君が眠っている間に:愛を囁くだけの話
「課長、こっちこっち」
本田がきつねうどんを持って席を探していると、彼の名を呼ぶ声がした。食堂の喧噪の中でもよく通る声は、間違いなく熊谷理沙のものだった。
無視をする理由もないので、本田は手を振る熊谷の席まで行き、隣へ座った。
「聞いてくださいよ」と熊谷が言った。「こいつ、彼女に一回も愛してるって言ったことがないんですって」
そう言って指さした先に、優しげな顔立ちをした青年がいた。見覚えがあった。熊谷とは同期で、営業部だったはずだ。
「いったいどういう話になってるんだ?