【Break Shot】
乾いた炸裂音と共に放たれた白球が身を寄せ合うカラフルなそれらを一撃のもとに打ち砕く。
乱反射しながら、転がりながら、低く響く音を伴って奈落へとその足を滑らせた。
「ふぅ……」
自分の手が引き起こした結果を前に小さく息を吐いて、再び構える。
「ドべさぁ」
横合いから待ったをかけたのはつまらなさそうな表情のガメザだった。
「俺の番来なくね?」
「そういうゲームだ」
二人がプレイしているのはビリヤードと呼ばれるもので、細かいルールは割愛する。
――ゴトン、と音を立てて狙われた一球が落下する。
「それに先手番は譲ったじゃないか」
力加減せずに放たれたブレイクショットは全ての球を恐ろしい勢いで弾いたものの、落ちたのは白のみというあまりにもあまりな結果だった。
――ゴトン、と音を立てて狙われた一球が落下する。
「つまんねぇー」
実際外野が干渉出来ることはなく、ただただ自分の番が回ってくるのを待つことしか出来ない。
ベンチに浅く腰掛けたまま背中を預け、行儀悪く足を伸ばす姿は全力で退屈を物語っていた。
――ゴトン、と音を立てて狙われた一球が落下する。
残るは白と⑨が刻まれた二つのみ。
「どの強さで、どの角度で、どう当てれば、どう動くかは不規則じゃない。全て計算の通りに成立する」
鋭い視線は真っすぐにポケットに向けられて、キューの先端に添えられた左手は微動だにしていない。
右手を引いて、前に押し出す。
「ックショイ!」
――ゴトン、と音を立てて狙われた一球が落下する。
一拍。
――ゴトン、と音を立てて弾かれた一球が落下する。
ファウル。
「お前……」
「いやわざとじゃねーよ!」
そこはかとなく漂う申し訳なさそうな雰囲気に小さく舌打ちをして、しかし下ろしかけたキューは再び緩く構えられた。
「もう1ゲームだ」
************************************************************************
【Break Shot】
************************************************************************
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?