天使と海を見に行こう:人はなぜ海を見に行くのかを考えるだけの話
「私は天使です」
と、彼女が言った時、彼はマンションの十二階の通路から飛び降りようと、手すりに体を持ち上げたところだった。
ぽかんと見返す彼に、彼女は無表情のままで続けた。
「あなたは明後日の午前九時に死ぬことになっています。私は、あなたが死ぬのを見届けに来ました」
それから首を傾げた。首元まで真っすぐに伸びた黒髪が風に揺れるさまの、その幻想的なほどの美しさに、彼は息を呑んだ。
戸惑いながら足を下ろし、君は死神かと、彼は訊いた。彼女はこう答えた。
「間違ってはいないの