周囲からどう見られてしまうか。
どう扱われてしまうのか。

「面倒くせェなぁ」

「課長に心配かけたり、怒られたりするよりはいいでしょう?」

それに、と付け加えて。

「まずは調子を戻す事が第一ですよ」

「わぁったよ。……つーかフーケロちゃん小言多くね?」

「何か言いました?」

張り付いた笑顔。

「何でもないでーす。俺も捨てにいこ!」

廃材を抱えて走り、小玲とすれ違い様ににやりと笑ってみせた。

「やるかー!?」

先ほどより多くを抱えて向こうの背中を追いかける。

「転ばないでくださいねー」

聞こえただろうか、どちらでも良いのだが。
携帯デバイスを取り出して配送係へと通話を繋ぐ。

「フローロです。予定より早く終わりそうなので、迎えにきてもらってもいいですか?はい、お願いします」

通話を切って、

「フーケロちゃんも来いよー!」

「ケロセンパーイ!」

更に予定より早く終わる確信。

「ふふ」

この後何を食べに行こうかな、なんて考えたり。


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【Safety First】

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