夕日影:母を失った少女の前にしゃべる犬が現れるだけの話
母が死んだことが悲しくないと言えば嘘になるけれど、溢れる涙は期待できそうになかった。
長い黒髪を縛って料理をする母の背中も、笑うと右頬にだけ浮かぶ笑窪も、記憶には鮮明に残っていた。その姿を見ることは二度とないということも理解していた。それでも、私の中に満ちている感情は胸を締め付けるような悲しみではなく、ぽっかりと穴が開いたような喪失感だけだった。確かにあったものがなくなってしまったことを教えてくれる、大きな喪失感。
もうすぐ日が暮れようとしていた。
山間に半分ほど姿を