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Hebraicum受験体験記

こんにちは。見習い古典学徒です。2020年7月28日にルートヴィヒ・マクミリアン大学ミュンヘン(LMU)プロテスタント神学部のヘブライ語能力試験(Hebraicum /ヘブライクム)にNote 1*で合格しました。ざっとネットで見た限り、Hebraicumに関する日本語の記事はほぼ皆無なので、どこかの誰かが万が一見るかもしれないと思い、ここに簡単に体験記を書こうと思います。

*ドイツの大学の成績評価において9割以上得点という意味。ちなみにLMUのNotenschlüsselはここから閲覧できます(PDF注意)。

はじめに

そもそもHebraicumとはなんぞや、と言う方も多いはず。簡単に言えば、GraecumLatinumのヘブライ語版(この記事では聖書ヘブライ語のHebraicumを扱います)を指します。大雑把な言い方をすると、ギリシア・ローマの古典的教養を重視する伝統に加えてキリスト教文化圏であるドイツにおいて、大学で学ぶ上で古典ギリシア語・ラテン語・ヘブライ語それぞれの語学能力を証明する試験です。かつては哲学・歴史・法などの学問領域で大学に進学するために必要でした。今日でも、言語学や歴史学、文献学、特に神学の領域で修士課程以上の進学を考えている場合は必要になったり、修士課程の修了を持って合格と認められる場合もあるようです。詳しくは、ヴュルツブルク大学のウェブサイトが参考になるでしょう。人文系では特にラテン語はどの学問をする上でも素養程度の能力は必須ですし、神学のように古典ギリシア語やヘブライ語ができないと話にならない領域で深く学びたい人にとって、これらはある意味実用的な試験とも言えます。

⒈ Hebraicumを受けるためには

基本的には自身のヘブライ語能力を証明してほしい大学にアプライします。各大学の神学部にヘブライ語コーディネーターの教授がいるので、受験する意思があればメールすることも良いでしょう。一番手っ取り早いのは、当該大学の開講しているヘブライ語のコースに参加することです。私は週2回計2時間・通年のコースに参加しましたが、夏季集中講座や半年間で基礎文法を終えて試験準備するコースも存在します。なお、その場合はほぼ毎日1時間は授業があるため、予習復習や試験勉強のことを考えれば、他の科目に割ける時間は限りなく少なくなります。ちなみに私がお世話になったLMUの教授は、「神学部の学部生は大抵2セメスター[=1年間]を使ってHebraicumとGraecumの準備をするから大丈夫!(ニッコリ)」と言っていました。

⒉ Hebraicumの概要

以下の情報は、ミュンヘン大学プロテスタント神学部のHebraicumの情報ですが、おそらく他の大学でも概要は一致すると思います(カトリック神学部のHebraicumは強変化の動詞7形の把握度合いを問うもので、これまでLMUで落ちた人はいないとかなんとか…)。

試験は①筆記試験②口述試験の二部編成です。

①筆記試験

筆記試験ではBHSの本文(中級程度の散文)で10節程度(14−15行)の本文の翻訳と、本文中に出てくる弱動詞(Verba Primae Nun / Jod / Waw / Aleph, Verba mediae geminatae, Hohle Wurzeln, Verba tertiae Infirmae, Hištaf'elなど)の語形分析が10個程度です。試験時間は3時間で、Geseniusの辞書のみ持ち込み可です。

②口述試験

口述試験ではBHSの本文(中級程度の散文)がランダムに数節選ばれ、音読および翻訳が評価されます。Qames ChatuphやQereを間違えずにスラスラと読めるか、数詞・誓約文・条件文・結果文などがしっかりと訳せるかが検定されます。知らない単語があれば試験官が教えてくれますが、基本語彙などを訊きすぎると当然減点されます。その後、①で挙げた弱動詞の変化表がしっかり頭に入っているかが10問程度問われます。(例:קומのQal, Nif'al, Hif'ilのInf.cs.を述べよ。)試験時間は20分程度で、すぐに総合評価を教えてくれます。

さいごに

以上見た通り、Evangelisches Hebraicumに受かるためには、1)基礎文法(特に弱動詞の変化や文法規則の把握)、2)基礎語彙Ernst Jenniの教科書に記載されているものだとLektion 1-14までの全単語、高得点を目指すためには巻末の1500語)を習得する必要があります。得点率はNotenschlüsselによれば6割以上は必要でしょうが、詳しい基準はよく分かりません。あと必要なものは、ほかの古典語と同様、忘却を恐れない根気でしょうか…

かなり簡単にですが、ここまで読んでくださった方はHebraicumの概要がわかっていただけたのではないでしょうか。試験に頻出する箇所(=ヘブライ語初等文法の上でつまづきやすい項目)の文法解説や、具体的な試験対策教材や方法などについて、気が向けばまた記事を執筆したいと思います。

読んでいただき、ありがとうございました。


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